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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第五十七話

魔法の効果か、不自然にテクノバーン達を囲むように、霧のようなものがかかっていく。おそらくはリザルト達が逃げるため、それは時間を稼ぐものなのだろう。しかしかかり始めた霧はまだ薄く、シノトにはその場の全員の姿がはっきりと見える。それも時間の問題と見たのか、シノトは急ぐようにリザルトに突っ込んだ。


衝突とともにリザルトが呻く。火花が散り、剣の衝突とともに手を伸ばしリザルトの襟首を掴むシノト、そのまま強引に引っ張り引きずる。予想外の行動にリザルトは対応できずなすがままにされ、引きずられた先で鎚を振りかぶっていたチクキーもその動きを止めざるを得なくなった。


リザルトが慌ててこれ以上引きずられまいと踏ん張るが、ちょうどそのタイミングに合わせてシノトが蹴り飛ばすことでリザルトとチクキーがぶつかり合い、バランスを崩す。無防備な二人に向かってシノトが大きく剣を横に振りかぶったところで、シノトはその動きを止めた。


違和感でも感じたのか握る剣の方へ視線を向けると、ライズがシノトの剣を横合いから掴んでいる。


「技術者では力不足かもしれんが、そいつらを殺されたら困るんだ。横槍を許してもらおう。」


シノトは慌てて剣を引き抜こうとしたが、剣はグローブに掴まれたままびくともしない。シノトと同じ体を持っていたとしても異常な握力、なにか種があるに違いなかった。


シノトの判断は早かった。剣を回転させると同時に相手に足払いをかける。急に無理な体勢を強いられたライズは、完全に体が浮いた。剣を引きつつ、シノトが地面に叩きつけるように顔を蹴りつけるがライズは剣から手を離さない。


「いいぞ、そのまま離すなよ!」


すかさずリザルトが躍り出る。剣を捕まれ、シノトはその一撃をかわせないかに思えた。シノトと剣を寸断するかのような剣の軌道は、しかし紫色の剣に阻まれる。そう、ライズはいつの間にか剣から手を離していた。


「さっきのお返しだぜ!」


その理由を考える暇はリザルトにはなかった。つばぜり合いに続き、今度はリザルトがシノトの襟をつかもうと手を伸ばす。もう少しのところで届きそう、というところで突然シノトの体がカクンと落ちた。リザルトの手は空を切る。


「あ?」


一瞬だった。リザルトが手を引かれたと自覚した次の瞬間、リザルトの視界いっぱいに灰色が広がる。いや、広がっているのはそれだけではない。その中の一点、紫色の剣も回転しながらリザルトに迫っていた。


しかし、リザルトが避ける前にその目の前を巨大な何かが通過する。圧倒的な質量を感じるそれは、次の瞬間リザルトの目前に迫った剣をどこかに消し飛ばしていた。


「大丈夫ですか!」


チクキーがそばによりリザルトが立ち上がると、その時にはシノトの剣が二人をおそわんと恐ろしい速さで迫っていた。しかし直後に瞬く閃光、阻んだのはテクノバーンだ。立て続けに交差する剣、目にも止まらぬ攻防に、二人の間で火花が散る。だがテクノバーンは片腕に怪我を負い、時期に押され始めるのは彼も承知していることだった。だが、テクノバーンはそれでも笑う。


シノトがテクノバーンの表情に気を取られているうちに、リザルトが体勢を立て直し加勢を始めた。そのまま二人がかりでシノトを攻め立てる。前はこれでシノトは下がらざるを得なくなったが、しかし以前とは違いシノトは武器を手にし、テクノバーンは怪我を負っていた。


「準備が出来たよ、隊長!」


その時、霧の向こうからブルータルの声がシノト達に届く。その声に気を取られた一瞬、シノトは両手に力を込めてめいいっぱい剣を降る。テクノバーンは片手では受け止められず、剣を落としてしまう。リザルトは助けに入ろうとしたが間に合わない。シノトの剣が、無防備なテクオバーンの首元へ吸い込まれていく。


その時、シノトの背後から無数の矢が降り注いだ。煙の中を割いていく無数の矢は、等しくその中にいた全員を襲う。


「あいたたた、痛くないけどいたたたたー。」


ブルータルの声が煙の中に響くが、そこには切迫性がまるで含まれていない。もちろん勇者の体を持つものに普通の矢は刺さらない。たとえ雨の矢の中だとしても笑顔でいられるだろう。とはいえそれは全員の虚を突き、全員にわずかな混乱をもたらす。一番早く立ち直ったテクノバーンは叫んだ。


「全員下がれ!一旦帰るぞ!」


全員の姿が霧の向こうに消えその姿を見失ったとしても、シノトはなぜだか動かなかった。少しの硬直の後、兎に追い抜かれた亀のようにシノトはやっと動き出す。近くにもはや人の気配もなく、矢のふってくる様子もなかった。


シノトが霧の中、石の積み上がったところを超えれば、そこはもうローグの街の外だった。シノトの目の前には広い平原が広がっており、それはシノトもここに来るときに確認していた。当然ながらまだ逃げている最中のテクノバーン達がどこかにいるはず、しかし大地を駆けるものはシノトの目には映っていない。あるのは空を飛んでいる巨大な生き物が一匹のみ、おそらくテクノバーン達がそこに乗っていることだろう。いつあれを呼んだのかはともかく、逃げるために霧を張ったのにも意味があったらしい。


シノトは空を見上げ、口笛を吹いた。するとまもなくして、シノトのもとにワイバーンが一匹どこからともなく飛んでくる。体中やけに傷が目立つワイバーンは、これまでシノトを背に乗せてきた。今回もそのようなようだてなのだろうと、着地早々背中に乗るようにシノトに促したが、シノトは遠くの空に消えていくテクノバーン達を見て諦めたのか、ただワイバーンの首をさするだけだった。


さて、魔法が解けたのか門の周りの霧が晴れ、完全にその中の惨状が火の元にさらされる。その向こうからまた現れる人たち、その目はどう見ても友好的な印象を得られるものではなく、シノトは色々と考えてとりあえず笑っておくことにしたようだ。

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