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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第五十六話

「素の力でこれだけのことができるとは、なんとも恐ろしいねえ。」


剣についた血を拭き取り終わったリザルトの目に映るのは、ところどころ激しく削られた地面。それはリザルトとツァリアと名乗る戦士との戦いの後だった。もちろんそれをのんびりと眺めるリザルトは、既にその戦いを終えている。とっくに地面に伸びているツァリアの背に腰を下ろしながら、リザルトはまだ決着がつかないもうひと組の方に目を向けた。


「あ!た!れ!」


チクキーの言葉一つ一つが叫ばれるたびに、舗装された地面はその形を大きく変えていく。わずかばかりだが、その度に石などが宙に浮いているあたりその凄まじさが伺えた。だがそれが繰り返されてもなお、宙を自在に走るヨルキュアは怪我一つ負っていない。魔法の一つなのか、縦横無尽に空すらも動き回るヨルキュアは高らかに笑った。


「ふははははは、我が天脚の前にそのような大ぶりが当たるとでも――――――」


ヨルキュアは大層自慢げだったが、その言葉が終わらぬうちにその動きが突然ビタリと止まり、次に自然の摂理に従って自由落下を開始した。空でどうにかしようとヨルキュアは四肢をばたつかせているが、その体は意思に反してどんどんと加速していく。その姿をブルータルは呆れながらも目で追っていた。


「おっさんさあ、さっきからずっと見てたけど同じこと繰り返してばっかでつまんないんだよねー。だからほら、行動も読まれてこんなのに当たっちゃうしー。」


その口ぶりから、ブルータルがなにかしたのだろう。今はこうやって前線に出されているが、彼の得意とするものは剣の扱いより魔法の行使である。おそらくこれも魔法の影響なのだろう。次の攻撃のため、チクキーが大鎚を構えているうちにヨルキュアは地面に落ちたが、うまく体が動かないのか足取りもおぼ付いていない。様子からも、しばらく空を飛べないことははっきりしていた。


しかし、最後の一撃を加えんとチクキーがおおきく振りかぶったとき男も雄叫びをあげた。チクキーに飛びかからんと両手を広げ―――そこで割って入ったリザルトがヨルキュアの動きを押さえ込む。


「おいおいお二人さん、油断してると足元すくわれるって――――――」


リザルトはそう言いかけて、何かを察知してあわてて組みをとくとその場に伏せる。するとリザルトが背後からした気配通り、頭上を槌が飛んで行きヨルキュアをどこかへ吹き飛ばしてしまった。躊躇のない一撃に言葉も出ないリザルト、そこにチクキーが笑顔で手を差し伸べる。しかし表情だけで目は笑っていなかった。


「あらあら、わざわざ手を貸そうとしてくれたから思いっきり打っちゃうところでしたわ。お怪我はありませんか?」


「おまえなあ・・・・・・」


「私は悪くありません!」


耳が痛くなるような叫びに思わずリザルトが顔を背けると、その先にいたブルータルト目があった。どうにかしてくれとリザルトが目で言うと、ブルータルはチクキーを見て、またブルータルとめを合わせた。


「傭兵。」


「なんだ坊。」


「あれが味方が割って入ったからって、振りかぶった業物を止められるほど器用に見えるのか?」


「確かに見えねえな」


リザルトの言葉にチクキーはまた刺すような視線を投げてよこしたが、リザルトは面の皮の厚さでそれを無視する。しかしそれにも限界があることを知っていたリザルトは話題をそらすことにしたようで、ひとりでに手持ちの装備の整備を始めていた。


「しかしもうそろそろ次が来るぜ。あまりやりすぎだと、達成感みたいなのがなくなって困るって話じゃなかったのか?」


「どうなんだろうね。まあ怒られるのは隊長だし俺は知らないっと。」


ブルータルがそっぽを向いたちょうどその時に、彼らは遠くから信じられないような速さで人影が迫ってくるのを確認した。リザルトは一瞬警戒をしたが、近づくにつれてそれが見知った顔だと知ると警戒を緩める。


「遅かったな、というかどうしたんだそれ?」


「全員撤退、この場を引くぞ。」


ついてそうそう急かすように撤退を命じたライズ。リザルトはその理由に見当がつかなかったが、テクノバーンが片腕から血を流していること、そして二人に続いてこの場に迫ってきた人影を見てその検討がついた。その人影はリザルトも見知った顔だったが、決して親しいというわけではなく、事実お互いの姿を認めた二人はすぐに互いに剣を突きつけ合っていた。


「おう、久しぶりだな勇者様。」


「派手にやってますね。これあなた達・・・・・・以外にはいませんね。」


周りの惨状を確認して睨みを利かせるシノトに、リザルトは肩をすくめてみせた。撤退の指示は出ているが、この場でやり合うのも悪いことではないだろう、そう判断したリザルトは剣を軽く左右に振ってみせる。


「この前の続きをやるか?」


「いえ、一旦下がりましょう。また今度来ますよ、勇者殿。」


「だから逃がしませんって。」


勢いよく迫ったシノトに、カウンター気味にチクキーが鎚を振り下ろす。


「それっ!」


だがそれは不発に終わった。既で止まったシノトの前に鎚は振り下ろされ、瞬きの内に鎚を迂回したシノトがその剣を振り下ろす。そのすばやさに防ぐすべはないかに思われたが、剣は実際にははじかれていた。甲高い音をたててその一撃を防ぎきったリザルトは、背後の同僚に呆れたように声をかける。


「嬢ちゃん、いい加減そのくせ直さねえか?」


「うるさい!」


叫びにも似た声に続き、横薙ぎに鎚が振るわれる。リザルトは姿勢を低くしてよけ、シノトは後ろに大きく跳んでそれを避けた。当たればタダでは済まない一撃が頭の上を通過したことに冷や汗をかきながらも、リザルトはシノトから目を離すことなく指示を仰いだ。


「だからあぶねえっての・・・・・・おいここでやるわけには行かねえのか?」


「できればいいですけどね。」


ライズのその言葉の意味を、リザルトはすぐ後に身を持って知ることとなった。











結果から言えば、リザルトとシノトの戦いは前とは全く別のものとなっていた。しかしそれも考えれば当然、以前はそうでなくてもいまや攻撃手段を得たシノトの前では、リザルトが防戦一方を強いられることになるのは想像も難しくない。度重なり不規則に空を切る剣にリザルトが対応できるのは、時たま援助してくれるチクキーとブルータルの存在が大きかったが、時期に限界が来ることはリザルト自身わかっていることだった。


「・・・・・・剣は使わないって聞いてたが、これはあれか?あまり上手くないからじゃなくて、今まで使う必要がなかったからってことか?」


味方にも、ましてや敵にも弱腰を悟られることのないようその声はごく小さなものになっている。撤退はいつになるのか、隙を見てリザルトがライズの方を伺うと、ライズは何やら呪文を唱えている最中らしかった。


「逃げるために魔法を使うので、時間稼ぎをお願いします。」


続けて有無を言わさぬ命令が飛んでくる。リザルトは頭が痛くなる思いだった。


「簡単に言ってくれるよ。」


いつものようにぼやきながら、リザルトは両手に握る剣を構え直していた。

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