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土塊

オリジナルです。短いです。眠いです。旅行から帰りました。

以上、奏でした。

「“この世には、魔物と呼ばれる生物が闊歩している。それらの個体差は様々だが、襲いかかられた場合の脅威は当然ながら凄まじい知るべしと言えるだろう。

 だが、魔物の多くは動物と変わりない。襲われる事もあるが、それはこちらが危害を加えた時か、魔物の機嫌が悪い時にしか人間を襲わない。人間と魔物は、決して分かり合えない訳ではないのである”――著、クレイン=マッド

 ……こんなところか。向こうもこれで満足してくれるだろう」


 そこは森のログハウス。

 窓から差し込む日の光に目を細めながら、彼――クレインは机に落ちていた大量の砂(・・・・)を払った。だが、その表情はこの砂にうんざりしている、とでもいいたげだ。


「今更か」


 立ち上がると、彼の体からざらざらと砂がこぼれ落ちる。その先を見てみれば、そのログハウスの中は屋内だと言うのに外のように砂だらけであるのだ。

 そして、砂がこぼれ落ちているのは彼の衣服からではない。その中身、体そのものから流れ落ちているのだ。それを表しているのは、彼は人間ではないと言う事。

 書き終えた書物を持ち、その砂の中を抵抗も無く歩いた先にあったのは玄関。扉を開けば、家の横にたてられたポストの上には大きな鳥が待っていた。


「よ…っと。じゃぁ、ソフ爺さんのところまで頼んだ」


 その鳥の足に書物を括りつけると、鳥は一鳴きして大空へとはばたいた。

 その風圧で、クレインからは更なる砂がこぼれ落ちる。


「さて、これで今日は終わりか」


 彼はログハウスの中へ戻ると、外界と遮断するようにしてその扉を閉めたのであった。


〜◇


 【クレイン=マッド】

 森のどこかにある、小さなログハウスに住んでいる【ヒト型クレイゴーレム】の魔物である。

 まず、魔物と言う種についてだが。先程クレインが掻いた内容のほかに、中には、彼のように【ヒト型】へと変異する個体がが存在している。ヒト型は総じてある程度の知能を有し、スライムなどが変異した場合でも人間の子供に匹敵する知能を発現させる。

 魔物たちが変異するタイミングは一切明かされておらず、生まれた時からヒト型種の魔物、後天的にヒト型へと変貌する魔物もいれば、双子の魔物で片方だけがヒト型へと変化した例もある。だが、それらの魔物に共通して言えることは、“むやみに人を襲わない”と言うことだ。


「さて、何処に仕舞ったか…」


 ヒト型となった魔物は、その魔物の群れを離れるか、その群れを統率するかの選択を取るが、その二つともに“人間を襲わない”という暗黙のルールを敷く。それは、知能がついた故の生存本能か、逆に魔物としての本能を失い悟りを開いたのかは分からないが、とにかく平穏な毎日を望むようになるのだ。


「おお、ここだここだ」


 だが、その中でもクレインは珍しい部類に入る。

 彼は人とのつながりを求めながらも、このような辺境に暮らす。クレイゴーレムと言う種からヒト型へ成ったのがクレインだけだからか、はたまたクレインがヒトから作られた魔物だからかは定かではないが、こうして彼はこの日常を好んでいるのだ。


「…ふぅん? 来週の分も書いておくか」


 さらに、彼は近くにある人間の都市から一つの頼まれごとを請け負っていた。

 その内容は、魔物について情報を纏めてくれ、というものだ。

 先ほど書いていたのはその前文に過ぎない。


「“土地の恩恵によって力を授かる魔物に近づいてはいけない。そういった強大な力を持った魔物は、悪意を持ってその力を行使する場合が多々存在する。都市の東にあると言われる、暗闇の洞穴。そこに住むケイヴ・ドラゴンもその一種だ。

 それらは総じて人間・魔物・動物を問わず、命の搾取を繰り返すだけの存在へと成り果てる。現状、それに対抗しうる魔物は存在しない為、そう言った危険のある地への立ち入りは推奨しない。

 ただ、そう言った種は土地から与えられる力に縛られているので、その土地から離れる事も出来ないだろう”」


 追加要求されるであろう一文を書くと、クレインはペンを戻して一息ついた。

 同時に、その息からは砂の粒子が数粒吐き出される。

 ヒト型となっても、魔物の性質は変わっていないのだ。


「…………」


 椅子にもたれ掛かりながら、その目をゆっくりと閉じる。

 頂点から移動した日の光が彼の顔を照らし、クレインは穏やかな寝息を―――


 ドォォォォォォンッ!


「……またか」


 立てる事は出来なかった。

 疲れたように立ち上がると、彼は一直線に家の外へと歩みを向ける。その間にも爆音は何度も鳴り響いており、その音がするたびに彼は厳しい表情へと変わって行った。

 彼が扉を開けると、飛び込んできたのは、


――ごぉぉおぉおおお!

――ぎぃいぃぃぃぃぃ!!

「また湧いてきたのか…」


 人間程の丈はあろうかと言う巨大なカマキリ【ジャイアント・マンティス】と、それに突進する同じほどの大きさがあるイノシシ【ミドルファンゴ】。先程の爆音は、カマキリが避けた先にぶつかったイノシシの音だったのだ。

 どちらも魔物の種であり、通常の大きさとは大きくかけ離れている。


――ぎぃぃぃぃっ!


 出てきたクレインにも気付かず、カマキリは腕の鎌を振りあげてイノシシへと振り下ろす。だがそれが届く前に、イノシシは突貫するような突進でカマキリに牙をめり込ませた。カマキリは腹の内蔵が詰め込まれた辺りを串刺しにされ、黒に近い、虫独特の臓器が顔を見せる。

 同時に内臓器の生臭さが漂い、クレインはむっと顔をしかめた。


「ここはオレの領地だ、無暗に領域(テリトリー)を侵すなと言う制約があるだろう!」

――ぶごぉぉぉぉぉ!!


 そうクレインが叫ぶが、イノシシは勝利の嘶きを上げるばかり。クレインの事など意識の隅にさえ入っていないようだった。


「やれやれ…」


 呆れるように彼が言うと、カマキリが遂に息の根を途絶えさせた。イノシシはその遺骸を森の奥に放り捨てると、カマキリの体液が付着したままの牙を見せて、クレインの方へ視線を向ける。

 次はお前だ。と言っているように。


――ごぉぉおおおおおおっ!

「――怨むなよ」


 風を切る音と、鳴き声とが混ざった轟音を響かせながら突進するイノシシに、クレインは一言だけそう告げる。すると、クレインの少し前の地面から何かが盛り上がって来た。

 それは直前まで迫ったイノシシの進行方向にあり――その上にイノシシが来た瞬間、イノシシは空中で動きを制止した。

 いや、空中で止まっているだけではない。痙攣するようにビクビクと動いていたのである。


「今日はイノシシがメインになるな。余ったら花の養分にでもするか」


 イノシシは臓物を飛び散らし、その地面を赤く染める。先程のカマキリは飛ばされたので良いのだが、この死体の匂いに他の魔物が寄せられて、この地を侵すものがさらに増えるかもしれない、とクレインは考えていた。

 考えがまとまった彼が腕をゆっくりと下ろす動作をすると、イノシシが空中で静止した原因、地面から生えていた【土の槍】がゆっくりと形を崩していく。

 支えを失い、イノシシの体は地面に横たわる。その土の槍は心臓を貫通していたのか、イノシシの命の息吹も消えていた。


「鍋にするか、焼き肉か……丸々あるんだ。うん、いっそ両方にしよう」


 これから繰り広げられる冒険の1ページ。

 その前文に当たる、彼の最期の日常となるとは、クレインも予想だにしなかっただろう。

はい。クレイゴーレムです。なんと言おうとクレイゴーレムです。

体のつくりがどっかの悪神と似ている気がしますが、別にそんな事は無かったです。偉い人にはそれがわからんのです。

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