10 サビマナの現状
サビマナはテスト用紙を見ただけで唇を尖らせた。
「えぇ! こんなのやりたくなーい!」
「ボーラン嬢にどれだけのお勉強が必要であるのかを調べさせていただきます。優秀な学科は授業を省くこともできますよ」
「え!? 勉強しなくていいかもしれないのっ? ならやるわっ!」
「ええ。是非頑張ってくださいね」
眼鏡をかけた優男バロームが濃紫の目の眦を下げてサビマナを励ました。サビマナは頬を染めた。
レンエールはムッとしたが、バロームのことは幼い頃から知っているし、バロームの妻が王宮メイドなのも知っているので文句は言わなかった。
早速テストを始めると、レンエールは驚いて丁度後ろを歩いていたバロームを見た。バロームは紺色の髪をかきあげて、満面の笑顔を返してきた。
そのテストの内容はあまりにも簡単で、レンエールが十歳の時には履修していた内容だったのだ。
「こ……これはやる意味があるのか……?」
「殿下。是非百点をとってください」
バロームはこともなげに言う。
「すっごーい! こんな難しいテストをレンは百点取れそうなの?」
『これが難しいテストなのか?』
サビマナの驚きに、レンエールが驚いてしまった。
「はいはい。テストなのですよ。無駄話はなしでお願いしますね」
バロームは子供に諭すように笑顔で二人の肩を叩いた。
「はーい。でも、全然わからないからすぐに終わっちゃうわ」
レンエールは愕然とする。サビマナはそんなことには気が付かずに鼻歌を歌いながらテストに向かった。
「ボーラン嬢。終わったら教えてくださいね。次々にやってしまえば、本日の分は終わりますので」
「ホントに?! わーい! ドレスを見に行けるかなぁ!」
それから二人は黙々とテストをこなし、レンエールより先にサビマナが終了させた。
「レン! さっきのお部屋に先に行くわね。私もドレスを見たいもん」
「あ、あぁ……。わかったよ。メイドに案内してもらうといい」
サビマナはさっさと部屋を後にした。サビマナが充分に離れたと思われる頃、レンエールはペンを置いた。
「バローム。私にはこのテストはいらない。今すぐここでサビマナの採点をしてくれ」
「…………かしこまりました」
数分後、サビマナの知識の現状を目の当たりにしたレンエールはテーブルに倒れ込みしばらく動くことができなかった。
バロームはそれを憐れんで見ている。
〰️ 〰️ 〰️
夕方、ボーラン男爵夫妻と子息は王都のタウンハウスに帰っていった。
実はこのタウンハウスは、先週に購入したばかりだ。サビマナが未来の王妃になりそうだと意気込んで購入した。改修工事をする予算はなく、擦り切れた絨毯などは前の持ち主のもののまま使用している。
まだメイドを一人連れてきただけなので、掃除も終わっていないし、夕食も質素なものだった。
三人は昼食の立派さを思い出して複雑な気持ちになった。
〰️ 〰️ 〰️
一方、王宮の客室には、レンエールとサビマナの分の料理が運ばれ、二人での晩餐になった。しばらくはとりとめのない話をしながら食事が進んだ。
レンエールが意を決して、カトラリーを置いた。
「ねえ、サビィ」
「にゃわに?」
サビマナは口に食べ物が入ったまま返事をした。ここまでの話の間も終始そのようなマナーであったので、レンエールはシビレを切らしたのだった。
「食事中は話をしないことにしようか?」
レンエールの困り顔に、サビマナはキョトンとする。
「どぼして? ゴックン!」
サビマナは口の中の物を飲み込み、グラスを手に取った。
「ゴキュゴキュゴキュ」
勢いよく水を飲む。
「どうして? おしゃべりしながらの方が楽しいでしょう?」
「そうなんだけどね……。おしゃべりの仕方が……なんというか……」
レンエールはサビマナを傷つけないようにマナーの悪さを指摘するにはどうすべきかわからずに口籠った。




