12.強引な言動
《前回のあらすじ》
【2032年 過去】
高橋と利沙、マットの三人で、ジョージとルナを襲撃した。マットは密かにルナを逃がし、ジョージを抹殺した。
翌日、高橋が出勤すると、マットが警視庁の前で待っていた。
「俺、これからお前の仕事を手伝うわ。」
もう決めた事だと言わんばかりに、マットが馴れ馴れしく高橋の肩に手を回した。
「そんなこと許されるわけがないだろう。」
「大丈夫だって。俺が見つめれば、誰だって思うがままだ。」
「そんな能力を警視庁の中で使うな!」
「ちょっと暗示をかけるだけだ。心配するな。お前だって俺がいた方が心強いだろう。Vamp相手の仕事だからな。」
マットは戸惑う高橋と半ば強引に警視庁に入っていった。誰もが、高橋の知り合いだろう……と、マットに対し気にする素振りを見せなかった。しかし、利沙だけが驚いた様子で二人を見つめていた。そんな利沙に向かって、マットはウインクし、大きく手を振った。一方の高橋は肩をすぼめて、お手上げというジェスチャーをした。
そこに、生駒部長が顔を出した。
「高橋、例の屋敷が燃えたらしい。不審火なのか、意図的に燃やされたのか……。本田君と見に行ってくれないか。」
生駒部長はそう言うと、高橋の横にいるマットを見た。
「ところで、その方は?」
高橋が説明する間もなく、マットは金色に光る目で生駒部長の顔を覗き込み、
「俺は捜査協力をしにきた、コンサルタントのマットだ。」
と、かろうじて聞こえる声で言った。すると、生駒部長は何の疑いもなくあっさりと彼を受け入れ、マットの肩に手を置いた。そして、
「そうだった、そうだった、すまない。今日から捜査を手伝ってもらう、マット君だったな。よろしく頼んだぞ。」
と言い残し、部長室に入っていった。
「……俺にはその能力、使うなよ。」
「分かった。分かった。」
軽く受け流したマットを、高橋は信用できないというように横目で見た。
高橋が自分のデスクに鞄を置くと、マットはそのデスクに腰かけ、無造作に置かれている郵便物を見て言った。
「お前、高橋雅史っていうんだ。これからは、雅史って呼ばせてもらうぞ。」
「なんと呼んでくれてもいいが……。これから、お前が燃やした屋敷を見にいかなければならないんだ。大人しくしていてくれ。」
「俺のことは、マットでいいからな。——そして、俺が屋敷の調査に同行しよう。」
「本田と行けって言われているんだ! 本田、行くぞ。」
高橋が本田を誘った。本田はいつものように、ローズマリー入りのハーブティーを飲んでいた。その本田の前にマットが立ちはだかり、金色に光る目で暗示をかけた。
「お前は、今日は留守番だ。おとなしく事務仕事でもしていろ。」
すると、本田は、
「今日、僕は内勤ですね。高橋さん、マットさん、行ってらっしゃ~い。」
と、愛想よく手を振った。
高橋は、ローズマリーを飲んでいた本田が、いとも簡単に暗示にかかったことに驚いた。そして、こんなにローズマリーの効き目が無い奴もいるのか……と、本田をまじまじと見た。
「高橋さん、どうしたんですか?」
本田は何も気づいていないようだ。
「いや、何でもない。悪いことは言わん。ローズマリーをもう一杯飲んでおけ。」
高橋は本田にそう言うと、マットと共に警視庁をあとにした。
「僕、今日内勤なのに、また飲むんですか?」
本田は言われるがまま、もう一杯ハーブティーを飲み干した。
☆
高橋とマットは、焼け崩れた屋敷の前にいた。燃えて黒く変色した柱が、所々に転がっている。高橋が焼け跡を見ながらマットに聞いた。
「この場には死体らしきものが無かったらしい。死体はどうした?」
「Vampは死んで暫くすると、ミイラのように干からびてしまう。歳を取らないまま生きてきた反動なのか……。死体は燃やしてしまえば灰になり、跡形もなくなる。手厚く葬られることもない……。」
「なら、ジョージもルナも屋敷と一緒に燃えてしまったというのか。」
「そういうことだ。」
高橋はマットの心が読めないでいた。——曲がりなりにも、共に暮らしていた同士が死んだのだ。しかも、己の手で殺めた仲間の死だ。彼はこの現状をどう受け止めているのだろうか……。
「お前は、これからどうする? まさか警視庁に居座るつもりじゃないだろうな。」
「俺にも、雅史の仕事を手伝わせてくれないか。」
マットの表情は真剣そのものだった。——ジョージとルナがいなくなった今、マットを無下にあしらうのは非情な行為かもしれない……。高橋はマットの目を見て言った。
「お前を信じていいんだな。」
「俺は、雅史や利沙を守ってやれるかもしれない。信じてほしい。」
Vampであるマットの口から守るという言葉が出てきたのだ。高橋はマットを信じるほかなかった。
☆
二人は警視庁に戻り、報告書をまとめた。
『ジョージとルナは、屋敷と共に燃えてしまった可能性が大きい。Vampは死後、暫くすると干からびた状態になる。屋敷と共に燃えたとすれば、二人の死体は灰になったと考えられる。この事件は解決済みである。』
報告書を作成し終えた高橋は、帰り支度をしながら、本田に仕事の引継ぎをしていた。小学校に涼介を迎えに行くためだ。防災の日は親子が連れ立って下校するのだ。
「これから、子供を迎えに行くのか? 俺も一緒に行こうかな。」
高橋の元に、マットが近寄ってきた。
《次回》
マットと涼介、初めての対面……。
次回エピソード《13話》は明日投稿します。お楽しみに!




