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3 喧嘩両成敗?

お久しぶりです。(╹◡╹)

お待たせ致しました。え? 待ってないよ?

ありがとうございます。








 新しい部屋は前みたいなワンルームではなくて、1L D Kの広い宿にした。

 冒険者用の宿だから、キッチンは小さな物しか付いてないけど。とりあえずは充分だ。

 だってミクリが大きくなる頃には、母ミリーナが見つかっているだろう。〈願望〉


 まっ、ミクリと暮らす様になって、色々と手狭に感じたから丁度良かった……と思う事にした。

 だって、いつからいたか知らないけど、幽霊と暮らしていたなんて色んな意味でゾッとする。



 一応新しい部屋を借りる時には、ミクリに誰もいないか訊いて確かめておいたよ。

 家主さんがクリュー達の会話を、不審そうな表情で見ていたけど致し方がない。背に腹は変えられん。




 ーーそして、"新しい" 朝を迎えた。




「パパ、おはよう!!」

「グェッ」

 クリューは潰れたカエルの様な声を出していた。

 "レイのモノ" もいないし、爽やかな朝を迎える……ハズだったのにミクリにドスンと、勢いよくのしかかられ目が覚めたのだ。

 朝から内臓が口から出る思いだった。起こし方が激し過ぎる。



「パパ……朝から……天国行く処だったよ」

 クリューはお腹を押さえ、苦悩の表情をしていた。

 娘になったミクリの起こし方はどうかしている。そんなクリューを見て、ミクリは逆に楽しそうにしているけれど。

「アハハ、パパしってる?」

「……な……にを?」

「"てんごく" って、よいひとがいくところなんだって」

 え? ミクリさん? どういう事かな?

「パパは良い人ではないと?」

 クリューは訊かずにはいられなかった。

 ミクリの言い方を聞く限り、そういう事になる。

「では、むねにてをあててください」

「? 胸に手を?」

 何が始まるのだろうと、疑問に感じながらクリューはモソリと起き上がり、言われた通りに手を胸にあてた。

「パパはいいひとだと、かみにちかえますか?」

「…………」

 ミクリにそう言われたクリューはつい、半ば走馬灯の様に過去を振り返ってしまった。



「かみにちかえますか」

「パパ……そこまで、良い人じゃなかったみたい」

 無垢な表情のミクリに改めて言われれば、クリューは嘘はつけずドンヨリしながら呟いた。

 どう考えても胸を張って「私は善人です」と言える生活は送ってはいない。聖人君子ではないからね。

 そう答えたら、ミクリが何故か隣に正座して、お辞儀をしてきた。

「おつかれさまでした」

「…………」

 え? どういう事?

 私の人生、これで終了ですか?

 クリューはショックで魂が抜けていたのであった。




 ミクリと暮らす様になって、クリューは色んな意味で毎日、精神をガリガリ削られている様な気がする。

 クリューはミクリと一緒に歯を磨いて顔を洗い、ドンヨリした気分を変える。

 そして、朝食はいつもの所で摂るか、と考えながら着替えを済まし、トイレに行く事にした。




 ーーガバッ。




「パパ、そこでなにしてるの?」

 用を足そうと便座に座っていたら、扉が急にガバリと開いた。

「…………」

 さすがのクリューも一瞬時が止まってしまった。

 ドラゴンと遭遇した時よりも遥かに驚愕していた。だって下半身が完全に無防備だから。

 思考を停止していたら、扉を開けたミクリと目が合う。目が合い、一応? 咄嗟に股間を両手で隠した。

 1人暮らしの習慣が抜けていなかったのか、トイレに鍵を掛け忘れていたらしい。

 この衝撃的な出来事をトイレに行くたびに思い出し、次からはもう鍵は忘れない事だろう。



「パパ、いま、なにをかくしたの?」

「えっと……パパの大切な "ムスコ"?」

 咄嗟に股間を両手で覆ったのが目に入ったのか、ミクリが興味深々に訊いてきてしまった。

 まさか、おチン○○を隠しましたとは言えず、男達なら良く言う例えで誤魔化してみた。

「? パパ、そんなところにムスコがいるの? まもの?」

「…………」

 そんな例えなど幼いミクリには通じなかった。

 男は皆、ある意味魔物だよ? とは言えず渇いた笑いしかでないクリュー。



「あの、ミクリさん」

「なあに?」

「トイレは何をする所かな?」

「きのうのことを、はんせいをするところ」

「…………」

 話を誤魔化してみたものの、結局2度目の撃沈を食らったクリュー。

 あながち否定出来ないのは何故だろうか?

「ゴメン、パパちょっと "反省" したいから扉を閉めてもらってイイかな」

「ガンバレ」

「うん……パパ、頑張るよ」

 もはや何を頑張ればイイのかが分からなくなったクリューなのだった。




 ◇ ◇ ◇




 冒険者ギルドに併設してあるいつもの食堂は、朝から大賑わいだ。

 これから魔物討伐へと向かう冒険者達のお腹を、満たしているに違いない。



「よぉ、クリュー」

「一児の父になった感想はどうよ?」

「親になるって大変だね」

 食堂に行けば、知り合いの冒険者達がこぞって声を掛けてきたので、クリューは苦笑いしながら感想を言った。

 彼等の歳は自分より3歳くらい下とはいえ、まだ現役でやっている。自分はもう引退した歳だ。素直にスゴイなと思うクリューだった。



「ミクリたいへん?」

「あぁ、違う違う。ミクリが大変じゃなくてパパが何も知らないから大変なだけ。ミクリは可愛いよ?」

 大変だなんて安易な言葉を使ったせいで、ミクリが自分のせいだと心配そうに訊いてきた。

 たから、クリューは慌てて否定して、不安げなミクリの頭を優しく撫でてあげた。

「そっか」

 ミクリは自分の事ではないと安心したのか、小さく笑った。



「マリアちゃん。この辺に託児所みたいな所ない?」

 ミクリをテーブル席に座らせてあげながら、クリューは店員に訊いた。

 一時的に冒険者に戻ろうと考えているのだが、現在の実力を知る必要があった。

 鍛錬は怠ってはいないつもりだし、気力は以前のままのつもり。だが、体力や俊敏性、なんなら魔物に対する察知力が低下しているに違いない。

 ミクリには自分しかいないのに、過信して無茶な依頼は受けられないからね。



「私の友人がやっている託児所がありますけど、ミクリちゃんを預けてどうするんですか?」

 クリューが元Sランクの冒険者だったのは、聞いている。

 稀少な魔法鞄マジックバッグ保持者なのも知っていた。ミクリを預けるという事は、仕事を探すのかなと察する。

 だけど、元Sランクのクリューなら遊んで暮らしていけるくらいの蓄えがあるのでは? とマリアは不思議に思った。

「少し、現役に戻ろうかと」

 改めて口に出すと、恥ずかしいなとクリューはポリポリ頬を掻いた。



「マジか!!」

「【豪神】復活!?」

「どうした、どうした?」

 途端に俄かに食堂がざわめき始めていた。

 クリューの現役時代を知っている冒険者達は、目が爛々としていた。面白さ半分、期待半分といった処か。

「ミクリとずっと家にいる訳には行かないし、ミリーナの手掛かりにもなるかなと」

 金銭的にと言うよりも、ミクリには色んな経験をさせてあげたい。

 となると、万が一危険な事に巻き込まれたとして、守れないのは親として如何なものかと感じたのだ。



「イイんじゃないか?」

 と冒険者仲間が賛同する一方で、嘲笑する声が聞こえた。

「元Sランクだか、Cランクだか知らねぇけど、歳食ってから現役復帰とかクソ笑える」

「老害は大人しくしとけっつーの!」

「若い時の栄光にしがみついて、マジダサイ」

 チラッと見れば、今脂が乗っている若手の冒険者達だった。

 歳が親と変わらないオジサンが、何を言ってやがると馬鹿にしているのだ。

「オイ!!」

 年齢が自分と大して変わらない冒険者仲間達は、ガタリと椅子から立ち上がった。

 クリューを馬鹿にするという事は、自分を馬鹿にされているとの同義。若造が舐めるなよ? と威嚇する。



「まぁ、老害でも老眼でも好きに言って構わないよ。どうせキミ達もいずれはなる運命なんだから」

 粋がりたい年頃の若い子達のケンカを買った所で、不良品だからね。イラつくだけで良い事がないと、クリューは話を流した。

 若い時は、自分が歳を取るとは考えないから、大抵の若い冒険者は粋がるものだ。斯く云うクリューも後先はあまり考えなかった口だった。

「はん。俺達はアンタとは違ぇよ」

 なぁ? と仲間達に同意を求めて嘲笑する若い冒険者達。

 自分達はクリューみたいに落ちぶれないと、言いたいらしい。まぁ、落ちぶれた覚えはないけど。



「フン、まだDランクの小僧達が良くほざく」

 クリューは買う気がない様だが、歳の近い冒険者達は気に入らない様子である。

「「「あ゛?」」」

「お前がバカにしたクリューなんか、お前達くらいの歳にはSランクの実力はすでにあった。Dランクごときが粋がるなよ」

 そうバカにした冒険者はBランクだ。

 格下のクセにとバカに仕返したのだ。

「はん。何も知らないと思ってバカにするなよ? 何がSランクだよ。Bランクだったって聞いたぜ?」

「誇張するなよ、誇張」

 誰からかは知らないが、聞きかじりで情報を持っているらしい。

 確かにクリューは、この歳くらいはBランクだった。だが、それには理由があったのだが、それは聞いていない様だ。

 多分だが、自分の聞きたい事だけ聞いて、聞きたくない話には耳に蓋をしていたのだろう。



「そこまで知っているなら、クリューが何故Bランク止まりだったか知っているな?」

 そう言って裏口から面白そうに出て来たのは、ギルドのマスターだった。

 併設されてあるギルド直営店なので、裏口はギルドに繋がっている。

 揉め事になりそうだと判断した店員が呼んだ様だった。

「実力がねぇからだろ?」

 若い冒険者は一瞬、ギルマスの登場に驚いて見せたが鼻で笑った。

 その頃のクリューのランクより自分達が低いのは棚に上げて、冒険者達は笑っていたのだ。

「実力? 大体Bだとしても、今のお前達より2ランクも上だろうが」

「たまたまですよ!」

「お前達は、たまたまで上がれる世界じゃねぇ事も分からないのかよ?」

 ギルマスは言い訳がお粗末過ぎると、呆れていた。

 たまたまでランクが上がる程、冒険者の世界は甘くはない。それを知らないのだとしたら、冒険者など辞めた方がイイ。



「アンタは古いから、そうやってソイツを担ぎ上げたいんだろうが、俺からしたら過去の栄光に縋ったジジイにしか見えねぇし?」

「俺達の時代と昔じゃ、ランクの上がり方も違うし」

「実力なら、今の俺達の方があるんだよ」

「あーでも、残念。過去のアンタとは争えねぇや」

 そう言ってわざとらしく小バカにした様に笑う若い冒険者達。

 過去のランクの価値と、今のランクの価値では平等ではないと言いたいらしい。

 何がなんでも、クリューが今の自分達の上だと言う事を認めたくない様だ。



 ギルマスにも噛み付く若い冒険者達に、古参の冒険者達もギルマスも、クリューを慕う冒険者達もイラついていた。



 一触即発な雰囲気が流れていた。




「アンタさぁーー」

 黙り込んだのを、自分に逆らえなくなったと勘違いした若い冒険者は、気分良く更に言ってやろうと口を開いた瞬間ーー。



「うるさーーい!! パパをばかにするな!! 【こうちょく】」

 なんだか良く分からないなりに、クリューがバカにされたと感じたミクリは魔法を発動したのだ。

「「「グッ!?」」」

 若い冒険者達は、何がなんだか分からないまま身体が硬直していた。

 そう、ミクリの魔法【硬直】で、身体がピクリとも動かなくなってしまったのである。

 いくら暴れても、微動だにしない。身体が石の様になってしまった様だった。



「あの? ミクリさん?」

 クリューが頬をヒクヒクさせていた。

「「「ミクリちゃん?」」」

 ギルマス達も頬を引き攣らせていた。

 なんなら、店員も関係ない他の冒険者達も頬を引き攣らせていた。



 そう、何故なら、ここにいた全員が何故か硬直して動かないのだ。

 わずか5歳の幼い娘が、広範囲の魔法をガッツリかけたのだ。高魔道士の冒険者もいるというのに、解除どころかピクリとも動けなかった。



「ケンカはいけないの!!」

 ミクリは頬を膨らませ、プンプンと可愛らしく言ってはいたが、やっている事は全く幼くもないし可愛くない。

「ハイ」

 クリューは何故、自分も怒られてなければいけないのか分からないまま、とにかく謝罪した。

 クリューの勘でしかないが、謝って損はない。

 だって、あのミリーナの娘だしね?



「ミク、ミクリさん? 何をするのかな?」

 クリューはピクリと頬をさらに引き攣らせた。

 何故ならば、ミクリは "何もない空間" からヒノキ棒を1本取り出したからだ。ソレを何にどう使うつもりなのかが全く分からない……と言うか、分かりたくない。

 ミリーナも規格外な賢者だったが、ミクリもさらに規格外な様だ。

 空間魔法は超高度な魔法である。それを、いとも簡単にやってのけたのだ。感嘆よりも恐怖でしかない。




 ーーポカ、バカッ。




 小気味良い音がし始めた。




 ーーグニュ、バキッ、ボコッ!!




「ギャーーッ!!」

「ヒギャーーッ!!」

 そんな静寂した店内で小気味良い音に混じり、先程、クリューをバカにしていた冒険者達の叫び声が響き始めていた。

 次々と襲う猛激痛に、1人また1人と泡を吹いて気絶していた。



「「「…………っ」」」

 全員、顔面蒼白である。

 では、ミクリは "何" をしたのか。



 空間魔法で取り出したヒノキ棒で、硬直させた冒険者達の "股間" を叩きまくったのである。

 動けない冒険者達は、ヒノキ棒でムスコさんをフルボッコ。激痛に堪えられず泡を吹いて白目を剥いていた。ある意味、処刑だ。

 お尻の穴がキュッとしてきたし、なんなら叩かれていないムスコが、恐怖で奥に引っ込みそうだった。




「んぎゃーー!?」

「ミクリさん、な、何故にーーギャーーッ!?」

 クリューに絡んだ冒険者達以外の、悲痛の叫びが次々と上がり始めた。

 理解出来ないが、ミクリは若い冒険者達を叩きのめすと、全く関係ない他の冒険者達の股間も叩き始めたのだ。

「ミ、ミクリさん!? ご乱心!?」

「俺はなんも言ってねぇ〜!」

「クリューさん助けてー!!」

 クリューどころか全員パニックである。

 微動だにしない。だが、無表情のミクリがヒノキ棒片手に、徐々に接近して来る。

 そして、異様な叫び声。恐怖でしかない。



「ケンカりょうせいばい。えいっ!!」

 そう言って、次々と男の冒険者の股間を襲うミクリ。



「「「ギャーーッ!!」」」

 その日、ギルドの食堂では、理不尽過ぎる喧嘩両成敗に、何も抵抗出来ない男の冒険者達の悲しい叫び声が響いたのであった。











 〈クリュー以外〉(笑)






良い子はマネをしないで下さい(笑)

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[良い点] 続きを是非書いてほしいです! めっちゃ笑いながら読ませて頂きました! [一言] 更新されるのを気長に待っています!
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