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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第四章 ~西風の盗賊団~
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思わぬ足留め

 軽い朝食後、そして俺の頬から右ストレートの腫れが引く頃。俺達は初日に泊まった所よりは幾分宿代の安い宿屋を出て、三日目の捜索を開始した。と言っても、ミューや馬車、旅荷物等はそのまま宿屋に置かせてもらっている。この歩行者天国さながらの雑踏を馬で練り歩くのは、さすがに効率的とは言えないからな。


 この街での捜索もそろそろ大詰めで、俺の中では明日にでも別の町へ向けて出発するべきじゃないかな~なんて考えている。だからというワケじゃないけど、聞き込みにも自然と気合が入ってしまう。中心よりやや北方面を主に回り、昼頃には案内図に載っている全ての武器屋を巡り終えた。


 もちろん、その間にセイラの兄についての聞き込みをするのも忘れない。結果は……どちらも収穫ゼロに終わった……。


 昼食をとり少しの間ブラブラと街を流した後、俺達は朝の宿屋に戻ってきた。


「う~ん……結局だめだったなぁ……」


 ルナの部屋。俺は誰にともなく溜め息混じりに呟いた。薄く疲労の色を顔に浮かべ、ルナとセイラがそうだね、と静かに頷く。


「ねぇルナ。ガイルロードってグランスフィアの中心都市なんでしょ? ならここで何も手掛かりが得られないとなると、ひょっとしてこの先絶望的なんじゃないかな……?」

「ん~……確かに楽観はできないけど……絶望的ってほどでもないよ。言わば、ここは総合一位。アポカリプスは魔導器であり剣でもあるから、幾多の大戦の舞台となった“ガルツァーク大陸”や戦士の国“アレフィス”、魔術国家“エルドラント”みたいなアポカリプスの特徴に即した土地の方がむしろ見つかる可能性は高いかもしれないよ」


 俺の問いかけにルナが人差し指を立ててスラスラと答えた。またしても初耳な地名が多数出てきたけど……要は『世界は広い』という事で納得しておこう。


「じゃあ、今ルナが挙げた場所が次の目的地になるワケだな。どうする? 俺的には明日にでもここを発とうかと思うんだけど……何か意見があれば遠慮なく言って。特にセイラ、俺達とは目的が多少違うし」


「え? あ~ボクなら大丈夫! というかね、実は昨日の時点でお兄ちゃんはココには居ないって薄々分かってたんだ~」

「……なん……だって?」


 セイラの予想外な返答に、俺は一瞬言葉を失った。


 ……いや……考えてみれば、別段予想外というわけでもない。なぜならセイラは昨日の時点で馬を購入しようとしていた。それはつまり、その時セイラはすでに“出立しようとしていた”という事になるからだ。


 でも、セイラはなぜ兄の存在を感覚的に察知できたんだろう? 対であるエアリアルリングの片割れを持つセイラには、何か特別な力が働いているのかもしれない。


 とにかく、セイラは本来なら昨日には出立していたところを、俺達とパーティーを組んだために延期を余儀なくされたわけだ。(パーティーを組まなければ馬は買えなかったが……)

 その事実を知った事と、またそれを全く表に出さずアポカリプスの情報収集に付き合ってくれたセイラに対し、俺は感謝と申し訳なさで胸が一杯になった。


「……よし! それじゃ今日はゆっくり休んで、明日。水と食料の調達が終わり次第出発しよう」


 俺はそう言って反省会を締めくくると、静かにルナの部屋を後にした。



 ○   ○   ○



 翌朝、中々起きようとしないルナを文字通り叩き起こし(当然のように反撃が飛んできたが)俺達は旅の準備を整えるために宿を発った。この街を歩くのも、とりあえずは今日で最後。次は、いつやってこれるか分からない。そう思うと、少しだけ寂しいような気もした。


「そういえば、正確な目的地はまだ決めてなかったよね?」


 未だ眠たげに隣を歩くルナに、俺はそう尋ねた。ルナは欠伸を噛み殺して答える。


「ふぁぁ……そだっけ? うぅ~、そうだなぁ……今まで東から西へ旅してきたから、このまま西に行く? “リ・ゼイラム”と“ミノー”を経由していけば、『ガルツァーク大陸』に渡る船に乗れるよ。今回はミューもいるし、リ・ゼイラムまでなら三日と掛からないハズだよ」


 寝ぼけ眼の割りに的確な返答をするルナ。俺もセイラもガルツァークに渡る事に異存はなく、ルナの意見をそのまま採用する事にした。地図によればリ・ゼイラムまでの道中に河川の氾濫や山の土砂崩れといった突発的障害を引き起こしそうなものはない。とりあえず、調達する食料は五日分もあれば十分だろう。


 旅支度と少し早めの昼食を終え、俺達は中央広場を経由して街の西門へと向かう──はずだったのだが、俺達はそこで思わぬ事態に遭遇してしまった。

 中央広場を、黒山の人だかりが埋め尽くしていたのだ。そしてその群集のほとんどが、なぜか屈強な男達で占められていた。


「ほんっと、毎日飽きない街だよなぁ……今度は一体何だ?」

「うっわ……すごい人の数……私、ちょっと様子見てくるっ!」

「へっ? お、おいルナッ!?」


 ウズウズと体を揺らしていたルナが、好奇心に耐え切れずに人ゴミへと駆けていく。全く、リピオよりアイツにこそ首輪とリードを付けるべきだったのかもしれないな。俺はセイラとリピオに目配せすると、ルナを追って人だかりへ向かった。


 威勢良く突進していったルナだったが、小柄な彼女は群集の最後尾で虚しく立ち往生していた。結局ルナが人ゴミの中心を確認できたのは、リピオの出現によって人の群れが道を空けた後だった。


 人だかりの原因は、何の変哲も無い一つの立て札。いや、正確にはそこに張られた紙の内容だ。紙には簡易的な地図と、次のような文が記されていた。



『昨日、我がフォスター家にとある予告状が届けられた。この時世、予告状など普通なら一笑に付すところだが、予告文の最後には『盗賊団ゼピュロス』の名が記されていたのだ。さすがにこの名を見過ごす事はできない。そこで我がフォスター家では、その対応策として用心棒を雇う事にした。詳細は屋敷にて説明する。腕に覚えのある者は我が屋敷に集って欲しい。──ロイ・フォスター──』



「ゼピュロス……! まさか、こんな所でその名を聞くなんて……」


 張り紙を読み終えるや否や、ルナが驚きに満ちた声で呟いた。


「何なんだ、それ?」


 緊張感の欠けた声で尋ねる俺に、ルナは厳しい表情で答える。


「大盗賊団、ゼピュロス。ここ数ヶ月で突然台頭してきた組織で、規模は小さいけどその頭領がとてつもない手練らしいって話で有名になったの。断定はできないけど私、アポカリプスを盗み出したのはそいつらじゃないかって考えてもいたんだよ。でも神出鬼没な奴らで、まさかこんなに早く対面するチャンスが巡ってくるとは思ってなかったから……」


 言って、ルナは複雑な顔でセイラを、そして俺を見る。


 ルナの言いたい事は分かる。やっと得られた、アポカリプスに至る手掛かりになるかもしれない存在──ゼピュロス。今を逃せば、次はいつその名を聞けるか分からない。だがこれに関わってこれ以上セイラを足止めさせるのは心苦しい、と。……その気持ちは、俺も同じだった。


 しかしジっと立て札を見つめていたセイラは、悩む俺とルナを尻目に思い掛けない言葉を投げ掛けた。


「この地図、お屋敷の場所を示してるんだよね? えっと、ここから北東、じゃなくて、こ~見るんだから北西? 何だか面白そうだよね~。ねぇねぇ、みんなで行ってみようよ」


 無邪気に笑って言うセイラに、俺は思わず尋ねた。


「あの……いいの? セイラ」

「えっ、何が?」

「いやその……もうガイルロードにお兄さんの手掛かりはないんだし、これ以上はさ……」

「あぁ~! 何だ、そんなの気にしないでお兄ちゃん。ボクの目的は、もう一つじゃないんだから。アレスお兄ちゃんを探す事と、アポカリプスを探す事。その二つがボクの目的だよ」


 当然のようにそう答え、セイラは穏やかな笑みを浮かべる。


「……セイラ……」


 眩しいくらいのその笑顔に、俺は改めて誓う。

 俺なんかに一体何ができるのか、今はまだ分からないけど……いつか、来るべき時が来たなら。

 俺は──最大限の力を以て彼女の助けになろう、と。


 こちらの目的を優先してくれるセイラに多大な感謝を抱きつつ、俺達は北西地区にあるというフォスター邸に向かったのだった。

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