時と日々
伸ばされた腕。
気づけば私は背後から聖に抱き締められていた。
隼太は帰ったあとだ。
青緑で玉虫色の光沢を持つ着流しの袖。
重厚な抱擁ではなく、軽やかな風に掻っ攫われた感じだった。
ふわりと。
彼の常の在り方だ。
私は視線を後ろに推移させる。
「聖さん?」
「こと様の御意志に、基本として僕は従います。けれど渦中に飛び込まれるのはおやめください」
私は回された両腕をそのままに掴む。
「もちろんです。楓さんを置いては逝けません」
「僕はよろしいと」
「だって貴方は、私と一緒に死んでくれる人だから」
緩くなった抱擁に私は振り向いて、赤い双眸を悲しくおどけて覗き込む。
「そうでしょう?」
殉死という古めかしい習わしが似合ってしまう聖。
私が死んでも貴方は生きてと、例え命じても聴かないだろう聖。
本家と副つ家の構造から、私たちは完全には抜け出せないのだ。
当たり前のような愛し合い方が難しい。
平和が一番だと言うのに、また何やらきな臭いことになってきた。
驚くべきは隼太が佐々木恭司に楓のボディーガードを命じたことだ。
恭司はこの決定に大いに不服を申し立てていたが、最後には隼太の一睨みで不承不承、頷いた。以前は警戒される相手だった恭司たちが、今ではガードする立場に回った訳だから、世の中何があるか解らない。
楓の学校の行き帰りに恭司が同行することには、楓は疑問を抱きながらも了解したが、なぜかそうするようになって、それまで楓に打ち解けかけていた悟の態度が再び硬化したと気落ちしていた。
恭司の外見は言わば和製天使だ。
内面との落差は外からでは見えない。
楓は〝王子様に送り迎えされてる〟と同級生にからかわれているらしい。
それもまた楓には嫌なようで、最近は学校が憂鬱らしく私も頭が痛い。
依頼の無い午後、盆栽の楓を縁側でそっと撫でる。
うちにこの盆栽が来てから、葉が少し大きくなった。昨秋には紅葉もした。
私と楓との間に、他の人との間に、それだけの時間が流れたのだ。
するり、と縁の下から白蛇が出てくる。
私を見て、赤い舌をちろちろと出す。
「……思えばお前と二人住まいだったのだけれどね」
私は白蛇に感慨深く声を掛けた。
「今は人が増えた。それで。そうして、私は幸せなんだ。解っておくれ」
白蛇は心得ている、とばかりにこうべを一度垂れると、そのまま下草を這い、桜の樹にするすると登って行った。
その枝先に留まる烏は、気にしない風情で羽を寛げている。
特に両者、構うことなく自由にしているらしい。




