9 講師の代金
レンエールは呆然としているボーラン男爵から書類を奪って書類に目を通した。
「教師代だと? 王子妃教育なのに男爵に払わせるのはおかしかろう?」
レンエールは怒りを覚えながらも、両陛下が同席しているので怒鳴ることはできなかった。
「王子妃教育でしたらそうでございますが、ボーラン嬢にはまず一般教育が必要かと存じます。それも初歩からの……」
「ひ、酷いわっ!」
サビマナは両陛下がいることも問わず金切り声を出して隣に座るレンエールに縋った。
「これでも王妃陛下のご配慮で、マナーなどはしばらくはメイドが見てくれることになりましたのでお安くはなっております」
レンエールはサビマナのマナーの酷さはここ二日で目の当たりにしていたので、サビマナをフォローする二の句が告げなかった。
「さらには、毎日のお食事代などは含めておりませんから、その点でもお安くしております」
「食事代……ですと?」
「はい。本日は両陛下からのご招待ということですので、問題はありません。
しかし、明日からのボーラン嬢の食事代等は本来でしたら国が支払うものではありません。しかし、王妃陛下がそちらを負担してくださることになりました」
ボーラン男爵一家は先程食べた昼食を思い出し、その料金を負担することを思うと再び気が遠くなった。
王妃陛下が口元を隠して可愛らしく笑う。
「ボーラン嬢に頑張ってもらうためよ。うふふ」
ボーラン男爵夫妻と子息は汗を拭きながら頭をペコペコとさげた。あの昼食並みの料金を朝晩……。ボーラン男爵家では値段の想像もつかない。
「ですので、こちらは家庭教師の雇用料金です。王妃教育になりましたら国が負担しますので、それまでの一般教育の間だけです。ボーラン嬢が早々に履修なされば、すぐに終了させ、家庭教師の料金は発生しなくなります」
「ボーラン男爵。ボーラン嬢が王子妃となれば、その実家として月々の手当も払われるし、観光や移住希望で領地も潤うのだ。
そのための投資だと考えてはどうだ?」
ボーラン男爵は国王直々の説明に頷かざるをえなくなった。
それからは王妃陛下が嫁いでから王妃の実家がどれほど発展したのかを王妃陛下自ら説明し、ボーラン男爵夫妻は少しずつ目の輝きを取り戻し、最終的には将来の希望に胸をドキドキさせるほどに復活した。
「そろそろお時間です」
それを見計らったかのようにメイドから声がかかった。
ネイベット侯爵は頷くと手帳をパラパラと捲る。
「では、王妃陛下とボーラン男爵夫人はドレスの仕立てにお戻りください。
ボーラン男爵とご子息は、ボーラン領の必要な開発についてこちらの文官から説明を受けてください」
「は? 領地の開発?」
ボーラン男爵はまた口をパカンとさせる。
「王子妃の実家の領地が、道路整備もされていないようでは困りますし、観光に行った時に領都が荒れていても困ります」
「なるほど。わかりました」
「レンエール殿下とボーラン嬢はお隣の部屋にて教師がお待ちです」
「え! 私もドレスを選びたいっ!」
ネイベット侯爵は顔が引き攣るのをかろうじて耐えた。
「一日でも、一分でも、お早く始められませんとレンエール殿下との結婚式に間に合いません」
ネイベット侯爵は『それでも間に合いません』と言うのは我慢した。
隣室へ移動したレンエールとサビマナは長机に並ぶようにして座るように指示された。
席についた二人の前にテスト用紙が配られた。




