9 ウチ達軽くディスられてる?
本日二回目でーす!
メイドに案内された部屋は、とにかく広い場所であった。
二人のいた教会の礼拝堂くらいある。
その部屋の中に、二十人ほどの詰まっていた。
全員が全員、見るからに荒事が得意でござる、といった風体である。
「何の仕事かわかんねぇと思ったが、子供まで来やがった」
背に巨大な戦斧を担いだ大男はそういうと、広い額をペシリと叩く。
そこへ、一人の男が入ってきた。
年齢は二十代後半といったところか。
きっちりとスーツを着こなしており、動きもきびきびとしている。
その男は、ロクドー達の前を通り過ぎると、部屋の前面に当たるのであろう場所に立った。
何か始まるのかと周囲の人間も静かになる。
「初めまして。私、ここでマダムのお世話をさせていただいております。ドレッツと申します」
そういい深く頭を下げた。
「さて、皆様方にお集まりいただきましたので、ご依頼の方をお話しさせていただこうかと思います」
ドレッツの口から語られた依頼は、文章にすればひどく簡単であった。
なくなったエンドリケリ商店の印章を見つける、というものである。
ならば、町娘でも動員して屋敷内を捜索すれば事足りるはずなのだ。
現状、ドレッツをにらみつけるように立っているむくつけき男共など無用である。
「印章はリドリンスの森に逃げ込んだ山賊、棘の団が盗んだものです」
棘の団、と聞いて隣に立っていた男の顔が少し険しくなる。
棘の団なるものは知らないが、町娘が相手にするには少々荷の重い団体らしい。
「相手の規模は?」
頭にとんがった金属兜をつけた男が声をかけた。
「正確な人数は不明です。しかし、二十人程度と思われます。また、装備はあなた方と恐らく同等でしょう」
「なぜ、ギルドを通さなかった?」
今度は濃い紺色をしたローブを着込んだ一人の男が声を上げた。
「印章が盗まれたこと自体は別にどうでもよいのですが、万が一不届きものに、さらに盗まれた場合、かなりの損失が見込まれます。極秘裏に、また速やかに奪還していただくことを期待しております」
答えになっているようななっていないような回答。
ロクドーはあたりを見渡してから口を開いた。
「俺たちの中に不届きものがいない可能性は?」
その辺の心配をするのであればなおさら、ギルドの方がよいのではないか。と考えたのだ。
「あなたは、ギルドの組合員ですか?」
「一応ね」
ドレッツは片眉を少し上げる。
「ならば、申し訳ありませんが、ここの皆様とあそこで紹介される人材に大きな違いがあるとは思えません。ギルドで雇おうが、個人で雇おうが不届きものが入る可能性はあります」
受付嬢の言っていた話を思い出すに、その通りだとロクドーは頭の後ろをかくことで賛同を表す。
「それに、腕前に関しても同じことです。むしろそうでなければ、あなた方はここにいること自体あり得ないかと」
「あれ? ウチ達軽くディスられてる?」
リィネが口を尖らせた。しかし、ドレッツは気にした様子もなく、その他、諸注意を伝えていった。
◆◆◆
出発する頃には日がかなり傾いていた。
そして、件の賊がいるとかいう森に到着した時、星は輝き始め月が上り始めていた。
森の中へ続く獣道以上、林道未満の道は、でこぼことしている。
また、広葉樹は、最盛期を迎えようと青々と茂り、むせ返るほどの青い匂いが肺を満たした。
「あんまりよくねぇな」
隣で戦斧を背負った大男が額をペシリと叩きながら口を開く。
夜襲をかけるには明るすぎるのだ。
「で、どうすんだよ。団長さんよ」
先頭を歩いていた男が後ろを振り返った。
でっぷりとした体を何とか鎧に押し込んだような恰好をしている。
この男が現在、この一団を率いる団長であった。
ロクドーにはどうにも厄介ごとを押し付けられた役立たずのようにしか見えない。
リィネもまた不安そうに男を見ていた。
「と、とりあえず、斥候を出そうか。場所がわからないと困るもんね」
団長は懐から髪を取り出そうとして失敗した。
無理に引っ張り出そうとして転んでしまったのである。
隣にいた傭兵の男が何とか引きずり起こしてやった。
「おいおい。ふざけるなよ。そんなこといちいちしてられるか」
甲高い声で反論したのは、やけに小柄な男であった。
頭を短く刈りあげており、安っぽい服を着込んでいる。
そして、腰に直刃の剣を提げていた。
「魔術師も何人かいるんだからよ、チーム分けて探したほうがいいぜ。時間かけたらそれだけ奴らに気取られるってもんだ」
「そうだ。とっとと終わらせようぜ。山賊なんぞ、俺の剣の錆にしてやるぜ」
隣の男がそういうと、剣を掲げた。
手入れなど全くいってないその剣では、人ひとり切れるのか疑問である。
ロクドーが口を開こうとしたが、リィネがそれより先に口を開いた。
「それで運悪く敵と当たったらどうするん。その時点で終わりやん」
「まったくだぜ。どうかしてる。きちんと居場所を調べるべきだ」
額の広い大男もまたリィネに賛同する。
この男は比較的まともそうだ。ロクドーに無為な思考がよぎる。
「えっと、どうしようか」
団長は、情けない声で辺りを見回す。
先ほどのチビ男は、いつの間にか同じ意見の仲間を増やしたらしい。
数人で団長を囲んでしまった。
ロクドーがあららと顔を曇らせると、隣に大男が寄ってきた。
「こりゃダメだな。俺は抜けるぜ。お前と嬢ちゃんはどうするよ。こん中じゃ、マシなみてぇだけど」
「そう言ってもらえるのはありがたいこって。ですが、いかんせん俺たちにも事情がありまして」
大男は額をさする。
「金か?」
「似たようなもんで」
「金なんざ命張って稼ぐもんじゃねぇぜ?」
少し不思議そうに二人を眺めた後で、大男は口を開いた。
「俺は、チョーカだ。ギルドにたまにいるからよ。ま、生きてりゃ会おうぜ」
「あ、俺は……」
「ま、またあったらそん時名前を聞いてやるよ」
チョーカは、そういうとすうっと気配を消す。
そして、いつの間にかその場からいなくなっていた。
「おい、決まったぜ。三チームに分かれるぞ」
いつの間にかチビが団長代行をしている。
「おい、ガキ。あのでけぇ斧持った禿はどうした?」
「知るか。なんでお前さんが仕切ってんだよ」
「あのな? この中で俺が一番こういうのに強いんだよ。ガキにはわかんねぇだろうけどな」
そういうとチビはふふんと二人を見やった。
「お前ら二人は俺のチームだ。しっかりついて来いよ。戦闘のイロハを教えてやる」