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仇討の島  作者: タヌキ
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Run&Shoot

 老人達は更に近づき、銃剣の切っ先が触れそうなところまで迫ってきた。

 ジェイスが少しでも腕を前に出せば、銃剣は長老に突き刺さるだろう。もしくは、ジェイスが引き金を引けば長老は散弾を浴びることになる。

 だが、彼が怯んだり恐怖したりしている様子はない。冷淡な態度を崩さず、漆黒の瞳でジェイスとカズミを見つめている。


「……お前達が、薬物が捌いてたのか」

 ジェイスがそう言うも、英語なので長老達へは通じない。察したカズミが震える声ながら、翻訳してみせる。


「あんやん(そうだ)」


 長老が答える。


「くりん、っやー等んかいぬ復讐ぬたみやん(これも、お前等への復讐のためだ)」

「復讐……」

「やーにんじゅくるし、しま焼ち、くんとぅったるいったーんかいぬやー(家族を殺し、故郷を焼き、奪い取ったお前達へのな)」


 その声は恐ろしいほど平坦で冷淡であった。今の彼等を動かしているのが、積もりに積もった二十五年分の恨みと憎しみであるとジェイスとカズミは感じ取った。

 激しい怒りも一周回れば逆に冷静になる。

 そうして得た冷静さで、薬物を売りつけて兵士を中毒にしていったのであろう。


「作業場んーだったる以上、生ちちけーするわけーねーん(作業場を見られた以上、生きて帰す理由は無い)」

「……っ、ジェイスさん」


 カズミの声と同時に背後からの気配を感じ取ったジェイスが後ろを見ると、いつの間にか作業場にいたはずの女達が後ろへ迫ってきていた。こちらも数が多い。

 手には包丁や鎌、拳銃がある。彼女達も老人達と同じく憎しみに満ちた顔と漆黒の瞳を、ジェイス達へ向けていた。

 二方向から迫られ、ジェイス達は壁際へ追い詰められる。

 万事休すかとジェイスは苦々しく思う。

 この状態で散弾銃や拳銃を撃ったとしても、人垣を崩すのは難しい。弾数が多く、貫通力の高いライフル弾を用いる軽機関銃か爆発物でもないと。

 自分の身を犠牲にカズミだけでも逃がせないかと思案するも、難しいと判断する。


(ここまでか……?)


 銃を握る手が汗で湿ってくるのをジェイスは感じた。だが、人が死ぬ前に見るという走馬灯は見えない。

 どうせ死ぬなら、一矢報いん。引き金に掛けた指へ力を込めた時、カズミが英語で囁いた。


「……合図します、走ってください」

「え?」


 聞き逃しそうな程小さな金属音がした三秒後、カズミは円柱形の物を放り投げた。

 それは空中で頭頂部から猛烈な勢いで真っ赤な煙を噴き出す。

「走って!」


 視界が赤一色になる直前、カズミは叫んだ。

 自身を奮い立たせ、緊張を掃うためジェイスは雄叫びを挙げる。

 散弾銃を振り回し、人垣を崩しながら走る。カズミも後から続く。


「撃てい!(撃て!)」

「とぅみれー! ちりんかい当たいん!(止めろ! 仲間に当たる!)」


 そんな老人達の怒鳴り声に混ざり、女の引きつった悲鳴や泣き声がした。


「ふぃーぬ! ふぃーぬ!(火が! 火が!)」

「いやぁ! 母さん!」


 ガマの中、勢いよく広がる赤。こんなシチュエーションが、女達の脳裏に残る沖縄戦での火炎放射に対するトラウマを呼び覚ましたのである。

 カズミからすれば、トラウマ云々は偶然であった。ただ、危機的状況を脱するべく手探りで掴んだ物が赤色のスモークグレネードであっただけだ。

 なんにせよトラウマと視界不良による混乱は、彼女とジェイスに利する形で働いた。

 人垣を突破し、ガマも抜けた二人は一度背後を振り返る。

 トラウマによるパニックを起こさず、視界不良による混乱も最小限に抑えた老人と女、十人弱が二人を追いかけていた。

 息を整える間もなく、二人は再び走り出す。

 悪態を付く余裕もない。ただひたすらに足を動かすだけだ。

 止まったら殺される。そんな考えが二人の脳裏によぎる。

 坂道で何度も転びそうになりながらも丘を下り、さとうきび畑まで戻ってくる。

 ここから集落を抜け、港まで戻る道は一本しかない。

 島から出さないと言われたからには、罠や待ち伏せなども覚悟しなければならない。

 ジェイスは少しでも身軽になるべく、背負っていた背嚢を捨てた。カズミもそれに倣う。

 戦闘に必要な物はボディーアーマーのポケットやピストルベルトに装着してあるので、心配はない。


「まだ走れるか?」

「いけます!」


 肩で息をしながらも、元気いっぱいに返事をするカズミ。


「よし……行くぞ!」


 あれほど静かであった集落は異様なまでの熱気に包まれていた。

 二人がメインストリートへ足を踏み入れた途端、住宅からわらわらと得物を手にした老人や女達が出てくる。少なくとも三十人はいる。


「……資料より、住民の数が多くありません?」

「恨み持つ者同士、寄り合い所帯ってところか」


 今までにない命の危機と分泌されるアドレナリンのせいで、ジェイスはハイになりかけている。

 引きつった笑みを浮かべながら、彼は間近にいた老婆の顔面に散弾を撃ち込んだ。

 老婆の枯れ木の様な身体は、着弾の衝撃で軽々と吹き飛び石垣へ叩きつけられる。

 シェルを排莢しながら、ジェイスは言い切った。


「生きて帰るぞ」


 M1カービンを構えようとした爺の胸へ九ミリ弾を撃ち込んだカズミは、彼の言葉に頷きながら、これまた引きつった笑みで返事をする。


「はい!」

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