やるやろ会の司令塔、イシス・アレキサンドライト③
さて、最終課題はイシスが発表することになっているが、まあ話の流れで「イシスに選んでもらう」ってことでカタはついたし、それは最初から決めていたことだ。
――「私は自分に本当に惚れている人物と一緒になりたいの、だから告白をしてほしい、ちゃんと言葉にして、私を思うことを表現してほしい」
ここで俺がプロポーズをする、んでイシスが「俺の真心にうたれた」みたいな流れ、変に凝らないでベッタベタに展開することにしたのだ。
肝心かなめな文言は俺はずっと考えてきたんだけど。
――「他の男となんて俺は許さない! お前のことが世界で一番好きなんだ!!」
これも変に捻らずストレートにした。しかしこれを今から言うのか、演技とはいえ、これは緊張するな。
「さて、私から出す最終課題は」
さて、これで終わりだ、イシスに注目が集まり、彼女は発表した。
「どれだけ女子にモテるかで勝負よ!!」
「~~っっっ!!!!」
よし、よく堪えた、ナイス俺、話と違うなんて叫んだ日には八百長がばれるところだった。いやバレてはいるけど、ほら、そこは、ね。
イシスは切なげに口元を抑える。
「あぁ、いけませんわ、私はどちらも殿方を選ぶことできない、私を求めるのなら戦って私を奪い取って」
(こいつは本当に!)
「……モ、モテるって」
ほらぁ! ユイドが真剣に考え込んでいるじゃないかという抗議の目線を送ると。
イシスは性格悪くニヤァと笑った。
(ほら! ほら! この女今性格悪い顔して笑ってるぞ! ユイド! ほらユイド! 考え込んでいる場合じゃない早く見なさいよ!)
両手を突き出して、エグザイルのように回りながら、必死に考え込んでいるユイドに念を送る。
なんかもう、ユイドが可哀そうになってきたぞ、こんないい男にこんな性悪女はもったいない、よしわかった! こうなったら得意の舌先三寸を駆使してやってやる。
舌先三寸、これは口先だけの奴だという意味で否定的な意味ではあるが、言葉の持つ威力というのは大きい。それこそ歴史に残すような「名言」が生まれるほどに。
(ならばその三寸は俺の領域だぜ)
と全く締まらないから、心の中で思って、俺はイシスに言い放つ。
「イシス、その勝負内容なら悪いが俺は降りさせてもらうぜ」
「あら、戦わずして負けを認めるの? ああ、そう、分かったわ、他の女性にモテるというのが、誠意に反すると言いたいのでしょう? でも違うわ、異性をたくさん惹きつけるというのは男性としての魅力があるということよ、私はそう考えるわ」
当然挑発してくる、ふっ、甘いな。
「誠意に反するのはそのとおりだ、だから降りさせてもらう」
「……え?」
俺が本気だというのが分かったのだろう、イシスの顔が強張るが。
「なるほど、つまりクサナギは、魅力ではユイド男爵に勝てないという事を認めたという事ね、がっかりだわ、勝てずとも戦っている姿はカッコいいと私は思うのに」
「ああ、お前の言うとおりだ、がっかり、見損なう、好きにしてくれ、事実だからな」
「っ……」
俺の真意を計りかねているのか目を白黒させるイシスであったが、それを気にせず続ける。
「だけどな、このまま負けてしまえば、イシスがユイドにとられる、それは御免だ、だから勝負を降りる、俺は勝負をしない」
俺は言葉にイシスと同じように驚きの目で見ているユイドに話しかける。
「ユイド、聞いてのとおりだ、俺は降りる、責めたければ責めてくれ、腰抜けだと罵っても構わない、戦わずして負ける……いや、逃げたのは事実だからな、だがそれでも、イシスに対して誠意に反することはしたくない、そしてお前に取られたくはないんだよ」
「…………」
イシスは押されている。それはそうだ、「ハッタリ」を信じさせるコツはただ一つ、本気であることだ。ハッタリなのに本気、矛盾するように感じるかもしれないが、本気でないことに人は気圧されることはない。
そしてそのハッタリの効果はイシスだけではなく。
「天御のいうとおりだ、イシス、この勝負は君への誠意に反する。故に私も降りる」
ユイドにも波及する。
ニヤァ、と今度は俺の性格悪い笑みにイシスが引きつる。
そう、ここで俺が狙うのは、勝利でも敗北でも引き分けでもない。
(無効試合だ!)
さあ、どうする、イシスさん、性格悪いお前はさあどうする。イシスさんよ、どうする、あーん?
俺の様子を見て、イシスは突然、そのまま愁いを帯びた表情を浮かべると。
「え?」
スッと手を握られて思わず声が出てしまった、いや、別に大したこと、いや大したことではあるのか、そう言えば手を握ったのって初めてだよな、うん、うわ、なんか柔らかい。
「クサナギ、どうして分かってくれないの?」
「え?」
潤んだ目で俺を見上げる。
「ひどいよ、私の気持ちを知っていて、そうやって、意地悪するの? 素直になれないの、分かってよ」
熱を帯びたイシス、いつものイシスじゃないみたい雰囲気が凄い儚げな、これは。
(か、可愛い……)
「貴方が言ってくれないのなら、私が言うわ」
なんだろう、イシスから目が離せない、イシスは普段は俺に憎まれ口をたたくけど、実はそれって照れ隠しってことなの。
「私、貴方のことが……」
まさか、イシス、ホントに俺のこと、俺は、俺は……。
「どうでもいい男だと思っているわ」
( Д ) ゜ ゜ ←俺
ニヤァと再び性格悪く笑うイシス。
「勘違いさせてしまったかしら、もちろん貴方のことは好きよ、だけど友人としてなの、とーってもいい人だとは思うのだけど、それだけね、男性としては見れないわぁ~」
とスッと手を放して、俺は塩の柱になってサラサラ~と、白い粉となって消えていった。
そんなイシスの言葉に普通にびっくりしている男爵に、そのままツカツカと歩み寄ると、深々と頭を下げる。
「ユイド男爵、本当にごめんなさい、私の気持ちは最初から決まっていたの。今は恋愛よりも、こうやって一緒に遊んでいる方が楽しいの」
イシスの言葉にやっと真意に気が付いたユイドは表情を崩す。
「いえ、やっと諦めがつきました。思えば私が諦めないから手間をかけさせてしまいましたね。それに……」
ユイドは塩の塊になった俺を見る。
「どの道天御には勝てなかったかな」
「あら、ちゃんと聞いていた? とっても「いい人」よ、ユイド男爵、女のいい人は、恋愛には発展しないのよ」
「はい、そういうことにしておきます」
●
「あーはっはっは!」
やるやろ会で事の顛末を聞いて大爆笑しているツキヨミ。
「お疲れさまでした、兄さん、えっと、お、お茶です」
気を使って何を聞かないでくれるククリ。
「クサナギ、私は貴方を評価している。貴方は勝利に対して大人の感覚を持ち、勝負に負けて試合で勝てる選択をすることができる」
フォローなんだか微妙にとどめを刺しているのかわからないサクヤ。
「まあでも女なら誰しも憧れるシチュエーション、十分に堪能させてもらったわ♪」
と上機嫌なイシス。一方で突っ伏して、俺はジト目で見るだけで何も言わない。
「あらあら、からかい過ぎたかしら」
と今回の勝負についてその場にいなかったククリとツキヨミと会話に花を咲かせる。
「…………」
いつものとおり振り回されたわけだが、実は俺はもうなんとも思っていない。
理由は勝負が終わった後イシスがいない場所でユイドと少し話したからである。
ユイドとイシスの初めての出会いは丁度1年前の、ユイドが男爵として叙された後の初めて参加した社交界でのことだったそうだ。
ユイドはイシスの初対面の印象をこう述べている。
――「完璧だったよ彼女は、完璧な仮面をつけていた」
社交界で傍にサクヤを従えているイシス。
イシスは美貌、素養を始めとしたリーディエル王国の王女としての求められるものは全て持っていたが、ユイドが初めてイシスと会話したとき、目の前で会話をしているのに顔が分からないと感じたそうだ。
――「その「覚悟」に私は惚れてしまった。だからこそ私はイシスに、自分の前だけでは覚悟を持たず仮面を外す場所を作ってあげたいと思った、だけど、その仮面を君の前であっさりと外している姿を見て、勝てないなと思ったよ」
(覚悟を持って完璧な仮面をつけるか……)
逆に俺はその姿のイシスを知らない、完璧な仮面をつけざるを得ないイシスを。
俺の横で同じようにお茶を飲んでいるサクヤに話しかける。
「サクヤ、イシスの社交界での姿って聞いていいか?」
俺の質問の意図が何となく理解できたのかサクヤは少し考えて話し始める。
「王族というのは絶対君主で君臨している国王を頂点に明確に序列が定められている。イシスは王族ではあるけれど、序列は下位の方、そして今の国王にとって序列下位の王族は」
「予備」
「…………」
「これが通用する理由は、王族の序列を、例えば能力主義にしてしまうと我も我もという形になり骨肉の争いになる。それを防ぐためという名目を現国王は悪用し、序列を理由に差別し、自分の都合のいい人物を作り上げ周りに置いている」
珍しくサクヤが辛らつに語っている、彼女も腹が立つことがあるのだろう。
「だからクサナギには感謝している、やるやろ会を立ち上げる前のイシスは生きているのか死んでいるのかわからなかった、だけど今のイシスは明るくて大好き」
とじっと俺を見るサクヤだったが俺は首を振る。
「礼を言いたいのは俺もそうだよ、俺も元いた世界では生きているのか死んでいるのか分からなかったからな」
ポツリと呟いた俺の言葉だったが、会話の切れ目で響いていたのか、全員が俺に注目していた。
俺の言葉に皆どことなく気を使っている感じだけど、別に特段隠し立てする話ではないか。
「俺は、ククリと一緒で、両親の顔って知らなくてさ、まあ要は孤児院みたいなところで育ったんだよ」
孤児院、日本で言う児童養護施設で育った。きついとか悲惨とか色々と言われているが、小さいころからの環境がそうだったので、特段不思議に思わず育った。
だけどどうにかしてここから出て、自立したいって気持ちだけが自分でも制御しきれないぐらい強かった。
そして自立するという事は要は金を稼いで自分の衣食住をまかなう事だということに気付いたまでは良かった。
だがガキに何かができるという訳ではなく、結果俺は、非合法の情報収集活動に使われることになった。
非合法の情報なんて欲しがるのは警察とヤクザで、両方に顧客を抱えていた。
警察は、独自に動いて非合法に情報を入手してしまうとそれが公になった時に世間から批判されて捜査に支障が出る。
ヤクザは、今では大っぴらに歩いて、迂闊に組の名前を出そうものならすぐに捕まってしまうから活動に支障が出る。
そんな理由で俺は使われていた。
はっきり言って、食うために性犯罪と殺人以外は大抵のことはやった。それこそ見る人間が見れば「クズ」と言われても反論できないような奴だった。
もちろんギャラは良かった、警察は犯罪者相手なら方便が立ち、しかも税金だから踏み倒しはありえない。
ヤクザは料金なんて踏み倒すイメージがあるかもしれないが、ガキ相手に見栄があるから踏み倒しはありえない。
何より未成年というのが重宝された、何故なら捕まっても大した罰は受けない、それこそ「残虐」なことをしなければ、素直にしていればあっという間に釈放された。
「だけど生き馬の目をくり抜くような生活に、だんだん心が疲れてきてさ、その時に、本当に偶然なんだけど、子供が赤信号で横断歩道に飛び出して、そこにトラックが迫っていてさ」
そう、何も考えず体が動いたのは事実、だけどその理由は。
「子供を助けて、いい奴になりたかったんだよ、それで自分の罪が軽減されると、そんなことしか考えなかったんだよ」
そして異世界に来て、自分の能力が拳銃と知った時には何とも複雑な気持ちになった。
拳銃操法は仲のいい刑事から教えてもらって、実際に撃ったのは仲のいいヤクザから撃たせてもらったから拳銃を扱うことができる。
だが別に拳銃は普段携帯していたわけじゃないし、持っていたわけじゃない。前に触れたが武器としてはそこまで優れているわけではない。武器の性能に反してのリスクが高すぎて日本で携帯するのは現実的ではなかったのだ。
「だから拳銃が能力なんてのは、いい格好をしたいって気持ちを見透かされたみたいだったんだよ」
ふうと、息を切ってイシス達を見る、っと話しすぎたかな。
「貴方もいろいろあったのね」
「いや、甘ったれたガキが甘ったれたまま死んだってだけ、イシス程に覚悟を持っていたわけじゃない。だけど俺は初めて学生生活が楽しいって思ったんだ。色々振り回されるけどさ」
ここで言葉を切ると、字ッとイシスを見る、何が言いたいのかわからないのかイシスは「?」と首をかしげる。
「つまり、その、お礼が言いたいからこんな話をしたんだと思う」
全くつながらない話にイシスはふっと吹き出すと俺に寄りかかってきた。
「ぴょ!」
「そうね、これからもよろしくね、クサナギ」
「ああ、こちらこそ、な」
和やかな雰囲気になる部室。
一度終わったと思った俺の人生は思わぬ形で続くことになった。
異世界転移、学園都市、異能力、どんな劇的な物語が始まるかと思えば、異能力があるというだけで、平凡な学生生活が、いや、言葉が足らなかった、平凡でとても楽しい高校生活が送れることになった。
そして何よりも、気の合う仲間に囲まれて、何の思惑もなく学生生活を楽しみに出来る俺は今、間違いなく幸せだと断言できる。
「なにより冴えないパッとしない俺が、超絶美少女4人に囲まれているハーレム生活がこれからも続くってことになる、フッ、そんな生活も悪くないか」
「おい、俺はそんなことを思っていないし、いきなりモノローグに割り込むんじゃねえよ、凄い分かりづらかったぞ今、それと男女比が1対複数ならそれは無条件にハーレムとか俺は認めない、絶対にだ」
一応、ここで一区切りです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
後は不定期に更新できればなぁと思います。




