10 俺も兄貴と呼ばせてくれ
ロクドーとリィネはチビの後ろをついて森に入っていた。
そして、その後を追うようにチビの腰ぎんちゃくのような男がリィネの後ろに張り付いていた。
三チームはそれぞれ山の斜面沿いに等間隔に分かれていくらしい。
森の中は暗く、それぞれのチームは、すぐに目視できなくなってしまった。
それにしても、と、ロクドーはあたりの様子を探る。
静かな森であった。
聞こえるのは森を抜ける風が木々の葉をこすり合わせる音と、侵入したロクドー達の衣擦れの音くらいなものである。
賊がいるとは思えないほどに静かだ。
いや、もしかしたらもうバレているのではないのか。
ロクドーは嫌な予感を振り払うようにリィネに声をかける。
「大丈夫か?」
「うん。とりあえずね」
すると、後ろの腰ぎんちゃくがシィっと声を出す。
そして、ニヤニヤと笑いながら口を開いた。
「声を出すな。見つかるぞ」
「はい、わかりました。わかりましたけん、こっち見んで。気持ち悪い」
その一言はひどくプライドを傷つけたらしい。
腰ぎんちゃくは、突然リィネを突き飛ばした。
勢いよくロクドーの背中に鼻をぶつける。
「な、何するん!」
「もういいでしょ、兄貴。ごっこ遊びは飽きましたぜ」
腰ぎんちゃくはいつの間にか剣を抜いている。
チッとロクドーはリィネをフォローしつつもう一人のチビに目を向けるとこちらも剣を抜くところであった。
「おっと、動くなよ。ガキが」
そういうと、チビは指笛を吹いた。
ピィッと鋭い音が響いた瞬間、辺りが陽炎のように揺らめく。
「おいおい、こりゃまじかよ」
ロクドーの眼前の森が突如として消えた。
そして、砦が現れたのだ。
木造で、恐らくは急ごしらえの砦である。
しかし、二十人程度で攻め落とせるような代物ではなかった。
さらにそこには三十人は下らない人間が弓を構えている。
ロクドーが周囲に視線を走らせると、他のチームもここへ誘い込まれていた。
騙されたのだ。
「裏切り者め!」
山の上部にいたチームの一人が戦闘を進んでいた男に斬りかかっていた。
が、次の瞬間ハリネズミよろしく全身に矢を撃ち込まれ絶命した。
「幻術かよ。この範囲で……」
「そうだ。最近は訳ありの魔術師も多くてな。ただ、この砦を丸々森に偽装できる奴はそうそういねぇだろうけどな」
ちらとリィネを見る。
眉にしわを寄せているところを見ると、リィネもまた同じ感想の様だ。
「どっからだ?」
ロクドーはチビをにらみつける。
「どこ? 最初からに決まってるだろ。あのばばあがこうすることはわかってたからな。ギルドを使わないとは馬鹿だぜ、あのばばあ」
チビはロクドーの喉元に剣を突きつける。
リィネもまた、腰ぎんちゃくに剣を突きつけられていた。
ロクドーはリィネの顔をちらりと見ると鼻の頭をこすった。
「お前ら、いくらもらうはずだったんだ?」
ロクドーは両手を上げて降参を表す。
「ばばあからか? たったの百五十だとよ。馬鹿にしてやがる」
「こっちの方が金回りがいいのか?」
「俺とそいつ以外は三百万だ。俺とそいつは五百万だ」
ロクドーの後ろで腰ぎんちゃくが鼻を高くしている。
「なんでそんな金があんだよ」
「盗んだ。あとは、奴隷商売だもちろん裏の、だけどな」
チビがクツクツと笑う。
奴隷商は、基本的に許可制だ。
しかるべき手順をもってしか、奴隷を扱うことができない。
しかも、奴隷の取り扱いについては法で厳しく決められている。
だからこそ、自由に扱える法の適用外の奴隷を扱うことは、非常に金になるのだ。
口端を引き上げて笑うさまは、本当に卑しく見える。
そんな男にリィネが侮蔑の視線を送る。
「ふっざけんな!!」
ロクドーが大声を出した。
一斉に弓が構えられる。
が、しかし、そんなものをお構いなしに言葉を続ける。
「俺たち二人で百だったんだぜ? あんのばばあ!!」
ロクドーが吠える。
リィネはぽかんと口を開けてロクドーを見ている。
「なぁ、あんた。いや、俺も兄貴と呼ばせてくれ。あんたさっき教えてくれるって言ったよな。俺もそっちに入れてくれよ!」
ロクドーの言葉に、その場の人間は全員はぁ? とうなった。
しかし、ロクドーはリィネを指し続ける。
「そうだ、こいつ。これやるから。こいつは処女だからそこそこの金になんだろ。 なぁ、いいだろ~? 兄貴~」
「えぇぇぇ! いややし!」
しかし、チビ男はリィネには取り合わない。
「お前面白いな。いいのか? 妹なんじゃないのか?」
「いやいや、昔からの単なる連れですから。もう、いちゃってください」
ビシリとサムアップを決める。
それを見てチビは腹を抱えて哄笑した。
「バカみたいだな。最高だぜ。おい、そいつを連れて来い」
チビは腰ぎんちゃくに命令する。
腰ぎんちゃくは、ニヤニヤといやらしく笑いながらリィネを器用に縛り上げてしまった。
口には、布切れをかませられたため、リィネはう~う~とうなるだけしかできない。
「あ、そいつヤるときは俺も呼んでくださいね。昔、頭を蹴り飛ばされたことがあるんで、そのお返しがしたい」
ロクドーはチビに向かってそういうと、左口角をひん上げる。
ちょうど、リィネが腰ぎんちゃくの肩に担がれているところであった。
「そりゃそうしてやりてぇが、そいつ処女なんだろ? なら、傷モンにはできねぇな」
「そうですか、そりゃ残念」
ロクドーはそれだけ言うとチビについて砦に入っていく。
それと同時に、矢が射かけられ、怨嗟の声が砦に突き刺さった。




