不思議な友人
藤乃 澄乃さま主催、「冬のキラキラ恋彩企画」参加作品です。
繭子には不思議な友人がいる。
狐の耳とふさふさのしっぽを持つ、大きな体のくせに人見知りで気弱な、お菓子を作るのが得意な山の神だ。
月に一度だけ、満開の花の中で一緒にお茶をする。
彼の作ったお菓子を食べながら、他愛のない話をして過ごす。
たったそれだけの関係。
恥ずかしそうにうつむきながら、落ち着いた声で静かに話す。
不思議で美しいその友人が繭子はとても好きで、一緒に過ごす時間がとても大切で、他の誰より何より、本当に大好きだった。
彼と出会ったのは春、4月の終わり。
初夏がもうすぐそこまで来ている、桜通りの青い葉と、道路に横たわる花びらの薄い色が季節の切り替わりを告げる、そんな頃。
通学途中の道で拾った椿の花に誘われて、繭子は春の花が咲く深い山の中にいた。
椿が豊作なのだと。
そう言った彼の優しい笑顔をいつも思い出す。
多分、もうあのときには心を奪われていたのだろう。
人見知りで気遣いをする彼は、慣れないうちは少しどもりがあって、よく顔を赤くしてうつむいた。
繭子が話すのを優先させてくれて、いつも楽しそうに相槌を打つ。
よく動く頭の上の狐の耳も、ふさふさした大きなしっぽも、丁寧な言葉遣いも。
何もかもが、繭子を優しくとらえた。
山の神だと名乗った彼は、人の世界と異なる場所で精霊たちとともに暮らしているという。
精霊は彼の家族のようなもので、家族以外の友人を作るように精霊たちに勧められ、繭子が連れてこられた。
繭子は自分を選んでくれた精霊たちに感謝している。
優しい気弱な山の神と出会わせてくれた幸運にも。
山の神の名は、両儀。
穏やかに話す彼の声を思い出して、繭子は思う。
わたしがあなたに囚われているくらい、せめてその半分だけでも、あなたはわたしを思い出す事はあるのかしら、と。
5月はつつじが豊作で。
6月はあじさいが豊作で。
7月はくちなしの花の森。
8月は夾竹桃が狂い咲き。
9月は彼岸花が一面に燃えるようで。
10月、金木犀の香りの中で繭子は彼にしばらく会えないと告げられた。