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元冒険者クリューの穏やかな一日  作者: 神山 りお


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2/22

1 キン……? 





 ーー快晴の朝、爽やかな風。



 冒険者だった頃ならば、冒険者日和だと軽い足取りで、ギルドに向かっただろう。だが、クリューはもう冒険者を引退した。

 今は、冒険者の時に稼いだお金や素材で、慎ましく生きている。



 そんなクリューは爽やかな朝を迎え、ベッドから起き上がると、ゆっくり頭を整理する事にした。



 私の名はクリュー=ブライト。歳は42。

 元Sランク冒険者。現在は引退。



 昨日めでたい? 事に子供が出来ました。

 母は元パーティだったエルフで、サラサラした金髪を靡かせた美しい女性だった。

 しかし、既成事実は全くない。

 記憶にないのではなく、全く身に覚えがないのだ。



 やる事をやってないのに、何故か自分の娘だと主張する手紙に、初めこそパニックを起こしたが今は冷静になっていた。



 自分の隣でスヤスヤと寝息を立てて寝ている娘、もとい子供はミクリといって母に似て美形だ。

 母の名はミリーナ。元冒険者仲間でどういう訳か現在行方不明。

 一方的にこの子を預けていなくなった。実に困ったエルフだ。


 

 さて、どうしようか。

 独身なので、子育ての経験がまったくない。子守り程度の事ならやった事はあるが、そんなあってない様な経験など、まったく役に立たないだろう。

 とりあえずは子供のいる家庭に相談しながら、やっていこうと思う。



「パパおはよう」

 そんな事を考えていたらミクリが起きたみたいだ。

 目を擦る仕草は何処か心がほっこりする。

 しかし、この歳で自分の子供以外にパパ呼ばわりされると、お腹がこそばゆい。まるで、パパ活みたいではないか。

「おはよう。ミクリちゃん。昨日も言ったけど、私はキミのパパじゃないから"おじさん" か "お兄さん" って呼んでくれるかな?」

「うん、わかった。おじいさん!!」

「まさかの融合」



 結局、パパでイイと諦めた。

 ミリーナが何を言ったか知らないけど、自分をパパと慕うミクリに罪はないからね。



 一緒に顔を洗ったり、歯を磨いたりして身支度を終えるとミクリを連れて外に出る事にした。

 男1人の生活だから、女性の服どころか子供の服が家にはない。子供の物なんて何一つない訳だから、最低限の物を買わなければならない。

 だってこの子、着のみ着のままで来たから何もないんだよ。

 ミリーナよ。子供を預けるにしても、せめて必要経費は置いていけ。丸投げはヤメロと、ココにはいないミリーナに内心文句を言う。



「パパどこいくの? トイレ?」

「何故外に。キミの服を買いに行くんだよ」

 ウチ建築現場でも、ど田舎でもないから外にトイレはないし、子供を連れてトイレに行くってどういう事かな?

 とりあえずは服は何着か買って、あぁ、靴や鞄も必要か。色々必要な物を考えながらクリューはミクリを連れて宿を出た。

「ほんとう!?」

 服を買ってあげると訊けば、やっぱり女の子なのか嬉しそうだ。花の様な笑顔を見せたミクリ。

「どんな服が欲しい?」

「ミクリ、あのふくがほしい!!」

 そう言って指を差した方向を見れば、宝飾品がこれでもかとギッシリ付いた超お高そうなドレスがある店だった。

「パパ、この先老後があるから。普段着を買おうね?」

 あんなの買ってたら、すぐに破産するよ。

 クリューはいそいそとミクリの手を引いて、足早にドレスの店から遠ざかって行った。



 しばらく歩くと、ちょうど良く子供服専門店が見えた。ガラス越しから見る限り、値段もそれ程高くはなさそうだ。

 ミクリの手を引き店の扉を開ければ、早速、いらっしゃいませと歩み寄って来た可愛らしい店員に声を掛けてきた。

「とりあえず、この子に似合う服を上下合わせて10着ぐらい。後は靴とか靴下。それと下着も何着か選んでくれるとありがたい」

 クリューは、近くにいた店員にすべてを丸投げする事にしたのだ。

 自分のセンスに自信はないし、着せたい服とミクリが着たい服は違うだろうしね。

「分かりました。初めまして、私はマリーよ。お名前は?」

「ミクリ」

「じゃあ、ミクリちゃん。どんな服が着たいか見ていこうね?」

 マリーと言う店員は非常にご機嫌だ。

 何故かと言えば冷やかしではなく、クリューが沢山の服を購入してくれると分かったからだ。それも上から下まで一式。

 しかも、選んでくれと任された。こんな嬉しいお客様はいない。安い物に高い物を混ぜ、ミクリのご機嫌を取りつつ上機嫌で選ぶのであった。




 ミクリが服を選んでいる間、暇を持て余していたクリューは、店の窓から外を眺めていた。

 本音を言うなら、服を選んでいる間、お茶でもしたい。だが、小さい子供を置いて行く無責任である。だから、人間ウォッチングをしていたのだ。

 そんな暇潰しをしていると、他の店員がイスとお茶を用意してくれた。

 どうやらクリューの買い方を見て、上客と判断された様だ。香りの良い茶葉に、クリューも寛ぐ事が出来た。



「パパ〜っ!」

 そんなこんなで、のんびりと紅茶を楽しんでいたクリューに、徐にミクリが声を掛けてきた。

「ピンクとブルー。どっちがイイ?」



 ーーブフッ!!



 ミクリが見せて来たモノを見て、クリューは思わず紅茶を噴き出した。

「パパどっちがイイ?」

「どっちでもイイから」

 クリューは顔を横に逸らせた。

 だってミクリが手にしているのは、ヒラヒラと可愛らしいフリルが付いた"下着パンツ" だ。

 いくら子供のとはいえ、ガン見できない。

「ピンクとブルー」

 顔を逸らせていたら、歩み寄って来たミクリが、顔面にチラチラと掲げてきた。

 こういう強引な所、母ミリーナに似てるよね?

「両方買っちゃいなさい」

 下着なんか幾らあっても困らないだろうし、選んだ方が正解とは限らないのが女性だ。値段もお手頃だから、一枚増えても構わない。

「え〜っ、んじゃ、パパとおそろいのブルーにする」

「……」

 ミクリちゃん? 私の下着、いつ見たのかな?


 


「「「ありがとうございました!!」」」

 ミクリの洋服や靴もろもろを沢山買ったので、店員達がもの凄くご満悦な様子で、出入り口まで見送ってくれる。

 何だか、お金を使ってくれてありがとうとでも言われている様だ。

 そんな店員達に、クリューは思わず苦笑いが漏れていた。

 沢山の荷物はとりあえず、魔法鞄マジックバッグに入れておく。さすがにこの量は持ちきれない。

 こういう時、幾らでも入る魔法鞄マジックバッグは便利だ。引っ越しもものスゴく楽だったしね。




 ◇ ◇ ◇




 ずっと同じ服だったミクリは、買った服を早速試着室で着替えさせて貰っていた。

 さすがに、ずっと同じ服じゃ気持ち悪いだろう。

 フリフリの付いた淡いブルーのワンピースで、顔がとにかく可愛いから良く似合っている。

「パパ。ミクリおなかがすいたかもしれない」

「かもしれないのか。朝食もまだだったし、どっかでご飯を食べようか」

 何がイイかな? と辺りをキョロキョロと見るクリュー。

 子供ならハンバーグやオムライスみたいなのが、イイのかなと考える。



「何か食べたい物あるかな?」

「ワイバーンのからあげ」

 子供の言うご飯のメニューではなかった。

「パパ、色んな意味で死んじゃう。とりあえず、昨日と同じ所に行こう」

 クリューは昨日と同じで、冒険者ギルドに併設してある食堂に行く事にした。

 現役なら狩り獲ればタダだけど、ワイバーンなんて高級品だ。そんなの朝から食べていたら、あっという間に破産してしまう。



 ギルドの食堂に入れば、昨日の今日でミクリの事を知っている皆が温かく迎えてくれた。

 事情を知っているギルドマスターも、早速他の街のギルドに母ミリーナの事を訊いてくれている。

 今の所、まだ情報はないみたいだけど。



「あら、ミクリちゃん。可愛い服」

 昨日いたウエイトレスのマリアが、優しく迎えてくれた。

「パパがかってくれたの!!」

「そう。良かったわね」

「うん!! パンツもおそろいなの!!」

「……うん? 良かった……わね?」

 下着までお揃いと聞いてマリアは困惑して笑顔のまま固まっている。

 お揃いと言っても色だけだよ? ってそれもどうなんだろうか。クリューは同じく苦笑いのまま固まった。

 満面の笑みを見せるミクリは可愛いけど。

 まぁ、それだけ喜んで貰えたのなら、奮発して買った甲斐もあるものだ。それと同時に素直な子で良かったと心底思う。

 これが生意気で暴力的な子供だったら、預かるにしても嫌気が差していたに違いない。



「マリアちゃん。私にはいつもの朝食セットでミクリにはお子様用に何かお願い出来るかな?」

 空いている席に、魔法鞄マジックバッグから出したクッションを置いてミクリを座らせると、クリューは気を取り直して注文する。

 さすがに自分と同じでは量が多いし、サンドウィッチは食べづらいだろう。

「分かりました。ミクリちゃん、飲み物は何にする?」

「キングスターメロンのジュース」



 ーーブブッ。



 それを聞いていた冒険者達が、口の中の物を噴き出していた。



 

 それも当然だ。なにせ、一個ウン万ギルはする最高級品の果物なのだから。

「…………」

「オレンジジュースでお願いします」

 マリアが困惑した表情でコチラにお伺いを立てて来たので、クリューは普通のジュースをお願いした。

 そんな物ここには置いてないし、あったとしても懐が餓死しちゃう。ヤメて下さいミクリちゃん。

 そう言うとマリアは再び苦笑いしながら厨房に去って行った。



「パパ、ママはなにをころしにいったんだろうね?」

「……パパが一番知りたいです」

 足をプラプラさせて可愛らしく言うミクリ。

 だけど、会話の内容が物騒過ぎて、他の客がドン引きしている。

 クリューは先にきた珈琲を飲みながら、深い深い溜め息を吐いていた。

 ミリーナは娘に一体どういう教育をしているのだろうか?

 人様のお子様だけど、物騒な言葉は教えないで欲しいと思う。



 クリューの朝食セットは、先にきた珈琲。ハムと玉子のサンドウィッチと日替わりのスープ、それとサラダが付いた物。

 ミクリのは、ベーコンエッグとパン、それとオレンジジュースとスープだった。

 ミクリは余程お腹が空いていたのか、モリモリ食べていた。可愛い子は何をしていても可愛い。

 そんなミクリの姿を、クリューや他の人達も温かい目で見ていた。



「美味しい?」

「うん! おいしい」

「良かったね」

 モグモグするミクリと、穏やかな朝を迎えているクリュー。

 しかし、これからどうしたものかを考える。

 子供一人くらい養えるくらいの蓄えはあるが、ミクリの母を捜す資金や情報は欲しい。期間限定で冒険者に戻るのもありか、と本気で考え始めるクリュー。



 そんな真面目な事を考えている隣では、ご機嫌そうなミクリが玉子をフォークでブスリと刺して、こう言った。

「パパ」

「うん?」

「ミクリ、キンタ○たべたい」



 ブフーーーーッ!?



 その瞬間、店にいた全員が盛大に口から何かが噴き出した。





「……えっと、ミクリちゃん? 今なんて?」

 クリューは困惑した表情でミクリに改めて訊く。

 クリューの聞き間違いかなと思ったのだ。

 それは皆も同様だったらしく、クリュー達の会話を固唾を飲んで聞いていた。

「ミクリ、これじゃなくてキン○マたべたい」

 そう言うと改めて、目玉焼きにフォークをブスリと刺した。


「「「…………」」」

 全員今度こそ絶句である。

 食べたいと言っているのだから、食べた事があると云う事? なのかもしれない。

 ……え? しれないの?



「キン……タ……えっと。ミクリちゃん食べた事あるのかな?」

「あるよ?」

 クリューが恐々訊いて見れば、ミクリは実に良い笑顔で答えてくれた。

「ア、ソウデスカ」

「このたまごより、あじがこくておいしかった」

「ソウデスカ」

 味の感想まで言ってくれるミクリに、もはやクリューは力のない返事しか返せなかった。

 なんだろうか。ここにいる男子全員が色んな意味で顔を顰め、なんなら股間を隠すかの様に内股気味になっている。



「にくもおいしかったよ?」

 次の言葉をミクリが紡げば、クリュー達は「ん?」と首を傾げた。

 肉も美味しい、となればキン○マは我々の考えているキンタ○ではないのではないのか?

 まさか、人肉の話ではないだろう。



「ミクリ。1つ訊いてもイイかな?」

「なぁに?」

「"キンタ○" って何?」

 クリューは内心ドキドキしながら訊いていた。

 だってコレで人に付いているモノとか、パパにも付いているでしょ? なんて答えが返ってきた日には、クリューは対応に困る。

 むしろ、世の中の男子が恐怖で体が震える事になるだろう。



「キンタ○はキンタ○だよ?」

「…………」

 うん。そんな答えなど待っていなかった。

 そんな可愛い顔で爽やかに口にしないで欲しい。

「誰のを食べたのかな?」

 こうなったら訊かない訳にはいかない。

 だって、母ミリーナはナニかを殺しに行くくらいだから、万が一もあり得る。

 


「うんと、きんいろのとり」

「きんいろ……っ! ママはそれの事【金糸鳥】って言ってなかった?」

 金糸鳥とは文字通り、金色の羽を持つ鳩くらいの大きさの鳥だ。

 羽は装飾品として高く売買されている。警戒心が強くて捕獲し辛いため、最高級品とも言われている。

「ん〜? いってたかもしれない」

 そうミクリが言えば、皆からも安堵の溜め息が漏れていた。

 良かった。誰かのキンタ○は無事だったと。


 

「なら、それってひょっとして……鳥の卵の話?」

 まさか、さすがに鳥のキンタ○って事はないだろうと訊いてみる。

 一応念の為にだが、確証は欲しい。ミリーナの娘だから安心はまだ早いのだ。


 そんな皆の心配をよそに、ミクリは不思議そうに聞いていた。

「そうだよ?」

「「「はぁァァ〜」」」

 ミクリがオレンジジュースを飲みながら言えば、やっと全員から安堵の溜め息が漏れた。



 【金糸鳥の卵】を略してキンタ○。



 そういう事ですか。

「ミクリちゃん。略して言うのヤメて貰ってイイかな?」

「なんで?」

「え〜と。色々と"さわり" があるから」

「さわり?」

「うむ。大人の事情?」

 障りや汚れと言っても分からないだろうし、ましてや男の股間に付いているからとも言えない。

 クリューは漠然と答えてみた。

「ふ〜ん?」

「言わないと約束してくれたら、パパ頑張って生きるから」

「うん! がんばっていきて」

 ミクリはなんだか分からないが、皆の表情とお願いするクリューの顔を見て頷いてくれたのであった。



 ちなみに後から訊いた所、母ミリーナがミクリに出す時に「キンタ○の目玉焼きよ?」と良く出していたのでそう言ったそうである。



 ミリーナに会ったら子供の教育とは何かを、少しばかり説教したいと思うクリューなのであった。









あらすじにも書いてありますが【完全不定期連載】ですので、次があるかはお約束出来ませんご了承下さい。

 :(;゛゜'ω゜'):ゴメンナサイ

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― 新着の感想 ―
電車の中で読むものじゃない………笑いを堪えるのがキツかった……………面白いです。家帰って爆笑したいです。
[一言] とても楽しく読ませていただきました。 更新が待ち遠しいです。 「聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました」の感想が書けないのでこの場を借りて一言。 超面白い!何度も読み…
[良い点] キン○マ…女の子の口からキン○マ… 2~30年前のド○フみたいなセリフ展開でしたネ…(苦笑→実は大爆笑) [気になる点] はたして、この元Sランクさん…本当のところ、どうやって口に糊して…
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