47【最終話】 監察官の始まり
国王陛下が眉間に手を当てる。
「ニールデン―バザジール公爵―。他にはいくつくらい財政が厳しい領地があるのだ?」
「はい。散財をしていなくとも納税額が落ち込んでいるところには、国王陛下の仰る秘書を雇うことを推奨すべきです。予算のないところには、国王陛下の名前で優秀な文官を派遣すべきですね」
「そうか。その政策を許可しよう。人材を集めてくれ」
「かしこまりました。バローム殿。その手の講師の派遣を頼む」
「了解しました。思い当たる者が何名かおります。準備しておきましょう」
帳簿の見方や経営について改めて学ばせ能力を把握しなければ派遣はできない。
「文官を派遣してみたら、散財して納税額が落ちているとわかったところはいかがなさるのですか?」
「国王陛下の判断になりますが、散財額と反省度合いを見なくてはなんとも言えませんな」
「まずは、政策の先触れをせよ。反省し改善すれば、状況次第では見逃してもよかろう」
「そうですね。多くの貴族たちを潰すわけにはまいりませんから」
「そんなに数がいそうですか?」
ネイベット侯爵は眉間に皺を寄せる。
「すでに悪質な領主は数名把握しておりますので、それらを叩けば直る領主もおりますでしょう」
「確かに数百ある子爵男爵すべてに文官を回すわけにはまいらん」
「ええ。悪質な極まりない高位貴族をまずはテコ入れします」
「レンエールの浮気が意外な方向に向いたな」
「「「そうでございますね」」」
すっかり変わってしまった話題に一様に苦笑いしていた。
「ガダナ―ノマーリンの次兄―を外務局から引き抜かなくて済んでよかったですよ」
バザジール公爵が父親としての優しげな顔で笑った。ガダナは外務局に務め隣国で婚姻をしているので、かなり渋っていた。
「次期宰相はガダナでいいではないか?」
国王陛下はレンエールをガダナに任せたいと思っている。両陛下から見てもレンエールはまだ頼りない。
バザジール公爵はあからさまに眉を寄せた。
「いやいやっ! ノマーリンが嫁ぐのです。我が家に権力が集中すると訝しむ者もおりましょう」
「バザジール公爵のお人柄を知れば権力などというものに興味のない方だとわかりますでしょうに」
バロームが呆れ笑いをするとまわりもつられた。
「確かにニールデン―バザジール公爵―の仕事を見ずに名ばかりを見て文句を言う輩はおるな」
レンエールとノマーリンが『陛下』になる時にバザジール公爵は宰相を引退する予定でいる。
「輩とは……。陛下。お口が過ぎますよ」
王宮総務局の大臣であるネイベット侯爵も国王陛下に苦言を呈することができる数少ない一人である。
「今は無礼講だと申したであろう?」
「それは下の者のために使うお言葉です。普段から何でも言える陛下に使うお言葉ではございませんよ」
「これでも普段は言葉を抑えておるのだがなぁ」
演技でシュンと項垂れる国王陛下に室内は笑いに包まれた。
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侯爵家三家、伯爵家二家ほどが領地半減の上、降爵されることになった。
数年後には、バロームの教育で監察官が多く育てられ、税務局の中に監察部が作られた。こうして、子爵男爵であっても数年毎に帳簿チェックと領地チェックが行われるようになる。帳簿は誤魔化せても、領地の様子は誤魔化しようがない。
領地も繁栄し、不正も減り、国庫も安定した。
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レンエールとノマーリンは無事に学園を卒業し、その一ヶ月後、盛大に結婚式を挙げた。国をあげての大イベントだ。他国からの招待客もたくさんいた。ノマーリンの通訳がなくとも共通語を流暢に話すようになったレンエールは、未来の王として評判も上々であった。
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二人は五人の子供をもうけ、いつまでも仲睦まじい国王夫婦だった。
ノマーリンがレンエールに『恋』をしたのかはノマーリンだけが知ることだが、二人が『愛』を家族にも、国民にも注いだことは誰もが知っている。
〜 fin 〜




