22 地面からニョキィっと手が生えてきそうです
ロクドー達が階段を下ると、そこは地下通路につながっていた。
レンガで覆われておりレンガの隙間に苔がびっしりと生えている。
地面も、かなりぬかるんでいて気を付けなければ転んでしまいそうだ。
さらに、かなり気温が低い。地上ではだいぶ春が陽気になってきているが、ここはその恩恵を預かれていないらしい。
「マリナは、どこにつながっちょるか知ってるん?」
「いえ、知りません。というより、なぜこんなものがあるのか不思議で……」
先頭を行くロクドーが足を止めた。後ろを行く二人もまたそれに倣う。
「どしたん?」
「外だ。リィネ、後ろに注意しとけ」
ロクドーが地下通路を抜ける。マリナが次いで、最後にリィネが抜けた。
「ここは……」
「墓地……か?」
リィネの疑問にロクドーが答える。周囲を高い壁に囲まれた広い場所であった。
壁にはツタや苔が好き勝手に生えている。
また、三つほど扉が見え、ここからまだどこかにつながっているらしい。
天井はなくわずかに欠けた月の明かりが真上から入ってきている。
地面の方は凸凹としているが、確かに墓標のようなものがいくつも立ち並んでいる。
しかし、手入れなどされていないようで下草が自由気ままに生えまくっている。
「なんでこんなところに屋敷がつながっているのでしょうか……」
「いや、それはマリナが知らんならウチ達は絶対に知らんよ」
リィネが目の前で手をふりふりと振った。
「はぁ、しかし、何か不気味だな……ここ」
「そうですね。なんかこう、地面からニョキィっと手が生えてきそうです」
「やめてよ、気味悪――」
そこまで言って突然リィネが言葉を切った。ロクドーが振り向くと、リィネが頭を下げていた。
いや、屈んでいた。その上を鈍い銀光が走った。
その後ろにいたのは骸骨。
「なにこいつ!!」
リィネの叫んだ。どうやら骸骨が後ろから襲ってきたらしい。
「ロクドーさん! 後ろ!」
マリナの叫び声。ロクドーは気配だけを頼りに振り向きながらの頭のある位置に踵を叩きこむ。
ぐちゃりという気色の悪い感覚。
ロクドーを襲ったのは骸骨ではなかった。顔面の皮膚が剥がれ落ち、中の肉がテラテラと光っている。全身にもまだ肉体がいくらか残っている。
ロクドーはかっこつけたことを少しだけ後悔しつつ刀で頭を切り飛ばした。
「だれか~これ、わかる人!! 先生に教えて!!」
ロクドーはあたりを見まわした。地面からいくつもの骨や死体が起き上がり這い出してきている。
「たぶんゾンビです!」
「ゾンビ? それってもしかして死霊使い!? きゃーウチ初めて見た!!」
そういいながら、リィネは転んだ骸骨の頭をつま先で蹴飛ばす。
リィネのブーツの底は硬い木、タンコロ材である。
そのため、小気味よい破砕音と共に頭蓋骨は明後日の方向に飛んで行った。
「何でうれしそうなんだよ!! つかやっぱりかよ、やっかいな」
リィネが蹴り飛ばした骸骨が頭骨のないまま立ち上がる。
ロクドーはそれをしり目にマリナのそばに張り付いた。
マリナは剣を抜いている。そして、襲い来るゾンビに向けて切っ先を向けていた。向けてはいた。
「こいつらは人じゃない。生きてすらいない!」
マリナに襲い掛かったゾンビの腕を斬り飛ばす。
そして、バランスを崩したゾンビの腹に靴裏を叩きこんで吹き飛ばした。
「は、はい!」
マリナはやっと返事をした。が、しかしその動きは緩慢であった。
骸骨の腕のあたりを剣の側面で叩くことが精いっぱいだ。
腰がひけ、切っ先は小枝のように揺れている。先日の戦闘で見せたキレは一切見られない。
このままではじり貧になる。
「リィネ、こいつら焼け!」
「わかった!」
リィネが叫んだ。そして詠唱を開始する。
「ユヌ キャト、フルゥベ イゥラユラ フルゥ」
リィネの眼前にリィネより一回り大きな炎が現れた。
そして、リィネが手をかざすと、龍が吐く火焔のごとく、一直線に炎が射出された。
「す、すごい」
マリナはそれを見て驚嘆の色を浮かべている。しかし、そんな余裕などない。
一度死んだゾンビには死の概念がないのだろう。
腕や脚を斬り飛ばしても、胸に大穴を穿っても、頭を吹き飛ばそうともロクドー達への攻撃をやめることはない。
その上、地中からさらに新たなゾンビたちが増えていた。
「ダメだな、こりゃ。大本叩かねぇと」
「兄ちゃん、ここはウチとマリナに任せて! 魔力があの黄色いドアから来てるから、たぶんそこ!」
ロクドーはリィネを見た後でマリナを見た。震える剣を構えるとロクドーに向かって力強くうなづいた。
ロクドーは意を決した。マリナの腕をつかむ。
「え? ちょっと待ってください!」
マリナが抵抗したが、有無を言わさない。
「リィネ! あと頼んだ!」
リィネは少しだけ顔を険しくした。
「マリナ、兄ちゃんのことよろしくね」




