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30、弊害

デビュー後、ノリコは順調に活躍の場を広げ、とうとうあの『ミットナイトスペシャルショー』に出演し、すごい反響を呼んだ。

放送を見ていた時は、なんだか汚れた格好で、演出も普段と様子が違って心配したけれど。

ミッチーによると、それも演出のうちだそうで。

確かに、後半に出演したベテラン歌手の豪徳寺ごうとくじ ひのきよりインパクトは強かったし、実際その後の反響がすごくてもう一度『ミットナイトスペシャルショー』に1人で出演が決まったほどだ。

『ミットナイトスペシャルショー』というのは、実力がなければ出演者できないしセットも豪華ということから質の高い人気音楽番組で、デビューしたてのノリコが2回も出演できるという事は珍しい。

まぁ、売れっ子作詞作曲家のミッチーがついていてくれるから、その影響もあるのだろうけれど、それにしたって凄い。

とにかく使えるものは何でも使えばいいと私は思うし、何よりノリコの歌は本物だしノリコも努力を惜しまない子だから、このまま順調にいってほしいと祈るばかりだ。


ただ、ノリコが活躍すると色々弊害もでてくるのは仕方がないことなのだろうけれど・・・。




「まさか、あのノリコちゃんが歌手デビューして、こんなに活躍するなんて。ビックリしたわ。」


せっかくの定休日だというのに、午前中から内藤さん親子がいきなりやってきた。

洗濯と掃除が終わっていたのがせめてもの救いだけれど。

表向きは、新作のカップケーキを作ったからお裾分けということだが、何か魂胆があるのはみえみえだった。

だけど、長い間近所付き合いをしてきた立場上、すげなく追い返すわけにもいかなくて。

仕方がなくダイニングルームに通し、紅茶を出した。


「ありがたいことに、ノリコの歌をたくさんの人がきいてくれて、応援してくださって・・・親としても、うれしい限りよ。まぁ、ノリコは昔から努力を惜しまない子だからねぇ・・・とにかく、今は一生懸命頑張っているしね。」


ママも仕方がなく内藤さんと向き合い、紅茶に口をつけるとノリコの活躍を控えめな笑顔で喜んで見せた。

やはり、ノリコが頑張ってその成果がでているのは嬉しいものだから。

だけど、内藤さんはママのそんな気持ちが理解できないのか。


「まぁ、今となっては血のつながらない子供を引き取って育てたかいはあったわよね?これからしっかり稼いでもらって育てた恩をしっかり返してもらえば、史子さんも元は取れるわよねぇ?」


なんて、とんでもないことを言い出した。

私はムカッとして、内藤さんに一言言ってやろうと口を開きかけたのだけれど。


「『元』って、『恩』って何さ?そんなこと考えてノリコを育てたわけじゃないよ?ノリコは私の妹の子供だから私もエミもしっかり血はつながっているんだ。それに、ノリコが私の娘に、エミの妹になってくれて、私達の方こそノリコに救われたし幸せもたくさんもらったんだから。内藤さんが言う『恩』っていうなら、私達の方こそノリコに返さないといけないわね。でも、私達がそんなことしても、ノリコは絶対に受け取るような子じゃないから。結局、私達はここでノリコの成功を祈って、夢を応援するだけなんだけどね?」


と、ママが先に早口でまくし立てた。

いつもはそんなに早口でないママがこういう話し方をするってことは、かなりイラッとしているということで。

だけど、内藤さんはそんなことに気がつかず、自分の一方的な話を続けた。


「しょうがないわねぇ、本当に史子さんもエミちゃんも人が良いんだから・・・ところで、ちょっと相談なんだけど。あのね色々あって、うちの従業員が急にこの前からバタバタって辞めてねぇ。本当に最近の人は無責任というか恩知らずというか身勝手で・・・従業員の管理不足で、材料を切らして店の営業が2日くらいできなくて、大変なことになったから注意したらプイッと辞めちゃって。全く、他人を信用したばっかりにこんなことになるなんてねぇ。もう手広く商売するのにも疲れてね、こうなったら親子2人でゆっくりお客さんに満足してもらえるものだけ作っていければいいかと思って。店も手放して店舗も簡単なものにしようかと考えてね?それで、ここのおうちって凄く大きくてクラシカルじゃない?雰囲気もあるし、部屋数だって随分ありそうだし、もちろん使っていない部屋もかなりあるでしょう?外から見たら、あのサンルーム凄く素敵だし、あそこをオープンにしてケーキサロン風にするとちょっと隠れ家風のお店って感じで素敵じゃない?それで、余ったケーキは夜『Chicago』で出してもらえば、ロスは無くなるし・・・勿論、家賃は払うわよ?それで史子さんの老後の資金も貯められるでしょう?ほら、史子さんも病気して、家にこもってばかりだから、ここでケーキサロン開けば、にぎやかになって気晴らしになるでしょう?庭も凄く広いから、車も何台も駐車できるだろうし。どうかしら?悪い話じゃないでしょう?」


「「・・・・・・・。」」


ママも私も呆れてものも言えなかった。

それを肯定ととったのか、それまで黙っていた肇さんが急に勢いづいた。


「ノリコちゃんを応援するって言うなら、いい考えがあるんだ。ノリコちゃんの実家が極上のケーキを出す洒落たサロン開いているなんて宣伝したら、ノリコちゃんのイメージアップにつながるし。サロンにノリコちゃんのレコード置けば、売り上げも伸びるだろう?休みの日はサロンに顔出ししてもいいし。ああ、そうだ。うちのケーキに合う紅茶は、こういうフレイバーティーじゃなくて、クセが少ないニルギリがいいんだ。エミちゃん、サロン様に用意して美味く淹れられるようにちゃんと練習しておいて。それと、玄関にかざってある薔薇の大きな油絵、あれちょっと雰囲気あるから、サロンに飾ってもいいんじゃないかな?俺のケーキを引き立てるのに、良さそうだし。ああ、だけど・・・額が結構ごつい雰囲気だから、額を変えたほうがいいかもしれないけど・・・エミちゃんの家は結構絵がかざってあるから、額も色々あるよね?」


意気揚々と、次々と凄い事を言い出した。

突っ込みどころ満載過ぎて、どう切り返したらいいか流石にまよっていたら。


「オジサン、もしかして妄想壁もあるのー?常識じゃ考えられない事ばっかり言ってるけど、頭大丈夫―?」


ダイニングのドアが急に開いて、口調とは裏腹に不機嫌な顔のミッチーが、後ろに弁護士の粕谷さんと税理士の蒲池さんを従え部屋へ入ってきた。




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