第13話
「姐さんよお、無理だぜ、それは」
「知ってるぅ」
ヴァシリッサは不機嫌そうに、不機嫌そうな年嵩の冒険者と話していた。
どちらも一歩も譲らぬ……というより、冒険者がなんとかヴァシリッサのご機嫌をとろうとして、次第に自分も機嫌を悪くしたようだ。
数名が呆れたように乾いた笑い声を上げる。
いつもよりも幾分、薄い空気の中で、ニーカはおろおろとしていた。こんなにも機嫌を損ねたヴァシリッサを見たのは久しぶりだ。
……はぁと、ニーカまで不機嫌になりそうだった。
案内所の扉が開いたのは、そのときだった。
「ヴァシリッサ、愉快なことになってんなぁ」
思わず、あっと声を出してしまう。
ハーヴェイ・ダレンス、……流しの傭兵団を率いている、ヴァシリッサの腐れ縁。
ニーカはやつに苦手意識を持っていた、一筋縄ではいかないような、何か、深いというより仄暗い部分が見え隠れしている。冒険者とは違う、……人間を相手にしている者に特有の、独特の雰囲気なのか、それのせいでか、一歩、引いたところから近づくどころか動きたくなくなるのだ。
「ハーヴェイ……なぁに」
「あんた来てたのかよ、……悪ぃが、人手が足りねぇでも、さすがにあんたらに回せるもんでもねぇぞ」
ヴァシリッサと冒険者は、結託したように冷たくハーヴェイを睨んだ。何処吹く風だと、ハーヴェイは笑う。
「補佐くらいならできるさ、人型相手だ、変わらねぇだろ」
「……そぉ?」
ハーヴェイの言葉に、ヴァシリッサは表情を揺らがせる、だが冒険者はさらに不機嫌に眉間の皺を深めた。
「ふざけんな、あんただけならまだしも連中と一緒に仲良しこよしでお手て繋いでゴブリン狩りのピクニックなんざ行かねぇぞ!俺だけじゃなく、他のやつらもだ!」
吐き捨てるように叫ぶ冒険者に、ハーヴェイは無感情的に応える。
「なるべくおとなしくしとくよう、手網は握っとく。……仕事は仕事だろ、あんたらいちおう、ちゃんと冒険者してんだろ、そこは信頼してる、……うちもそれは同じだ」
「……人狩りと同列か、随分、俺たちゃ偉くなったな」
冒険者は忌々しげに鼻を鳴らすと、ヴァシリッサに向き合った。
「……とにかく、こいつらが出張ってくんなら、行かねぇってやつも出るぜ、どうせ」
ヴァシリッサは複雑そうに眉間を捏ねると、はぁ……と、呆れていた。
「どっちもそんなに変わんないのにぃ……小競り合い好きだねぇ、ゴブリンとも仲良くできそうじゃなぁぃ……?」
とんでもないことを言い出すもんだと冷や汗が背中を伝った気がしたが、ハーヴェイも冒険者も、気にしていないようだ。
ピリピリとした、落雷のあとのような、いやな感じが満ちる。
……そんな中、深い声が流れた。
「あの、それ……よければ、俺が引き受けましょうか……?」
声の主に気づいた瞬間、その場にいた誰もが思った。
ーーいつから、ここに居たんだ?
柔和……というか、頼りなさげな黒髪のおっさんが、控えめに手を挙げていた。




