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110.安堵

『いつ生まれるのかなぁ……。ロザリーに似て可愛いだろうなぁ』

「リリー赤ちゃん好きなの?」

『小さい子って存在が天使じゃない?』

「俺にとってはリリーが天使なんだけど」


 何言ってんだこいつ。

 そう喉まで出そうになったが、義父母がこの場にいることを思い出して踏みとどまる。

 でも、お義父さまとお義母さまが揃って頷いているのは、私とセオルのどちらに同意してのことなのだろう。


「あの、じょ、状況が呑み込めないのですが」


 恐る恐るといった口調で、レイドが言う。

 うっかり存在を忘れてしまっていた。

 セオルに軽く説明を頼んだが、信じがたいという顔をしている。


『あ、じゃあ裏門での密会はなんだったの?奥の手だの手段を選んでいられないだの言ってた。もう引き返せないとか、こんなことしたくないとか、怪しい会話をしてたじゃない?』


 騎士団を味方につけて、何かを企んでいるような様子だった。

 こんな姿を見てロザリーを疑う気にはなれないけれど、気にならないとも言えない。


「実は……義父に結婚を反対されておりまして」

「父はお腹の子は諦め、彼とは違う男性と結婚するよう言うのです」


 16歳のロザリーに対して、レイドは30歳。

 レイドはロザリーよりもその父に年が近い。

 大事に育ててきた愛娘を年嵩の男にやるつもりはない、というのがロザリーの父の言い分なのだそうだ。


 婚姻前の妊娠は珍しいことではないが、体裁が悪いと気にする者もいる。

 そこにも触れ、ロザリーの父は結婚を承諾してくれないのだという。


 国の法律では、年齢を問わず子の結婚には家長の承諾が必要になる。

 家長と事実上の絶縁関係にある場合や、すでに故人の場合はその限りではないが、それを証明しなくては婚姻は認められない。

 しかし特例として、聖職者が後見人となれば家長の許可がなくとも婚姻を成立させることが可能だ。


「じゃあ、いろいろ怪しいことを言っていたのは」

「すべて父のことです」

「騎士団がどうこうと話していたのは?」

「どんな結果になっても応援してくれると。――紛らわしい物言いをして、大変申し訳ございませんでした」


 ロザリーとレイドがそろって頭を下げる。

 ほっとして、全身の力が抜けたような気がした。


 セオルがこっそり「よかったね」と耳打ちをしてくれる。

 こくりと頷くと、セオルが目を細めた。


『お父様から働きかけてもらったらどうかな?』

「ん~~」

「アメリアちゃん、それはダメよ」

『だめ、ですか?』

「ええ。貴族の命に平民が逆らえると思う?命令のつもりがなくとも、そう感じちゃうわ」


 お義母さまに窘められて反省する。

 命令されて結婚を認めても、快く祝福することはできないだろう。

 それどころか、より確執を深めることになるかもしれない。


「あの……お嬢様はなんと……?」

「応援しているそうですよ」

「あ、ありがとうございます……っ!」

「でもこれは私から」

「はい?」

「年の離れた男の元へ嫁がせたくないというのは、子の幸せを願う親として理解できる心情です。みだりに反対しているわけではない、その親心も汲んで説得するといいでしょう」

「は、はいっ」


 聖職者を後見人にすると、家長の同意なくとも入籍できる。

 しかし、それは形式上、家族との絶縁を意味する行為でもある。

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