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ここ数日の生活リズムは極めて整っていた。朝に軽く体を動かし、昼過ぎまで狩場でモンスターを狩り、夕方にはメルに冒険者のイロハを教える。
ここ数年でもっとも規則正しいかもしれない。
「レアスキルですか。どんなスキルがあるんですか?」
冒険者とは切っても切れない関係であるスキルについて説明していると、こう聞かれた。レアスキルを持った人間あるいはオーブは希少で、さらにオーブを使ったとしてもスキルを習得することさえ困難だ。会ったことも持ったこともないけど知識として知っておいて損はないかもしれない。
「有名どころでは治癒や転移だな」
「治癒は知っています。英雄王とパーティーを組んでいた聖女様のスキルですよね」
かつての聖女は瀕死の英雄王をたちどころに癒したと言われているが流石にそれは誇張しすぎだろう。せいぜいが傷を塞いで怪我の治りを早くするのが精一杯のスキルだ。
それでも薬よりはよく効くし、死にかけた人間が持ち直したという話も聞く。だから治癒スキルを持った人間は大手のギルドの直属になってパーティーを組まずに冒険者としての生を終えることも少なくないとか。
力を持つがゆえに不自由を囲うか。なら人生で今最も自由なオレは大した力を持っていないのだろう。
「アルさん?」
「ああ悪い。転移はその名の通り。別の場所へと移動するスキルだ。こいつをお目にかかることはないだろうな。何しろ国に一人いるかどうかってスキルだからな」
噂では王宮の奥深くに転移のオーブが眠っているらしいが、都市伝説の類だろう。
ふと見るとメルは思案気な表情をしていた。
「どうかしたのか」
「あの……やっぱり一流の冒険者になるには強力で、希少なスキルを持っていないとだめなんでしょうか」
それはまさに、今自分自身で悩んでいることだった。言葉は勝手に口を衝いて出た。
「違う。スキルは使い道によって化けるものだ。例えばライシャさんは念話を使って大勢の人を救ってみせた」
半ば自分に言い聞かせるようだったが間違ったことはいていない。
強い言葉にメルは驚いているようだったが不快ではないようだ。
「他にも……そうだな、花火を知ってるか?」
「何ですかそれは?」
「光魔法と<幻影>のスキルを組み合わせたもので空一面にきれいな花が咲くような光が広がるんだ。これも数年前に無名だった冒険者が編み出したものだ」
その冒険者は花火の作り方を教えてくれと頼んできた商人に大金を吹っかけて今では大金持ちらしい。実際には作り方ではなく、やり方を教えただけなのでその商人は花火を売り物にはできなかったが、他の冒険者を雇って花火を娯楽にしてみせた。まったく、商人の意地とは恐ろしい。
「つまり、物は使いようってことですよね?」
「そういうことだ」
どこか安堵した息を漏らす。やはりそういう不安は誰にでもあるらしい。
……いや、オレがメルくらいの年だとそんなことは思ってなかったな。我ながら能天気なことだ。
「花火かあ。見てみたいですね」
その横顔に思わずドキッとしてしまう。……十代前半の子供でもあるまいし何をやってるんだか。




