天御クサナギ・異世界へ③
彼女が通信機で再び連絡を取って徐々に夜ながら人の姿がちらほら見え始める。
「異形警報は解除されたから、人が出てきたのよ」
そこから少し浮かび上がってくる街の情景、なんだろう、中世とスチームパンクを基調としているのは分かるんだけど、物質に感じる妙な違和感というか、科学は発達しているけど、「別の物も混じっている」分かりづらくて申し訳ないけど、そんな雰囲気がある場所だ。
ここで俺は、やっと生きている実感みたいなのが沸いてきて、落ち着いてきた。
そんな中、サクヤは隣でこの世界でのことを取り留めもなく話している。
「ここはリーイディエル王国に存在する教育機関、学園都市ベデード、生徒たちの自主性が極端に尊重されており、大人たちは管理はするけど干渉をせずが原則であり鉄則の場所」
リーイディエル王国の教育施策は、いわゆる日本に例えると全国の高校を一か所に集めて、一つの教育機関として国が一括管理をしている場所、というのが学園都市の定義らしい。
並んで歩くサクヤはそう話す、そうかさっきの通信はその連絡をしていたのか。
それにしてもリーイディエル王国とか学園都市ベデードとか言っていたけど、全然聞いたこともない名前、いや国って結構いっぱいあるから俺の知らない外国なのかもしれない。
だけど並んで歩くサクヤの、どこか説明口調なのかが気になる。
「なあ、変な事聞いていいか、ここは、雰囲気から察するにヨーロッパが何処かなのか?」
「…………」
サクヤは答えない、これは答えを知らないのではなくて知っていて答えないってことだ。
――「大丈夫、貴方の状況は理解している、だからついてきて」
先ほどの彼女の言葉、確信を持った彼女の言葉、自分の置かれている状況が何一つ分からないが、彼女のその言葉は何となくではあるが本当だと思う。
つまり説明はするが質問はするなってことか。
そんなサクヤは、表情を変えることなく俺を先導する形で路地に入る、裏路地の暗く汚い感じがする道だが、裏路地に面して建てられている一つの建物に入っていく。
ここが換金所なんだろうか、中は狭く、窓口というには、1つの座っていた若い女の人が座っているだけだった。
「異形討伐をしてきた、換金をお願いする」
コトッと宝石を置き、習う形で俺も宝石を置く。
「いつもありがとね、狩猟部も悔しがってたよ、また獲物を取られたって」
「異形討伐は早い者勝ちがルール、競合した場合はその限りではないけど」
「ごもっとも」
彼女のこの二つの宝石を解析機にかけて何やら文字列やら数字が出力されてそれをふむふむと読み取る。
「サクヤ、学生証貸して」
ここでサクヤは学生証を2枚渡す。
女性は2枚の学生証を受け取って端末を操作すると「振り込んだから確認して」と2枚の書類と一緒にサクヤに返した。
サクヤが書類にサインする前に別の機械を懐から取り出して学生証に差し込み中身の確認をしている。
「…………」
んー、おそらくあの学生証とやらに報酬が振り込まれているのは分かったけど……。
「何か?」
と俺の心情を察したかのように女性が聞いてきた、顔に出てたのか……。
いや、あることはあるんだけど……ええい、まあいいか、聞いてみるか。
「ここって正規ルートの換金所なんですか?」
「へぇ、そう思った理由は何?」
「異形討伐、でしたっけ、会話から察するにちゃんと認められた仕事、でいいんですよね、だと思うのに、どうしてこんな裏路地にあるのかなって」
いきなり俗な例えで申し訳ないがパチンコの換金所、あれは法律的にはグレーらしいが、暗黙の了解といった感じで「ひっそりとではあるが堂々と」店を出している。
だからこそ、ひっそりと隠れるように、そして独特な雰囲気……。
「はっきり言っていいよ、胡散臭いって」
「うえ!? い、いや、胡散臭いというか、こう、なんとなく、雰囲気が、さ」
まあ最大の理由は他にもあるが、そんなことを初対面で言えるわけもない、しどろもどろの俺に女性はニマニマと笑いながらこっそりと話しかけてくる。
「自分と一緒の匂いを感じる、最大の理由はそれでしょ?」
「…………」
「こわーい♪ でも染まり切っている感じではないけど、かなり足を突っ込んでいる位置にいたってところね」
手を差し出してくる。
「私はノエラ・ニューピタ、察しのとおりこの換金業は無許可であり私の数ある顔の一つ、その代わり高値で引き取るよ、貴方の名前は?」
「……天御クサナギ」
「今後とも御贔屓ね♪」
今後とも、か。確かに付き合いやすい人ではあるのかも。
「クサナギ、終わった、行こう」
確認し終わったのかサクヤが話しかけてくる。俺はひらひらと手を振るのノエアに見送られ彼女の事務所を後にした。