第三十話 私たちと、先輩と 後編
第三十話 私たちと、先輩と 後編
その人と観た映画は、けっして大スペクタクルのアクションシーンがあるのでもなければ、特別なCGがふんだんに使われているわけでもなくて。
世界の存亡の中での壮大な愛が、あるでもない。
ほんの小さなストーリー。ふとして出会った男女の、素朴な恋愛を描いた、ロードムービーだった。
男女はふたり、サイドカーのオートバイに乗って旅路を行く。
少しずつ、ふたりは互いを知って、ふたりが互いを知るたび、観客たちもふたりを知る。穏やかな時間が流れていく、映画。
主役を演じるふたりの役者の名を、詩亜は知らなかった。顔だって、きっとはじめて見るのだろう。記憶にあるものではなかった。ほかのキャストたちも同様の印象であり、ほんの数人、どこかで見覚えのある役者たちがちらほらと見え隠れするくらい。
だけれど、そんなこじんまりとした雰囲気のそれが、見ていて居心地よく、詩亜には思えた。
同時、「付き合ってほしい」と思っている相手を口説くために誘う、そのための映画でもないな、と苦笑じみた感想も抱く。
もっとわかりやすく盛り上がれたり、話題の役者や人気アイドルできらびやかに彩られたり。あるいは熱烈な愛を描いたものだったり──口説き口説かれるデートらしいデートなんて生まれてこの方、したことのない詩亜だけれど、ふつうはそういう映画で華やいだ雰囲気を演出しようとするものではないのだろうか。
相手に、「はい」と言わせる、その目的のためならば。
そこに打算がはたらくならば、だ。
「どうだった? ……つまらなかった、かい?」
だからこそ、どこか詩亜にとっては親友にも似たものを感じる言い回しといい。
自分をこのデートに誘ってくれた同性の先輩に、飾らない、素朴さを感じた。そしてそこに好感を抱いたのも、事実である。
「そんなこと、ないです。とても、好きな雰囲気の映画でした」
これが彼女の偽りのない、正直な誠意なのだと思う。
自分の好きなものを、気に入ってほしい。共有、したい。その素直な欲求を、彼女は詩亜に対し飾ることなく、投げかけてきてくれた。詩亜は、そのボールを受け取った。
「誘ってもらえて、よかったです」
詩亜のそんな至極当然の言葉に、ただ嬉しそうで。喜んでいる。屈託なく笑って、その感情をことさらに隠すこともない。裏表のない、人。この人がわたしを、好きだと言ってくれた。
「そっか。よかった」
子どものように無邪気に笑う、中性的な容姿のその先輩に。わたしから、ボールを返さなくてはならない。言葉と気持ちのキャッチボールは投げ返してはじめて、成立する。
ただ迷ったり、戸惑ったり。困ったりするばかりではなく。きちんと、考えたうえで。
返事をしなくては。
既に好感を持ち始めているその相手に対し、詩亜はそう思いつつあった。
* * *
自分はきっと、彼女を傷つけてしまった。
無自覚に、自分ではそれと認識をしないままに──きっと、そういうひどいことをした。
「ごめんね」
いや、きっと。わかっていた。
この話をすれば、……不知火自身と、ゆきのことを知れば、彼女がそうなるであろうこと。
兄のこと。義姉のこと。
ふたりを喪った、ふたりのこと。
受け止めた自分たち以上に、不意に耳にすれば、それは聴いた相手にとってひどく重いものと、なるのだろう。
それほどに想像力のない人間だとは、不知火は自分自身を思わない。いくら、自分にとって当たり前のこととはいえ。感覚が多少なり、麻痺している類の話題だとしても──……。
そう考えればおのずと、傷つけたのは自分で。困らせたのも自分。反応をするのに窮したであろう側は、彼女のはずなのに。
なのに、どうして。彼女のほうが謝るのだろう。
「ほんとに、ごめん」
「……え……」
訪れたそこには、店内BGMとして静かなギターのアコースティック音が流れている。
聞き覚えのあるそれは、たしかいつか、彩夜の家に行ったとき、夕矢くんの部屋から漏れ聴こえてきた曲だ。
一階につき、せいぜい二、三店舗。どれも小さな、個々人が経営する、自身の作品を展示するショップが並ぶ。そんな、街並みの中のギャラリー・ビル。その三階。そこが先輩の案内してくれた目的地。
ショーケースに並んでいるのは、すべてが手作りの一点もの。すべてが銀細工でつくられた、どれも美しい、アクセサリーや、食器や。小物の数々だ。
その中で、小さなピアスに目が留まった。
アルファベットのFがふたつ、横に並んだようなデザインのそれは、その記号は。音楽に疎い不知火にも見覚えがある。ゆきの使っていた楽譜に載っていた、演奏の指示記号だ──フォルテッシモ。一番強く、だっけ。うろ覚えの記憶を、不知火は辿る。
「今、そこのピアス見てたでしょ。……妹さんに?」
「どうして」
「自覚、なかった? 小さく「ゆき」って、声、漏れてたよ」
言って、先輩は笑う。苦笑ではなく。ただ、苦く。
ここに、連れてきたかった。私の一番好きな場所だから。
ビルの玄関ホールに立つと同時告げた先輩に、この場所にたどり着くまでに、自分と雪羽の喪ったものについてはすべて、語りきっていた。
だから。その表情の苦みの原因はきっと、不知火自身なのだ。
好きと言ってもらえた自分が。
好きと言ってくれた人に、そういう顔をさせている。
「うちの学校、ピアスはダメだよ。髪型とか、色は自由なのにね」
「そう、なんだ」
じゃ、なかった。──ですか。
不知火が慌てて訂正すると、今度は苦笑の色で、もう一度先輩は笑う。
「ほんとに大切なんだね、妹さんのこと」
「……すいません」
「謝ることないよ。さっきも言ったとおり、謝るべきはこっちだから」
どうして。……なんで?
「当たり前だよ、大切で。そんな劇的で。喪失に満ちた出会い方した、たったひとりの妹だもん。私だって、同じならそうなってたと思う」
その言い回しには、少しばかり彼女の解釈と情感とが、上乗せされすぎているきらいがあるように思えた。
ただ、ゆきを大切に思っているのは違いない。だから不知火は、なにも言わない。ささやかな時間とはいえ、先輩なりに不知火の伝えたことを受け止めた結果が、そこにあろうから。
「そんなふたりに、唐突に横から私が「好きです」なんて入って行ったって。戸惑うよね、それは。だから、ごめんなさい。そういうこと」
それでも、謝られる類のことではない。
先輩は自分を好いてくれた。状況はたまたま、彼女と自分の間に横たわっていただけ。
自分は彼女の好意に、今は応えられない。そういう状態であったということ。ただ、両者がそれだけだった。
「正直、ああ、勝てないな、って思ったの。妹さんに。聴いた事情もそうだし……なにより、ピアスのこと見つめてる不知火の視線で、わかっちゃった」
一朝一夕に横から出ていった私じゃ、かなわない。
この子には、世界で一番大切なものがあるんだ、って。
そう言って、先輩は改めて、自身の失恋の自覚を、その相手である不知火に表明する。
そんな先輩に、不知火は彼女へ話したこと、話さずに伏せたままのこと、その両方を想う。
告げなかったもの──それは、不知火自身の、これから喪うもの。その、両目のこと。こればかりは先輩にも言えなかった。
ゆきにだって、すぐには伝えられなかった。そうするための段取りと決心とが必要だった。そんな代物を、たった今告げたばかりの家庭事情に重ねて更に先輩に受け止めてもらうのは図々しさがすぎる、と思ったからだ。
伝えなかった、黙っていた罪悪感は会話の中にたしかにあった。けれど伝えていてもきっと、異なるベクトルでの罪悪感はやはり生まれていたことだろう。
だが、少なくとも伝えなかったことは間違いではなかった、と思う。
敗北を認める瞬間、先輩は気丈ではあったけれど、それでもその声は少し、震えていた。
もしも拒絶の理由として、不知火が不知火の身体的事情まで持ち出してしまっていたら、彼女の頬には涙まで伝っていたかもしれない──そうしなくて、そうならなくて、よかった。
恋愛関係にはなれなくても、世話になっている、大切な先輩にはかわりない。そんな人の悲しい涙は、見たくはない。
「先輩」
「今は、まだ」
「──え?」
そう、思った。
でも年長者は、不知火が考えていたよりも、たった一年でも重ねた年輪のぶん、強くって。不知火の想像を、乗り越える。そこにもう、弱々しさはない。
見上げてくる視線は、涙に潤むではなく。
まっすぐに、強い意志を持って、不知火の、いつか使われることのなくなる双眸を見据える。
今ははっきりと見えている彼女は、微笑んですらいる。
「妹さんより大切な存在にはなれない。でも、これから私なりに、妹さんとは違った一番には、なっていける。それを目指せる。そうじゃない?」
姉妹として、大切。家族として、かけがえない。
──恋人として、大事にしたい。そういう気持ちがどれも、等しい序列の中に順位付けされるものとは限らない。
「私は、不知火を好きでいるわ。不知火の一番が妹さんで、不知火に抱えているものがあって。それで今は気持ちが一方通行でもそれは仕方ない。望むのは、間違ってる」
先輩は拳を握り、不知火の胸元をこつんと叩く。
「好きだよ、不知火。不知火の話してくれたこと、全部を受け止められるようになりたいって、私は思う」
それを不知火に、望んでもらえるように。伝えてもらえたってことは、脈がないわけじゃないはずだから。
不知火の一番を、妹さんと競うのではなく。
一番のひとりに、なりたい。
「星架先輩……」
「今は、ただの先輩でかまわない。でも、目指すのは──いいでしょ?」
あなたの隣で、あなたを。そして妹さんを、見守っていられるくらい。
あなたを好きでいて。
あなたに、好きになってほしい。
「あなたに私を、惚れさせてみせるから」
* * *
答えはまだ、出ていない。
送るよ、という先輩の言葉に甘えて、暗がりだした道を、家路をともに歩く。
「おっと」
「あっ」
向かいの歩道を走ってくる自転車に、南風先輩は詩亜の肩を抱いて、引き寄せてくれる。
ごめんね、ぼくが車道側を歩くべきだった。
かばってもらったのはこちらなのに、すまなそうに先輩は言う。
先輩の指先が肩に触れていて、その体温に少し、詩亜はどきりとする。
体格的にも、性格の控えめである部分からも、ほかの誰かに庇われることの多い詩亜である。
こんなやりとり、妹や、不知火と何度もしているはずなのに。それは彼女たちとの間にあったのとはどこか、違う感覚で。
あるいは彼女たちは、自分と等しい立ち位置にある少女たちであり、先輩は年齢的にも上である、同列でない存在だから──なのかもしれない。
きっと、そうなのだ。詩亜はそう、自分を納得させた。
「ありがとうございます」
抱かれた肩から、南風先輩の腕が離れていく。
もうすぐ、今日という日のデートが終わる。
名残惜しさを感じている自分を、さきほどの納得ほどには詩亜は、目を背け得なかった。
答えを、出すということ。
わからない。──まだ、わからない。
今日一日、一緒に過ごして。楽しかった。
好感を持てる人物だとも思った。だけれど、じゃあそこからどうするか。どうしたいかが、詩亜自身、まだ掴み切れていない。
とめどない会話。進む帰路の歩み。その中で、詩亜は結論を急ごうとする。
「そっか。芹川さんの家、本屋なんだ」
「はい。妹と住み込みで──父の、知人のお世話になっています。……あの、先輩のおうちは?」
「うち? 神社だよ。ほら、学校の裏手の」
「え。それじゃあ、巫女さんとか」
「うん、やってるやってる。家の手伝いで」
あんまり、似合ってないけど。
言って頭を掻く先輩だったけれど、ボーイッシュとはいえ整った顔立ちの彼女である。なんとなく、赤と白のツートンカラーを纏った姿は凛々しくて、きっと様になっているのだろうな、と想像ができた。
そうしているうちに、我が家たる書店の看板が見えてくる。詩亜が気づいた様子に、隣の先輩も思い至ってか、ほぼ同時に歩調を緩めてくれる。
「──ね、芹川さん。今日は、どうだった?」
「楽しかった、です。すごく」
そして訊ねる。率直に、心からの感想を詩亜は彼女に伝える。
そう、ここまでは言える。言えるのだ。だけど──、
「そっか。だったら、よかった。今日はそれで十分だ」
「え」
夜道、向き合うふたり。
答え、返さなくっちゃ。思っていた詩亜は、けれどそれを求めない南風先輩に困惑する。
「そんな、急がないよ。芹川さんがぼくの告白、どうしたいかなんて。ぼく自身、やっとスタート地点に立てたかなって、思ってるくらいだから」
ただ今日は、ぼくも楽しかった。話したこともなかった芹川さんと一日、デートできたんだもん。
芹川さんも楽しんでくれたのなら、それだけで十分。これ以上のことはないよ。
先輩は嬉しそうに、ほんとうに嬉しそうに、頬をほんのり上気させて笑う。
「また、一緒に出かけてくれる? ……あと、本、買いに来てもいいかな」
芹川さんのいる、このお店に。
彼女から向けられた質問は、ふたつ。
「こうして、芹川さんと会いたい。いろんなこと、一緒にやりたいんだ」
小首を傾げるような仕草で、年上の少女は微笑んでいる。純朴な彼女の、偽りのない気持ちと、願いとを詩亜に向けてくれている。
「──はい」
だから詩亜も、素直な今の気持ちに、頷いてみせた。
付き合うとか、付き合わないとか、今はいい。
好意を伝えてくれたその人がそう言ってくれている。それよりも、自分と実りある時間を過ごしたいと、その願いに重きを置いて詩亜を求めてくれている。
だったらそれは、詩亜もだ。
「わたしも先輩と一緒、楽しかったです。また映画、行きたいです」
女の子同士だからどうだとか、そういうのは今は関係ない。
付き合うか否か、ではなく。
彼女の隣で過ごした今日を、充実したものに詩亜は感じられた。
だから詩亜は、その関係性を確定させることなく、しかし彼女の手をとる。
さしあたっては、先輩と後輩でいい。
ただ、一緒にいることに異存を憶えない。
それで、いい。
* * *
「ああ、ここでいいわ。ありがと」
先輩の家までは、電車でふた駅。ワンピースのセーラーカラーを翻して振り返った彼女は、改札のすぐ前まで待つことなく、その姿を見えなくなるまで見送っていこうとする不知火を制し、自身の通学定期券のパスケースを振って見せた。
駅前の、広場。あとほんの数メートル先のところに、中央改札口とそこを行き交う人々の雑踏が見えている。
「え、でも」
「一度駅に入るのも面倒でしょ。家で妹さんが待ってるんでしょ、あんまし遅くならないの。それにここで別れても、改札口でも大して変わらないわよ」
まあ、それはそうかもしれないけど。
どうせまた学校で会うのだし、という考えもあるのだろう。
「ただまあ、お土産はほしいかな」
「お土産?」
なんだか少しほっとしたような、けれどもう少し情緒的であってもよかったのではないかと残念に思うような、不思議な感覚に肩を竦める。
なんにせよ、考える時間は必要だ。
ひとりになって、あるいは家に帰り、ゆきとともに。
先輩のこと。先輩が、不知火の一番になりたいといってくれたこと。
今度は付き合いたい、と俗な言葉ではなく。
不知火の抱えたものを受け容れたい、受け容れることを求められたいと、そう彼女が言ってくれたから。
付き合うつもりはない。今はそういう気持ちにないと、ただそれだけで切り捨てていいものではないと、不知火の側でも思う。
「うん、そう。お土産だよ」
デートがつまらなかったわけではない。
先輩の選んでくれたルートや、ともに過ごした時間は楽しかった。自分のためにそうしてくれたこと、一生懸命考えてくれたのであろう難くない想像は、素直に嬉しく、あたたかい気持ちにさせてくれるものだった。
しかしそんな彼女に対して、自分は自分自身の主義主張しか見ていないのではないか。
自分は彼女にこうしたい──そう思うわがままを押し通そうとしているだけではないのかと、罪悪感と疑念が心の片隅についてまわった。それが不知火に、内なる心的疲労を増幅していたのも事実である。
だからこその別れの残念さと、終了への安心感の同居であった。
疲れたな、という素朴な気持ちが、デートの終焉に際し今このとき、不知火をぼんやりとさせた。
だから。
不意に歩み寄り、近付いてきた、自身より小柄な年長者のその動作に、とっさには対処できなかった。
身動きするより先、少女の整った顔立ちが息触れ合うほどの眼前にあった。
朝の待ち合わせと同じ場所。
噴水の、前。夜の黒を煌めかせるようにライトアップのされた、たくさんの輝きと、それを反射する美しい水の軌跡を背に。
「──え」
触れ合う唇の感触に、不知火は眼を見開いた。
自身の胸元に、そっと体重を預けるように載せられた、少女の左右の握りこぶしの重みを、感じた。
双眸を閉じた星架先輩は、不知火の背にあわせて精一杯の背伸びをして、爪先立ちで。ショートブーツの踵が浮いている。
「──ありがと。今日は、楽しかったよ。充実、してた」
上気した表情の中に、先輩は笑って。
柔らかくあたたかだったその唇を離し、また静かに離れていく。
「せん、ぱい」
キスを、交わしたのだ。
理解と実感の距離は、遠く。じゃあね、と手を振り遠ざかっていく少女に手を振ることすら、不知火はできなかった。
「じゃあね、不知火。また明日、学校で。部活で」
重ねた唇の余韻に、その感触を確かめたり、指先で口許を拭ったりすら、するでもない。
先輩の行動はあまりに唐突で、予想外で。
なのにあちらは余裕たっぷりに、堂々としていたから。
ただ取り残されるように佇み、呆然と放心して、起こったことを受け止めるばかりだった。先輩が改札の向こうに消えるまで、ずっと。
──背中から、その声を聴くまで、ずっと、だ。
「不知火、さん?」
少年の声を、背後に聴いた。そういう外的要因でようやく、不知火は我に返ることができたのだ。
「──夕矢、くん」
声の時点で、想像の中の顔と、発声者とは一致していた。おそるおそるに振り返れば、そこには思った通りの人物が、いる。
「なんで」
なんで、ここに。きみがいるの。
私服姿の、長身の少年。ひとつ年下の、親友の弟。
ギターケースを背に、彼はそこにいる。
そんな近しい相手は、半ば困惑したように視線を惑わせながら、不知火のほうを向いている。
彼の向こう側、柱時計の根元には、解散をしかかっている観客たち。立てたままの譜面台。ストリートライブを、やっていたのだろう──……。
「不知火さん、今のって、誰? 不知火さんの、……彼女?」
表情と仕草とが半ば以上伝えていた状況が、言葉によって不知火に突き刺さる。
先輩との、キス。
その一部始終を、彼は目撃していた。
疚しいことなんてない。なのにその理解は、困惑する彼以上に、不知火自身を戸惑わせる。
不知火も少年もただ、正面から向き合ったまま、黙りこくる。
互い、どう言葉を繋げばいいかも、わからぬままに。
(つづく)
珍しく雪羽が出てこなかったですね、今回。




