24.公認
きゅっと唇を結んでいると、ふと視界がセオルの顔でいっぱいになった。
相変わらず顔がいい。
セオルはふっと微笑んで「そんなこと」なんて何の気なしに言う。
『大事なことでしょ』
「そう?取るに足らないことだよ」
『由緒正しい伯爵家の跡取り問題が?』
「うん」
セオルの手が私のベッドをポンポンと叩く。
促されるまま腰かけると、セオルはその向かいの椅子に座って、まっすぐ私を見据えた。
「あのね」
『うん』
「もしもアメリアがこのまま身体を動かすことができないままだったとしたら」
『……うん』
「数年内に籍を入れて、うちに越してきてもらうことになってるから」
『……うん??』
「子どもはまぁ、自然の流れに任せるとして」
『自然の流れ?』
「ほら、体の機能としては問題ないし。君がどうしても嫌だっていうなら、無理強いはしないけど」
『……?……はぁ?!?!』
さっきから何を言っているんだ、コイツ。
大体そんなの伯爵夫妻が許すはずーー……
「ちなみに、両親の承諾は得ているから。好きにしろって」
『は??親までイカれてんの?』
「お、火力強いね」
『あ、ごめ』
「褒めてるからだいじょーぶ」
いや、親をバカにされて褒めるなよ。
そもそもなんでそんな馬鹿げた将来が受け入れられてんの?
え、全部コイツの妄想??
「跡取りは最悪、親戚筋から引っ張ってこれるからね。そしたら早期引退して、早めに隠居生活送るのも悪くないな」
『親戚って』
「そこそこ優秀な子がいるみたいだよ」
『いや、でも直系が』
「俺がアメリアじゃなきゃダメだって、うちの親は理解してるから」
きっぱりと断言されると、本当にそれでいいのかもしれないなんて、邪な考えに支配されそうになる。
私はプルプルと頭を振って、必死に邪念を追い出す。
『わがまま言って困らせてるんでしょ!あとになって変なわだかまりになっちゃうから』
「そんなことないよ。うちの親も、アメリアがお嫁さんになってくれるのを楽しみにしてるし」
『こんな身体の嫁を喜んで受け入れる親がいるわけないでしょ!!!』
自分で言ってて悲しくなってくるけど、事実だから仕方ない。
伯爵夫妻には、小さい頃からお世話になっていたからこそ、余計に。
「そうかな?母上はアメリアのためにって、今せっせと枕カバーを作ってるけど」
『……は?』
「寝たきりになったって知らせを聞いたからさ、お出迎え用に寝具に力を入れようってことになって」
『枕カバー?』
「いい夢が見られるようにって、今3枚目に刺繍入れてる。色とりどりのお花のやつでね、君の得意な花吹雪の魔法に似てるから、気に入ると思うよ」
『えええ…………?』
「父上はオルゴールを収集してて」
『な、なんで』
「寝たきりでも聴覚は残ってるケースもあるらしいって聞いたみたいで、部屋に山積みになってる」
『うわぁ』
すごい斜め上方向に気遣いされてる。
記憶の中の厳粛そうな伯爵夫妻のイメージとは結びつかず、嘘ではないかと思わなくもないが、こんなまっすぐな目でズレた嘘をつくだろうか?
「信用できないなら、明日いっしょにうちに来る?肉体から離すのは心配だから、肉体ごとになるけど」
『え゛』
「大丈夫、ちゃんと帰してあげるから」
『い、いい!!信じるから!!』
「そ?よかった」
この身体で外出なんて、冗談じゃない。
しかもこの男なら、なんやかんや実行してしまうだろうから恐ろしい。
正直まだ半信半疑ではあるものの、受け入れられていると言われると不安よりも安堵のほうが勝った。
でも、本当にいいのだろうか?
世間一般的には相当な有力株であるこの人を、私なんかが縛り付けても。
元気な頃でさえ、格差婚だなんて陰口を叩かれることがしょっちゅうだったのに。
とくにセオルが異例の早さで出世し始めて以降は。
「じゃあ、これからは毎日ってことでいい?」
『何が?』
「俺とおしゃべりしてくれるの」
『え、ま、毎日?』
「うん。かわいい顔を眺めてるだけでも幸せだけど、俺欲張りだから話もしたい」
あまりにストレートだ。
断る余地もなくて、私は『なるべく』と呟くので精一杯だった。
「うん、約束ね」
『約束……』
「ありがと。嬉しい」
あれ、なるべくって言ったよね?
なんか変な言質を取られた気がするけど、まぁいっか。
考えることを諦めて、うっとりと自分を見つめる瞳から目をそらした。




