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もう奴隷すら信じれない  作者: もらもらいずん
10/13

10 苦悩(急)



 ダークエルフの男が、あり得ないといった顔で言う。


「何、だお前……。 僕に、何、をした……?」


 どうやら、アレイスターの魔法か魔術によって体の動きを制限されているらしく、喋るのもやっとといった風なダークエルフ。

 アレイスターが、ローブの下でニヤリと笑う。


「ははは、貴方は知らなくていいことです。 それよりもアザミさん、こんな状況で私を呼んだということは、何か対価はお持ちですね? 私、ただ働きはしませんよ?」


「当然ある。安心しろ、お前が昇天するくらいのやつだよ」


「ほう! 畏まりました、楽しみにしてます。では、アザミさんフィスを連れて逃げて下さい。外の怪しい人間は全員気絶させておきましたので」

「南門の方に行って下さい。後で合流します」


「南門、か。 絶対、に、逃が、さんぞ、竜種……!」


「貴方はさっさと眠って下さい。何で起きてるんですか?」


「この、程度、で、僕、は、気を、失う、など、しない……!」


「そうですか。アザミさん、何突っ立ってるんですか、早く逃げて下さい。おそらく別の追手が来ますよ」


「あ、ああ。お前ら、逃げるぞ!」


 片腕がないフィスに上級ポーションを飲ませ、全身を覆うローブを着させる。

 上級なんだ、腕は生えずとも止血ぐらいはしやがれ。



 

 フィスは、取りあえずは大丈夫だろう。死ぬってことはないはずだ。

 今は逃げなければ。


 逃げるにしても、普通に玄関まで行くのは馬鹿らしい。

 だったら……!


「エリシア! 『俺を抱いて窓から飛び降りろ』!」


「この腑抜けが! フィスも付いてこい!」


「……うん!」


 本当に嫌そうな顔で、俺をお姫様抱っこするエリシア。

 助走なしで駆け出し、部屋の一個しかない窓を突き破る。


 バリィン!


 二階からの落下なので、あまり衝撃は来なかった。

 フィスが少し体制を崩しながら下りてくる。


 エリシアの腕から地面に下り、周囲を見回す。

 誰もいない道の上には、ローブ姿の人間が数人転がっていた。

 アレイスターがやった奴だ。


 取りあえず宿は出た。なら次は南門だ。

 南門の方向は……


「あっちだ、町の地形くらい頭に入れておけ馬鹿」


「でもちゃんと教えてくれるのが、エリシアのいい所だよな」


「黙れ屑、無駄口を叩く暇があるならもっと速く走れ」


 暗い街路を走る途中、フィスの速度が落ちてきていることに気付く。

 俺が声を掛けようと思ったその時、エリシアがフィスを抱き上げ走り出す。


「フィスくらいの重さならないのと変わらん、気にするな」


「ごめん、エリシア」


 やっぱ根は優しいな、こいつ。

 だから奴隷を使う俺が、許せないんだろうけど。




 しばらくして、ヨグトの中心部まで走ってきた。

 俺たちが泊まっていた宿は北門の近くだったので、やっと折り返しといった所か。

 

 エリシアのスピードに合わせて走っていたので、息は切れ、吹き出た汗で服がびしょびしょになっている。

 冒険者になって多少は体力も上がっていたと思っていたが、獣人の身体能力には敵わない。

 その証拠にエリシアは息切れ一つ起こしていない。 

 いくらフィスが軽いとはいえ、人を一人抱えたままで、だ。


「少し待ってくれ……。流石にこのスピードじゃ、南門に着いた時点でバテる……」


 情けない話だが事実だ。

 このペースで走ってたら本当に倒れる。

 着いて動けなくなって、置いてかれるなんてヘマは笑えない。


 そんな俺を、ゴミを見るかのような目で睨んでくるエリシア。


「お前は本当に私たちの足しか引っ張らないな……。まぁいいだろう、正直もうこのスピードでは走れんからな。耳を澄ましてみろ」


「あ……?」


 いきなり耳を澄ませと言われたので疑問符が浮かんでくるが、素直に言うことを聞き、周囲の音に集中する。


 耳に入ってきたのは、カーンカーンと鳴る甲高い鐘の音。

 町の各門、つまり四方から鳴ってきている。

 

「これは……?」


「警鐘だ。私たちのな。あのダークエルフが憲兵は来ないと言っていたな、恐らくだが、町の権力者に事前に話が行っているのだろう。流石に伝達が早すぎるからな」


「あの走れないってのはこれか……。分かった、『エリシ「止めろ」


 エリシアが強制の魔法を止めてくる。

 なんだ……?


「止めるなよ、どっちにせよ魔法は使わないとお前は動かねぇだろ」


「いい。このまま捕まったとしたら、お前から離れられるメリットよりも捕まった時のデメリットの方が大きい」

「私の意志でお前を助けてやる、癪だがな」


 あのエリシアが、自分の意志で俺を助ける?

 あり得ない。こいつは俺みたいな屑を心の底から軽蔑してたはずだ。

 それを助けるなど、到底信じられない。


「いや、そんなこと言って憲兵使って俺を殺そうとか考えてないか? 奴隷は信用ならない、魔法はかけさせてもらう」


「貴様のその人間不信もここまで来ると憐れだな。だがいいのか? 強制の魔法は私の自由意思を多少抑制する、つまりは肝心な所で私の咄嗟の動きは弱くなるんだぞ? それに、お前から常時かかっている魔法も合わさって、更に動きずらくなるんだ」


 それはまずい。

 フィスが戦えない今、このパーティの要はエリシアだ。

 そのエリシアが、少しでも弱体化する。

 ただでさえエリシア一人なのだ、その状態で多人数の憲兵と戦ったら。


 だが、強制の魔法なしでエリシアという奴隷と向き合う、それはとてもリスクのある行為だ。

 エリシアはほぼ毎日俺に、「いつか殺してやる」や「お前は人間の中でも有数の屑だな」だの暴言を吐く。

 たまに殺気が漏れることもしばしば。

 前の持ち主にも大怪我を負わせたらしいし、俺にもそうするかもしれない。

 そんな奴が俺を貶める絶好のチャンスを逃すか。


 クソ。

 だから誰かを信用するのは嫌なんだ。

 こういう場面で即決できなくなる。


 エリシアを、あの狂犬を、俺が信用する……。



「お前を…………」



()()してやる。ほんの少しな」



「ハッ、最初からそうしてれば良かったんだ。間抜けめ」

「付いてこい」


「ああ」


 しちまったよ、信用。

 俺の命はエリシアに預けられたも同義だ。

 不安だ。だがなぜだろう、あんまり悪い気はしない。




 その後、道を走る憲兵を裏路地でやり過ごしながら進み、南門の前まで来た。

 憲兵が傍を通るたびに、エリシアが叫んで居場所を教えるんじゃないかと怯えたが、何もなく目的地に着いた。


 南門の前は、開けた市場だった。

 門を中心に、扇形の円の広場があり、道に沿って露店が展開されていた。

 

 アレイスターは「南門に行け」としか言わなかったので、露店の影に隠れて待つ。 




 俺たちが到着してから数分後、ローブが所々破れて汚れた格好のアレイスターがやってくる。

 

「遅れましたアザミさん。あのダークエルフが結構手練れでしてね、おかげでお気に入りのローブも汚れてしまいましたよ」


「話はいい。さっさとここから逃げさせてくれ」


「畏まりました。では町から出ましょう、外なら私の魔術を使って逃げれます」


「分かった、急ぐぞ」


 門の憲兵をアレイスターが瞬く間に制圧する。

 何だあれ、指パッチンで全員気絶したぞ?

 音が鳴る瞬間だけあの嫌な魔力がしたけど、それだけだった。




 門を通過し、外の広い草原に到着する。

 所々に畑などがあるが、とにかくだだっ広い草原だ。

 街道が、遥か彼方まで続いてるのが見える。


 南門はこうなってるのか……

 ヨグトの森へは西門だったし、洞窟は北門からだったから来たことなかったな。


 俺が、月夜が照らす草原に見惚れてる間、アレイスターが普通の魔力を使って何かをしていた。

 ぶつぶつと何かを呟き、やがてその声が大きくなっていく。


「『……幽世(かくりよ)より()でよ、怪奇の(みち)、三千里の運び屋、アメノトリフネ』」


 アレイスターがそう唱えたのち、地面の影から何かが生まれてくる。


 それは、骨で出来たムカデのような、長い体を持った生き物だった。

 顔は鳥の頭蓋骨で出来ており、赤い瞳が虚ろに光っていた。

 

「さ、これに乗って逃げますよ。見た目はスケルトンスネークに似ていますが、れっきとした私の召喚獣です。何もしませんよ」


「いやでも……」「……嫌」「気持ち悪いな……」


 普通は逃げるなら馬とかだろ。乗ったことないけど。

 隣にいるフィスとイレイナも引いてるじゃん、やっぱキモいよこいつ。

 

 そんな俺たちの反応に、どことなくローブの奥が悲しそうなアレイスター。

 こいつにも感情とかあるんだ、意外。


「ま、逃げれるなら何でもいいや。お前らも早く乗」



 ドガァーン!!!



 俺たちの目の前に、何かが物凄い勢いで落ちてくる。

 その衝撃で草原が抉れ、土ぼこりが上がる。


 視界は晴れてはいなかったが、その土ぼこりの中に、只者ではない何かがいるのは感じ取れた。

 圧が、違うのだ。

 今まで、俺が出会って来た中のどれよりも濃い存在感。 

 土ぼこり越しなのに、心臓が早鐘を打ち始めていた。

 

「ははは、凄いのが来ましたね。私勝てますかねぇ」


 アレイスターには、何が飛来したか分かってるらしく、少し驚いたように言っていた。

 あのアレイスターが勝てない奴? つまりは、フィスをボコボコにしたダークエルフよりも、もっと強い奴ってことかよ。


 何だそれ、何でこんな所に来てんだよ。

 意味が分からなかった。思わず、震えた声でアレイスターに聞く。


「お、おいアレイスター、何が来てんだよ」


「そうですねぇ、彼は「俺は」



「……俺は、ヘラクレス」



 土ぼこりが消え、声の主の姿が月光に照らされる。

 

 その男の体は、尋常ではない筋肉を纏っていた。

 今すぐにはち切れんばかりの筋繊維が、男の全身を余すところなく覆っている。

 身長は約3メートルにも及び、その眼光は睨んだ者を射殺すかのように鋭かった。

 ぼろ切れのような薄いズボンを着ていたが、その貧相な様相を一気に変えるのは、さらけ出された上半身の異常な筋肉だった。

 手には鉄の延べ棒のような大剣を持つのみで、他には冒険者が持つようなものは何も身に付けてはいなかった。


 呆然とした俺の耳に、エリシアの呟きが聞こえてくる。


「なぜ神鋼(オリハルコン)級がこんな所に……」


 神鋼級? 嘘だろ? そんなのおとぎ話上の人間じゃないのか?

 酒場の吟遊詩人はそう歌ってたぞ? 生きてる内に出会えたら運がいい、って。


 突然の絶望、だが、その絶望は加速していく。


「アザミ……! 竜種……! 貴様らを逃がしてたまるものか……!」


 門の方から、喉を枯らすような大声がする。

 その声の主は、俺たちを追っていたダークエルフの男

 ボロボロだったが、確かにあいつだ。


「あれ、ほぼ瀕死くらいにはしたんですけどね。何で起きてるんですか?」


「そこのオリハルコンに助けてもらった……! これでもう終わりだ……!」

 

 こっちに駆け寄ってくるダークエルフ。

 オリハルコンの男と挟まれるような形になった。 


 は? 何であのダークエルフまで来てるんだ?

 神鋼級とダークエルフ。流石に勝てる訳ない。


 これで終わりかよ……。

 何だよ、この続きのない負けイベントみたいなのは。

 ふざけんじゃねぇ。

 こんな理不尽なので人生終わりかよ……!


 絶対に勝てるはずない。そう頭では思いながらも、感情は違った。

 心の奥底で、何かが沸き立ってくる。 




 怒りで拳を握りしめる。


 俺の裾を、誰かが掴む。

 後ろを見ると、確かな目でこちらを見るフィスがいた。


「……アザミ」


「分かってるよ、こんな下らない最後で終われるか」


 後ろのダークエルフを一瞥し、目の前のヘラクレスとかいう男を見つめる。

 ヘラクレス? 下らねぇ、神話の英雄かよ。

 オリハルコンだか何だか知らんが、中二病もほどほどにしとけ。


 ヘラクレスと目を合わせる。 

 殺気が物凄い。眼光だけで気を失いそうだ。


 だが、決して逸らさない。

 これから、この男と戦うのだ。

 たとえ瞬殺されようが、俺は死ぬまで怖気づくなんてことはしない。

 

 目を合わせてから数秒、ヘラクレスが口を開く。


「……俺に挑むか」


「ああ、ぶっ倒してやる」


「……面白い」


 腰のポーチに手をやり、煙玉を握る。

 

 次の瞬間、ヘラクレスの体がブレた。

 そして。




 その姿は、塵一つ残さず消えた。


「な……!?」


 近くのアレイスターが倒れる。 

 アレイスターは、小さい声ながらも嬉しそうに言った。


「転移魔術です。時間と魔力を食いますが、対象をどこかに飛ばせます。あの神鋼級は私の全魔力分、

遠くに飛ばしました。絶対にここには来れません。後は、任せ、まし、た……」


 意識を失ったのか、がくりと地面にうなだれるアレイスター。

 

 でも、よくやった……!

 あのヘラクレスがいないなら、まだ勝機はある。

 このパーティで、目の前のダークエルフを倒す。

 

 手負いだが、油断はしない。

 龍化したフィスが手も足も出なかった相手だ、僅かな油断でも命取りになる。

 

 やるなら、全力だ。


「アレイスター・クロックフォールド、最悪の狂人。今のはお前の仕業か……。だがいい、こいつらだけなら僕一人でもやれる」


「はっ、お前ボロボロだろ。そんなんで勝てるのかよ?」


「舐めるな……! 手加減はしない、ここでそこの竜種ごと殺してやる……!」


「そうかよ」


 こいつが本気になろうがならなかろうが、やることは決まってる。

 こっちも、本気だ。



「フィス、エリシア」



「ん」「何だ」



「『これまでかけた命令を全て()()する』」



「自由に戦え。今だけ、だけどな」



 二人の目が見開かれる。

 おいおい、そんなに意外かよ。


「……! うん!」「ふっ、今だけか。臆病者のお前らしい」


 やっぱり、命令を解いても裏切らないんだな。

 緊張して損した気分だ。


「それとフィス」


「何?」


「戦いの途中で龍化してもいい、全力で暴れろ。全力でな、俺たちに遠慮とかすんなよ」


「で、でも」


「安心しろ。今の俺とお前なら、大丈夫だ」


 不安そうな面持ちでこっちを見てくるフィス。

 分かるよ。

 でも、お前ならきっと平気だ。

 何の根拠もないけど、今のフィスなら龍化しても大丈夫だと思える。


 そんな気持ちが伝わったのか、フィスの緊張した面持ちがほんのりと笑顔に変わる。


「分かった、やってみる……! 信じてるよ、アザミ」


「ああ」


 信じてるよ、か。

 前までは一番嫌いな言葉のはずだったのに、今は特に何も思わなくなった。

 信頼。

 絶対に俺とは無関係だと思ってたのに、今じゃフィスとエリシアに俺の命の全部を預けてる。



 ほんの少し、ほんの少しだけど、悪くない。

 そう、思える。



「やれ、二人とも」


「うん!」「分かった」


 フィスとエリシアが確かに頷く。


「行くぞ! フィス!」


「うん!」


 エリシアの咆哮を合図に、フィスが地面を蹴る。



 この戦いは、きっと俺の人生の分岐点なのだろう。

 そんな戦いの火ぶたが、切って落とされた。 



はい。

なんか飛んできてすぐに帰ったヘラクレス君はまたいつか出ます。

次の話で一区切りです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そんな戦いの火ぶたが、切って落とされた。  誤用 【火蓋を切る】【幕を切って落とす】が混じっています。
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