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第12話 あの娘も報われないな

「颯真くんがほかの女とデートに行くのは許せない。だがここは私もやはり大人の女としての余裕を見せるべきところだろう。だから三回分までは許可しよう」


 ロクちゃん先生はわざわざ指を三本立てて見せる。余計なことを言ってた気がするけど、そこは無視しよう。

 変に蒸し返すと面倒なことになるのは間違いないし。


 それより気になるのは、別のところ。


「三回分ですか?」


 生徒会の経費を使うことを渋って口をつぐんでいたのかと思ったから回数の指定がよくわからなかった。

 対するロクちゃん先生は「当然のことなのになにを訊いているんだ」みたいな顔をしている。


「うん、ランダム特典が目的なんだよな? なら二人で見ても、お目当てのものがすぐに引き当てられるとは限らないよな?」

「それはそうですね。一回じゃ引き当てられないかもしれないから三回ってことですか。ロクちゃん先生もたまには役に立つんですね」

「たまには、とはどういうことなのかな?」

「言葉通りの意味ですが、なにか?」

「言うようになったな。しかし……」


 ロクちゃん先生はそれまでのふざけた表情をしまって口元を引き締める。


「どうしたんですか?」

「颯真くんが元気になったのは嬉しいことなんだよ。恋愛拒絶ウイルスに感染した直後はすっかり落ち込んでいたからな。でも女の子の依頼ばっかり優先してないか?」


 うっ……それは否定できない。

 が、素直に認めるわけにはいかない。

 俺が女の子と知り合うために人助け係として活動しているなんてことがバレると活動が制限されてしまうかもしれない。

 ここはしらを切りとおすしかない。


「そんなことはありませんよ。たまたまです。男子からの依頼だって受けてるし」

「そうか?」

「そうですよ」

「ふむ。しかし颯真くんはたしか去年の冬ぐらいに急に元気になったけど、なにかきっかけはあったのか?」


 きっかけ、か。

 言われてみれば自分でもそれは不思議だ。

 たぶん恋愛拒絶ウイルスをいいふうに使えると気付いたからなんだろうけど、それにもなんかのきっかけがあったような気がする。


 よく覚えてないけど、別にそんなのはどうでもいい。


 俺はキスだらけの青春に満足している。

 きっかけがなんであれ、この生活を続けていきたいって思ってる。

 だから俺は笑って誤魔化すことにした。


「別にきっかけなんてないですよ。でも、そんなことが気になるなんてロクちゃん先生はやきもちを妬いてくれてるんですか?」

「もちろんだとも」

「へえー、それは嬉しいですねー」

「そんなに棒読みで言わなくてもいいじゃないか?」

「ちゃんと心をこめてますよ。それよりロクちゃん先生も目に涙なんて浮かべて、そんな必死に演技なんかしなくていいんですよ?」

「これは演技なんかじゃないっ!」

「そうですか。ありがたいことですね」

「もうっ!」


 分かりやすく唇を尖らせるロクちゃん先生。出会ったころからこの調子だ。

 恋愛拒絶ウイルスに感染して落ち込んでいた俺を励まそうとしてこうしていつも冗談を言ってくれる。


 いや、いまとなっては俺を励まそうとしているというより、単にからかうのが目的な気もしなくはない。

 ただ、それでもありがたいと思っているのは本心だからそれなりに丁寧に接しているつもりだ。


 でも今日はおふざけに付き合うのはこの辺にしておこう。

 俺が立ち上がったのと同時に最終下校時間を告げるチャイムが鳴った。


「……あの娘も報われないな」

「えっ、なにか言いましたか?」

「いや、なんでもない。気をつけて帰るんだぞ」


 チャイムの音に紛れ込ませるようにつぶやいたロクちゃん先生は一瞬だけ深刻そうな表情を浮かべていた気がした。

 けれど既に背を向けてなにやら書類を書き始めた姿はやっぱりいつも通りで。

 きっとまた俺をからかうようなこと言っていたんだろうと、俺はそのまま保健室をあとにした。

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