プロローグ|ラスト・シンフォニック:僕らが手を繋ぐ世界
この世界には残酷な理が存在する。
それは、「忘れられた者は、存在することができない」というもの。
誰かの記憶から消えることは、やがて世界からその存在そのものが失われることを意味していた。神でさえ、人々の祈りを失えば消えてしまう。命とは何か。存在するとは何か。そして、誰かに覚えていてもらうことには、どれほどの意味があるのか。
魔界、聖界、人間界、そして精神世界。
幾重にも重なる世界の中で、数えきれない命が生まれ、出会い、そして消えていく。
魔界の第二王子ゼノは、気高く冷静な佇まいの裏に、誰ひとり見捨てることのできない心を宿していた。生まれ持った才能だけに頼ることなく、どれほど困難な壁にぶつかろうとも、己の足で立ち上がり、前へ進もうとする少年である。
そんなゼノの傍らには、白銀の髪と黄金の瞳を持つ、不思議な少女・乎鞠がいた。
かつて孤独と苦しみを知った乎鞠は、ゼノの優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。彼女が望むのは、特別な力でも、華やかな地位でもない。ただ穏やかな日々を過ごし、誰かと食卓を囲み、明日も同じように笑い合える――そんなささやかな幸せだった。
ゼノは、乎鞠との出会いや、魔界で暮らす人々との関わりを通じて、少しずつその答えに向き合っていく。
彼の掲げる信念は、ただひとつ。
「全ての者の為に。」
それは魔族だけでも、仲間だけでもない。敵も、異なる種族も、この世界に生きるすべての者を含んだ願いだった。
兄ルシアの隠された想い、執事にして魔界最強の剣豪レックスとの厳しい鍛錬、そして世界を揺るがす大きな運命。ゼノと乎鞠を取り巻く人々の想いは、やがて避けられぬ争いへとつながっていく。
誰かを愛することは、誰かを守ることは、時に正しささえ見失わせる。
それでも、人は生きる。
失敗し、傷つき、誰かの手を取りながら、次の命へと想いを紡いでいく。
たとえいつか別れが訪れようとも、その人が生きた証は、誰かの心に残り、未来を変えていく。
これは、ひとりの少年とひとりの少女が出会い、さまざまな命と心をつなぎながら、世界の理に立ち向かっていく物語。
そして、すべての者が再び手を取り合える世界を願う、命と記憶、愛と絆の物語である。




