2-E
「ふぅ……守りきれたか」
オライガの守備隊長はようやく収拾が付きつつある事態に安堵の息をついた。
正直どうなる事かと思う時もあったが、ギルドの応援メンバーである”鬼狩り”達が合流してきてくれてから一気に流れが変わった。
前提として自分達で守り切るつもりがあり、情報共有時にロイドから伝えられた記憶があるという程度の認識だった為、そこまで期待していなかったのが隊長としての本音である。
しかし"鬼狩り"が鬼達のリーダーを倒してくれたこと、そして女エルフが苦戦している所に入り引っ掻き回してくれたことで状況は好転。守備隊は本来の動きを取り戻し、ついには鬼達を倒し追い払う所にこぎつける事が出来たのだ。
(あのままでは危なかった……のは認めざるを得ないな)
それは軍人としては認めたくない点である事は間違いない。しかし同時に職業軍人としては何ができて何ができなかったのか、何が課題なのかを洗い出して次に繋げる事を考えなければならない。隊長はこれからのしかかってくるであろう業務を想像して重い溜息をついた。
だがそれはそれとして、”鬼狩り”達には礼を伝える必要があると隊長は自機を降りた。概ね倒すべき敵は倒したし、後は最後の周囲確認やらチェックが残るところである。隊長はそれらを部下に任せ、一人”鬼狩り”の機体、AX1の方に歩いていった。
と、ちょうどAX1のキャノピーが開き、一人の男性が下りて来た。
(いや、若い、若すぎるな――)
軍に新人として入ってくる者達よりも若く見える、ハイスクールの生徒にしか見えないような容貌をした男。それが”鬼狩り”ラクトである事を、隊長は頭の片隅から思い出していた。
だが若い、ともすれば幼いとすら見える彼が、オライガを守る決定打となってくれた事は事実である。その実力を身に着けるのに払ったであろう努力と時間とを想像し、少しだけ畏敬の念を高めた隊長はラクトに近づき声を掛けようとした。
その時だった。突如として、ラクトが笑い出した。
「カハハハハハハハッ! ついに、ついにだ! 手を掛けたぞ!」
完全に目を見開き、血走った目に狂気を宿しながらラクトが哄笑する。
「もうすぐだ、もうすぐ仇を取ってやれるぞ父さん。後ちょっと、後ちょっとだ!」
そうして再度笑い声をあげるラクトを見て、隊長は自分が一歩後ろに下がってしまっている事に気が付いた。
ラクトの異常性に。狂気に。あまりのありかたに気圧されて。
(彼は……こいつは、危なすぎる――)
異常な光を目に宿すラクトをみて、隊長は自身の背筋に冷たいものが這うのを自覚せざるを得なかった。
***
鬼の先遣隊が駆逐された戦場。狂喜するラクト。そしてそれに圧されるオライガの守備隊長。
そんな様を少し離れた場所の高い木の上から覗いている姿があった。一見するとガラと同じく黄鬼だが、その体格は一回り大きく、眼にはもう一声知的な光が宿っている。
ジンガ達兄弟の末弟、ボロである。
彼は自分達の先遣隊が潰されていくのを最初からずっとその目で観察していた。仲間がやられていくのを見ても、その瞳には悔しさも悲しさも何も映ってはいなかった。自らの教えを授けた言わば弟子とも言えるガラが倒されたのを見ても、それでもただ冷たく戦場を見ていたボロは、呟いた。
「あれが”鬼狩り”か――」
ガラを殺された事について感情は動いていない。それよりもラクトのやりよう、動き、そして狂気を見てボロは口角を上げた。
「なるほど、面白い。でもジンガの兄貴に勝てるとは思えねぇけど――面白い事にはなりそうだな」
呟くとボロは木から飛び降りてその場を後にした。ジンガにありのままを報告し、その結果起こるであろう決戦に思いを巡らせながら。




