3 うるせぇ、エロださマフラー
ロクドーとリィネが現在いるのは木造の立派な建物である。
そこはネノカタスの『ギルド』であった。
ネノカタスのギルドは各地に点在するギルドの本部でもあるため、非常に活気があり、数人のギルドのメンバーであろう男たちが、壁に貼られた手配書や依頼書を吟味している。
そんな中、ベンチに座っていたリィネはもう飽きたといわんばかりに大あくびをした。
その視線の先には、「受付」と案内されたやけに胸の大きな女性と会話するロクドーがいる。
「本当に、本当ですか?」
「本当に本当です。確かにエーリスなんちゃららからこれ換金していいって言われたんです」
金がかった髪を耳にかけると女性はギルドの契約票とロクドーを交互に見比べた。
ロクドーもまた、その女性の胸と顔を交互に見ては鼻の下を伸ばしている。
そこへ先ほどから電話でどこかと連絡を取っていた男性が寄ってきた。
そして、手に持っていたメモ書きを女性に手渡す。
「その方の言ってるのは本当のようですよ。いま、ハウミルトンの方に連絡がつきました。リックの二人組に金は渡すなとまくし立てられましたよ」
女性はそのメモ書きを見てから、大きくため息をついた。
「もっと早く来てくれればよかったのに。リック…… あなた達の前任者に依頼料を渡してしまいましたよ」
組んだ腕で胸が苦しそうだ。ロクドーはできるだけ渋い声を出して答える。
「そうでしたか。それでは、依頼料はもらえないのですか?」
「えーふざけんなっちゃ。おなかすいたのに!!」
そこへリィネが飛び込んでくる。弾き飛ばされたロクドーは、机に鼻をしたたかに打ち付けた。
「まぁ、我が妹よ。この方が悪いわけではないんだ。大声を出すんじゃない。殺すぞ」
「うるせぇ、エロださマフラー。鼻の下が顎まできてんぞ」
机の下で脛の蹴りあいをしながら、それでもロクドーは笑顔を崩さない。
そんな二人など気にもしていない受付の女性は大きくため息をつきながら、書類にサインをしていく。
「いえ、依頼料はこちらが出します。ハミルトンはギルドにとってのお得意様ですからね。代わりにリック達には賞金でもかけましょうか」
受付の女性はさらりと恐ろしいことを言ってのけた。
後ろで職員数人が動き出したのは、その書類を作り始めたからだろう。
それとは別に、一人のメガネをかけたスレンダーな女性が書類を持ってきた。
「報酬は十二万Rです」
「え、そんなに……?」
「えぇ、一日フルで働いて一万Rです。今回のは単なる護衛任務でしたから高くても六万Rくらいですかね。破格の依頼だったわけですよ」
腕の立つ二人組だとは思ったが、とロクドーは合点がいったのか、手をポンとたたいた。
「さて、ところでお二人はギルドに登録してませんが、どうします? ギルド外の方が報酬を受け取るには、手数料として三割いただいています。ただ、今登録していただければ一割で済みますが」
ロクドーは即座に脳内算盤をはじいた。差額、二万四千R。
「登録を…… と言いたいのですが、私これでも一応騎士学校に身を置く予定でして……」
「構いませんよ。騎士学校の生徒だろうが、身を落とした貴族だろうが、逃亡奴隷だろうが、国に追われる大罪人だろうが。ギルドはギルドのために働いてくれる人の味方です。それに騎士学校の校則でもギルドは違反じゃありませんから。まぁ、いい顔はされませんが」
「ホントに? 片方の腕がノースリーブでも?」
「えぇ、センスの悪いマフラーをしていてもです」
「いやぁ、ありがたいなぁ」
ロクドーは目元をマフラーで拭うと、少し考えた。
二人とも学校とかいう場所で、良い顔をされようなどとは一切思っていなかった。
極論、別に騎士に取り立ててもらわなくても何も問題はなかった。
むしろ、今後のことを考えると、ギルドで働いた経験は役に立つだろう。
「では、登録をお願いします」
ロクドーは、もう一度全力の渋い声でお願いした。