13.マットと涼介との出会い
《前回のあらすじ》
【2032年】
同居人を失い独りになったマットは、Vamp捜査課のコンサルタントとして、高橋たちと共に働きたいと申し出た。
「これから、子供を迎えに行くのか? 俺も一緒に行こうかな。」
高橋の元に、マットが近寄ってきた。
「でかい男が二人で迎えに行くのはおかしいだろう。そうでなくても、大体母親が迎えに来るのに……。」
「母親とか、父親とかいう時代じゃないだろう。そんな古いこと言っていると、子供に笑われるぞ。それに、雅史の子にも会ってみたいし……。」
高橋は断れないまま、マットと共に涼介の待つ小学校に行くことになった。マットが当然のように高橋の車に乗り込んだ。
「お前、特別仕様車じゃなくて大丈夫なのか?」
高橋は驚いた様子でマットに聞いた。車内に降り注ぐ強い陽射しはVampにとって命取りだからだ。
「俺のこのコートは、そこら辺のVampが着ているのとは格が違う。薄手なのに、車内の強い陽射しにも対応できる。これこそ、マット様用特別仕様コートなのさ。」
「そんな便利なものがあるのか。」
「素材は、企業秘密。」
マットの目がキラリと光った。
マットはどのくらい生きているのだろうか。身体が歳をとらないと、心も若いままなのか……。彼は大人が持っている虚栄心を微塵も感じさせない……、と高橋は思った。
☆
小学校に着き、涼介の教室に入ると、母親たちの群れが待ち構えていた。大きな男二人に視線が集まった。
「なんで、ジロジロ見るんだ?」
シャーと牙をむき出しにして威嚇しかねない様子のマットに、
「気にするな。」
と、高橋がなだめた。
そこへ、親の迎えを待っていた涼介が小走りで近寄ってきた。
「パパ、何で友達連れてきちゃったの? 保護者しか学校の中に入っちゃいけないんだよ。ほら、先生も不機嫌そうな顔して、こっち見てるじゃん。」
「悪かった。どうしても、こいつが来たいって言うから……。」
高橋は分が悪そうに答えた。
「よっ! 俺は、マット。お父さんの仕事仲間だ。ヨロシクな!」
マットは涼介の頭を髪の毛がクシャクシャになるほど撫ぜた。すると、
「やめてよ!」
と、マットの手を払いのけ、涼介はすぐに髪型を整えた。
「僕はおじさんに初めて会うんだよ。初対面の子には、余り馴れ馴れしくしない方がいいよ。今は、知らない人には近づくなって教わるんだから。」
「俺はパパの知り合いだから、知らない人じゃないだろう。」
と言った瞬間、マットの目がキラリと金色に光った。——やばい! と思った高橋は、担任の先生に挨拶をすると、マットと涼介を連れて慌てて教室を出た。
「涼介に暗示は使うな! 暗示なんかで仲良くなっても仕方ないだろう。」
高橋が、前を歩いている涼介に聞こえないように耳打ちした。
「いつもの癖で、つい……。」
マットはそう言うと、
「お父さんと俺は、めちゃめちゃ仲がいいんだ。だから、雅史の息子のお前とも仲良くしたい。ヨロシクな。」
と、涼介に握手を求めた。涼介も分かったというように、それに応じた。
駐車場に着くまでの間、涼介はマットのことが気になり、彼をチラチラ見ていた。
「パパ、この頃、友達をよく連れてくるね。マットおじさんも利沙を知っているの? 仕事仲間なんでしょう。」
「ああ、マットおじさんは利沙さんとも知り合いだ。」
高橋は利沙もマットも警視庁で働いていることを説明した。
「ねえ、もうすぐ利沙の誕生日だって、パパ知ってる?」
突然、涼介が得意げに言った。先日、利沙に会ったときに誕生日を聞いていたのだ。利沙と職場が同じだからといって、高橋もマットも誕生日までは知らないだろうと踏んでの発言だった。
「へぇ~誕生日か。……じゃあ、みんなで利沙の誕生日パーティーをやろうぜ。」
そう言ったのはマットだ。
「で、誕生日はいつなんだ?」
「9月22日。乙女座だって。」
涼介は、利沙のことなら何でも知っている……というように即座に答えた。
「……利沙さんは誕生日会と聞いて、喜ぶだろうか?」
高橋は慎重に考えるべきだと思った。——歳をとらない彼女は、誕生日をどう思っているのかと……。一方のマットは高橋とは裏腹に、
「どんな人間だって、みんなに祝ってもらえば嬉しいものさ。Vampだって同じだ。」
と、断言した。
マットのVampという言葉に、高橋はビクッとした。涼介は利沙もマットもVampであることを知らない。職業柄、高橋は無意識のうちにVampという言葉を涼介の前では使わないようにしていたのだ。
「誕生日パーティー! 誕生日パーティー!」
涼介にはVampが聞こえなかったらしく、誕生日パーティーを連呼してはしゃいでいた。
「警視庁の一室を借りようぜ。生駒部長に言えば貸してくれるだろう。利沙は特別だからな。あとは、利沙のことを知っている何人かに声を掛けてみるか。」
涼介の喜ぶ姿を見たマットは、誕生日会の計画を率先して立てようとしていた。
「マットおじさんも利沙のことが好きなんだね。僕も利沙が大好きなんだ。」
「そうか。俺たちは恋敵だな。」
マットは冗談っぽく答えた。——マットは人の懐に入るのが上手い。それはマットの人徳だ……、と高橋は感じていた。
「俺はこれで、サヨナラだ。じゃあな!」
気を良くしている涼介にそう言うと、マットは去って行った。——マットは純粋に俺の子に会いたかったのだろう。人間に興味を示すVamp……。今まで高橋は、利沙以外にそんなVampには会ったことがなかった。
【2050年 現在】
「遅くなっちゃった。」
彼女の声がした。夕食を用意するために来てくれたのだ。
僕は慌てて玄関に向かい、彼女の前に立った。
「マットおじさんが来ているんだ。会ってみるか?」
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、食材が入った袋を玄関に置いたまま、何の躊躇も無くリビングに入っていった。
僕は彼女のあとを追った。マットおじさんを睨みつけて立ち尽くしている彼女の横で、僕はおじさんに話しかけた。
「本を読んでいるところを邪魔してすみませんが、僕の彼女を紹介させてください。」
マットおじさんが本を置いて顔を上げるや否や、彼女がおじさんの心臓を鷲掴みにした。マットおじさんは一瞬苦しそうに顔をゆがめたが、彼女の顔を見るなり、懐かしそうに笑みを浮かべた。
「ルナ、久しぶり。相変わらず手荒いな……。」
《次回》
マットとルナ、久しぶりの再会に……。




