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雪華草を待って

 仕事で、しばらく地上から離れるのだとそう説明された。


 あとで、その日も仕事のお休みをもらって来たのだと八重桜の精に聞かされた。

 今、本当に忙しいのだと。



 しばらくっていつくらいまで?


 両儀さんのしばらくはどのくらい?



 訊こうとして、繭子は少しためらった。

 わがままに聞こえはしないだろうとか、ほんの少し。


 彼はそんな繭子の手を取って、彼女の顔をのぞき込むようにして言う。



「次は、雪華草を見に行きましょう。ケーキを焼きます。繭子さんの好きなチョコのケーキ。ベリーをたくさん飾って、クッキーも焼きます。特別な美味しいお茶も。だから……その……」



 繭子は笑顔を作った。

 胸の奥でうずまく不安を圧し殺す。


「お仕事、頑張ってくださいね。ケーキ、楽しみにしてます。雪華草も」


「はい」


 両儀は笑う。けれど、いつ戻るとは約束しなかった。









 雪華草。


 ダイアモンドフロスト、あるいは白雪姫と呼ばれる白い花。

 ポインセチアの仲間で、白く小さな愛らしい花だ。


 種類がたくさんあるのだと、繭子はネットで調べて知った。


 ダイアモンドフロストなら、花の時期は4月から11月。

 ダイアモンドフィズもそう。

 白雪姫なら11月から1月。

 ダイアモンドスターなら5月から11月。


 花言葉は、『また君に会いたい』。


 繭子は、その言われてもいない花言葉を頼りにお茶会の誘いを待った。


 1月が過ぎて、4月になって。

 また11月になって、1月がきて。


 気がつけば一年以上が過ぎていた。







 繭子の学校は私立の女子校で、他の大学を受験するのでない限りそのまま附属の短期大学へ進学できる。

 繭子の姉は音大に進んだが、繭子はそのまま短大へ行くつもりだ。


 よその土地へ行ってしまったら、両儀が自分を見つけられないかもしれない。

 姉のように特別やりたい事もない繭子は、両儀を待つ事に時間を使いたかった。


 人とは時間の流れが違うだろう彼が、いつ戻ってくるかはわからないけれど。


 でも、もうしばらくくらいは待ってもバチは当たらない。


 脳裏に浮かぶのは、ピーターパンの物語だ。

 ピーターパンがウェンディにまた会いに来たとき、彼女は母親になっていて娘がいた。

 ピーターパンはその娘と冒険に出かける。そしてまたその娘とも。


 夢を見られるのは、待つ事ができるのは子供のうちだけなのだろうか。




 繭子はいいえ、と心の中で首を振った。

 大人になっても、おばあちゃんになっても、自分は絶対彼を待つのだと心に誓う。


 繭子が誰かの恋人や奥さんになっていたら、両儀はきっとあの気弱な微笑みでお祝いを言ってくれる。

 そしてもう2度と会う事はないのだ。

 そうしたら、精霊たちはまた誰か他の子をお茶会に誘うのだろう。

 それは嫌だ、と繭子はわずかに目元に険を浮かべる。



 その誰かが誰であろうと、たとえば自分の子供かもしれなかったとしても、絶対に嫌だ。



 おばあちゃんになって、ずっと1人だったとしても、きっと待ち続ける。

 そして言うのだ。

 遅かったんですね、と。



 学校の廊下で、繭子はガラスを通して外を見る。

 2月も終わりの寒々とした冬空に、雪が舞っていた。










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