輪郭
日が暮れて茜色に染まる草原――――。
常は若草であるところに茜色が浸食し、色を塗り替える。
陽光の妙はそれに留まらず、空の端は蜜をまぶした桃のようで、そのあたりの空気を濃厚と思わせる。
春の黄昏時。竹林が歌う。
甘やかに郷愁めいて。
とろりとした瑪瑙のようにも、セピアがかっても見える光景の中を、楓がはしゃいで駆けている。
後々の必要性も考慮して、私は今日、楓を初めてふるさとに連れて来た。
楓が髪を靡かせながら黄昏の中を動き回る。
時々、振り返って私を見るので、その度に楓に手を振ってやる。
(ここにいるよ)
私は、両親のように楓の前から消えたりなどしない。
そう決意を秘めた眼差しで楓を見つめ返すと、桃色の頬の少女はほっとした表情を見せて、また草原を駆け回る。
ここならば危険もあるまいと思い、古寺の屋内に入って縁側で聖と茶を飲んでいると、去年の暮れに隼太がここを訪れた一件を聴かされた。
初耳の話に、私は軽く聖を睨んだ。
もちろんその程度で悪びれる相手ではない。
「――――それで音ノ瀬隼人と音ノ瀬磨理の遺髪はどうしたんですか?」
「彼の望んだように、境内に撒きましたよ」
「……そうですか……」
聖が備前焼の湯呑みをゆっくり傾ける。
「他に何か私に言うことはありませんか?」
「あります。が、言いません」
そう来たか。
「音ノ瀬隼太の殺人疑惑、ですか?」
試みに尋ねてみると、聖の赤い双眸が大きくなった。
「――――お気づきでしたか」
「…………」
私も備前の湯呑みからお茶を啜る。
「疑念はありました――――隼太が人を殺害せずに今まで生きてこられたか。そう己に問えば、返る答えは否。でもそれを直視したくなかった。彼のコトノハを鵜呑みにしていたかった。……それは私の弱さです」
風が吹き、今日は組紐で束ねていない私の髪が宙に舞う。
茜色の光沢に所々染まりながらさらさらりと。
「隼太を今後どうなさいますか?」
「私は誰の自由も縛りたくない。風のように生きるのであれば尊重したい……。隼太を、拘束しなければならないのでしょうか……」
「僕の考えを申し上げるなら、しなければならないと思います。彼は風と言うより、鎌鼬のように生きています。……けれどこと様は、隼太の野放図を捨て置いてやりたいとお望みですね」
全てを見透かすような聖に、私は静かな微笑を向ける。
「彼が今後も殺人を犯すなら看過は出来ません」
「さもありましょう」
「ですがその可能性は極めて低いと思います。私は狡い大人ですから。彼と遭遇せずに済むよう、のらりくらりとかわしますよ」
一日の最後の日の光が、聖の輪郭を縁取っている。
その輪郭をなぞるように、私は視線を滑らせた。
今は赤い瞳を直視しにくい心境だった。




