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ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
最期まで永遠に

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350/354

王太子は鉄錆色の恋をする②

 

 もちろん、ダッチマン公爵家は一家そろって仰天した。のみならず、パーティー会場も大騒ぎになった。


「い、い、いったいなぜ? ディルツの王太子が、次期国王が、なぜ娘に求婚など⁉」


 実の父ですらこの言い草なのを、ライオネル少年はクスッと声を立てて笑い飛ばした。


「どうしてそんなに驚くのです? 姫は美しい。こんなにも素敵な瞳の女性を、私は初めて見ましたよ」

「瞳って――あ、あの、ですが……」

「こんな若輩者が求婚だなんて、身の程知らずですよね……しかしどうしても、日の当たらぬ壁にもたれ可憐な花が萎れていくのを、黙って見過ごすことが出来なかったのです」

「な、な、な」

「ま、ま、まあっ……」


 娘の顔が真っ赤に染まる。可憐などと、生まれて初めて――実親からさえも言われたことが無かった姫は、己の半分に満たぬ年の男の言葉に湯上(のぼ)せた。

 彼は娘の手に口付けて、もう一度、同じ言葉を言った。


「私と結婚してください」


 やはり迷いなど欠片も感じられなかった。

 ――つまりはお互い一目ぼれ、運命の恋なのだから、理屈も理由も無い――親子はそう自分に言い聞かせるようにして、少年の求婚を受け入れた。

 もちろん、年齢的にまだ正式な結婚は出来ない。まずは婚約をと意気込んで、ディルツの王に書状を出そうとした。しかしライオネルが止めた。


「父は気難しい人ですし、我が子の婚姻を、国力強化の材料としか考えていません。私はもっと強国の姫との縁談を推されるでしょう。最悪は、姫やコルネリス様に危険が……」

「危険って!」

「ですからしばらく、私に任せてください。きっと父を説得してみせます」

「説得って、しかし、どうやって?」


 ダッチマン公爵の疑問はもっともだった。姫が醜いというだけの問題ではない、ライオネル自身も言った通り、王太子の妻――将来のディルツ王妃になる娘を、国王が選抜するのは当然のことだ。ダッチマン公爵だって、娘がこれほど醜く、嫁の貰い手に困窮していなければ、婿は吟味した。それでいうと、ディルツ王太子は良い相手では無かった。もともと、公爵は自領の跡継ぎ……婿に入ってくれる男を期待していたのだ。それが、相手が王太子となると、娘を嫁に行かせることになる。ダッチマン家からいよいよ子どもがいなくなってしまうのだ。

 だが、仕方がない。このまま娘が生涯独身であるよりはずっといい――ここに来て、公爵は優しい父親になった。公爵家を当代で潰してでも、娘には幸せになって欲しかったのだ。

 公爵は婿の前に跪いた。


「どうにかこの縁談を成就させたい。どうすればいい? 国王陛下を説得するためならば、こちらは何だってする」


 少年は笑った。


「――では……貴公が統治する領において、最南端にあるイルダーナフ島の開発を」

「イルダーナフ島? あそこは無人島ですよ。岩山だらけで何も無い……」

「鉱山がありますよね。私の見立て通りなら、きっとあそこには金や銀、貴石の類が眠っている。それを掘り出せば、イルダーナフ領はオラクル随一の貴金属採掘地になります――そうなれば、頑固な父王も、きっと姫を歓迎してくれるでしょう」


 その言葉に、さすがにダッチマン公爵は眉を顰めた。


「そ、それは……。その、やはりこの求婚は娘を見初めたのではなく、我が領の資産が目的で……?」


 恐る恐る、公爵が問うと、少年は目をぱちくりさせた。何を言っているのか心底わからないという顔だった。その様子を見て、公爵は己を恥じた。

 自分はまだ十歳の子を相手に何を言ったのだ。この子はただ、父親に認めさせるための方法として提案してくれただけなのに。老獪なディルツ国王は、自分の疑い通り金目当てで婚姻を認めるかもしれない。だがライオネル少年の想いは純真無垢で、一所懸命、娘のために知恵を絞ってくれたのだ――と。

 公爵は、己の頬をバチンと手で叩き、気持ちを切り替えた。そして少年に頭を下げた。


「承知しました。この島を、殿下の良きように」


 ――そしてその翌日には、行動を開始した。

 ダッチマン公爵はありったけの私財を投じ、イルダーナフ島を開拓した。オラクルには土地開発のノウハウが無かったので、土木はライオネルを通し、ディルツの職人に依頼をかけた。まず家を作り、土を均すための作業者を呼んだ。彼らが生活するための店も誘致した。やがて彼らは家族を作り、増えていった。

 ダッチマン公爵自身も家を移し、この地に腰を据えた。村人が怪我や病で休む時は、公爵邸を開放することさえあった。


 ――存外、楽しい生活だったという。時には自らツルハシを握って、硬い岩を割った時、腰の痛み以上の充実感を覚えた――。


 この間、ライオネルは年に二度ほど、姫を訪ねてきたという。決まってバラの花を一本持ってきて、優しい言葉をささやきながら、姫の手に口付ける。二人の間に、それ以上の交際があったかどうか、父は確かめなかった。ただ年々逞しく、美しい青年へと成長していく若獅子の姿に、父娘そろってほれぼれとしていた。


 一年――三年――五年、娘よりずっと背が高くなった王子は、やはりバラの花を手に持ってやってきた。去る時の言葉はいつも同じだった。


「もう少しですね。鉱山から金が出たら、すぐに姫を迎えに来ます」


 そうして順調に島は開発が進み、いよいよ鉱山の発掘が始まった。


 六年――七年。

 いくら掘っても、その山から出てくるのは鉄ばかりだった。金や銀、貴石は出てこなかった。

 八年目、きっちり半年ぶりに訪問してきたライオネルは、甘いお菓子を美味しそうに頬張りながら尋ねてきた。


「金は出ましたか?」

「いやあ、どうやらあそこには鉄しかないようだよ」


 公爵は答えた。

 それでも公爵は全く落ち込んでいなかった。鉄だけでも十分ありがたく、開発事業としては黒字である。貧乏公爵には十分なひと財産であった。

 なにより、島全体が賑やかになった。

 人の出入りが多いぶん、港には行商人も集まり、若者が観光や買い物で訪れてくれる。毎日誰かの結婚式が開かれ、幸せの鐘が鳴る。

 鉄鉱山のおかげでダッチマン家は豊かに、強い貴族になった。金が採れていた場合とは比べようもなく見劣りするが……ディルツ王も、愛し合う二人を断固として引き裂くことはないだろう。

 あああの鐘が鳴る下で、娘と王子が手を取り合い、口付けを交わすのを見るのが楽しみだ――公爵は胸を躍らせていた。


 九年――十年。

 ふと、昨年はライオネルの訪問が無かったと気付いた。

 十二年目。この三年間、毎日のように彼の訪問を願った。娘は風が戸を揺らすたび、「ライオネル様!」と家を飛び出すようになった。そのうちに風が無くても駆け出した。

 十五年目――四十歳の誕生日に、娘は塔から飛び降りた。


 訃報をディルツの王宮に届けたが、返事は無かった。


 かくなるうえはと一念発起し、国境を越え、国王陛下を訪ねようと旅立った。

 しかし国境の関所で、ディルツ王国側に止められた。



『王太子殿下より、オラクルからの入国者は一切通さないようお達しを受けている。特にイルダーナフ領、ダッチマン公爵は、ディルツに害なす因子であるから――と』


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― 新着の感想 ―
10歳の頃からずっと腹の中真っ黒だったということ?
よく15年も待ったよ・・・ 20でもう行き遅れ扱いされそうな世界なら 25歳から5年経った時点でもう諦めてしまいそう
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