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仇討の島  作者: タヌキ
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南袢島

 警戒感を強めるジェイスとカズミをよそに、哨戒艇の乗組員達は船を係留させると談笑しながら釣りを始めてしまった。

 陽気な笑い声は、警戒感や敵意に水を差す。

 白けにも似た空気が漂い出したのを見計らい、カズミが「失礼します」と軽く頭を下げて歩き出した。目指す先は島の北西部にあるガマだ。

 ジェイスも後に続く。背中へ視線が突き刺さるような錯覚を感じながら、集落への道を歩く。

 集落は砂浜を望む平地に作られており、台風に備えて植えられたビロウやフクギの緑の中に赤い瓦屋根が点在している。

 メインストリートへ足を踏み入れるが、集落は驚くほど静かであった。活気というものが存在していない。

 人の気配は感じるものの、家の中に籠っているらしく姿は現さない。

 嫌われているか、恐れられているか、はたまた両方か。気配だけでは窺えないが、そのような意志を察することは出来る。

 揃って鳴る足音だけがやけに大きく聞こえる。


「歓迎、されてませんね」


 カズミが苦笑しながらジェイスへ話しかける。あまりに静かなので、耐えられなくなったのだ。

 静かな分には構わないジェイスであったが、彼女の話に乗る。


「歓迎委員会を組まれても困るがな。有無も言わさず鉛弾が飛んでこないだけマシだと思おう」

「ですね」


 ポツリポツリと話をしながら集落を抜けると、さとうきび畑が広がるエリアへ入った。

 人の腰ぐらいまでに伸びたサトウキビが行儀よく並んでいる。

 テキサス育ちのジェイスにとっては、どことなく郷愁を覚えさせる光景であった。

 広大さは流石にテキサスの地には負けるが、この時期のテキサスでは小麦やトウモロコシが青々と行儀よく並びながら天を目指して背を伸ばしている。

 それがタブって見えたのだ。

 対し根っからのシティーガールであるカズミは、見るのが初めてではないのに興味に満ちた目でサトウキビを見ている。


「凄いですよね、これから砂糖が出来るって」

「まったくだ。大昔の人間が、サトウキビを見つけなきゃ、コーラもアイスも食べられなかったからな」


 そんな話をしているうちにサトウキビの列は消え、周囲がガジュマルの木や草で鬱蒼としてくる。

 人一人が通るのがやっとの、道と呼ぶにもおこがましい隙間だけが島の奥へ通じている。

 小高い丘になっているらしく傾斜があり、やや歩きにくい。

 暑い中、歩き続けること二十分強。ジェイスとカズミは丘の頂上付近にある広場に出た。

 そして、目的地であるガマの入り口を発見する。

 垂れ下がり岩肌にへばりついている幾つものツタがそこだけなく、黒い口をぽっかりと開けている。

 小休憩を兼ね、二人はガマの地図などを写した手帳を出して突入前の確認を行う。

 大戦時は物資集積場として使われていただけあり、内部はかなり広い。

 また最深部は海にも繋がっており、大戦時はそこから出入りをしていたらしい。

 洞窟内ならば空からは見つけられないし、爆撃を行っても物資を損壊させることは出来ない。理にかなっている。

 故に島へ上陸して直接破壊せねばならない。実際に、沖縄本島上陸作戦前に激しい戦闘があったようだ。

 これ自体は珍しい話ではない。他の離島でも大小問わない戦闘が起こっている。

 だが、それは客観的な事実でしかない。事に対してどう思うか、何があったかは敵味方問わず個人による。

 過去を割り切って未来に進む選択をする者。

 かつての敵を利用し、成り上がる者。

 過去を割り切れず、憎悪の気持ちを捨てきれない者。

 三者三様。

 法を犯すことさえしていなければ何をしようが何を考えようが自由であるが、ジェイスにはどうにも嫌な予感がしていた。

 どうにも、自己責任という言葉と老人達の態度が引っかかって仕方がないのである。

 彼はガマの入口へ目をやった。

 万が一にも襲撃を受け、入口を押さえられてしまえば、ガマからの脱出は難しくなる。

 最深部へ行き、海に飛び込んだとしてもそこから港へ戻るのは難しい。何故なら、テキサス産まれテキサス育ちのジェイスは泳げないからだ。

 では、シカゴ産まれシカゴ育ちのカズミはどうか。


「……なぁ、カズミ」

「はい?」

「君、泳げるかい?」

「藪から棒になんですか? ……泳げないですけど」


 その返答を受け、ジェイスは唾を飲み込んだ。

 二人共泳げないとなれば、襲撃を受けた場合に取る行動は強行突破しかない。

 敵が一人や二人ならどうにかしようはあるが、大勢で来られたらその時は万事休すである。

 大勢の気を一瞬でも逸らせればまだ突破しようがあるが、そんな方法は簡単には思いつかない。

(……いや、あるな)

 ジェイスが思いついた方法とは、自分が囮になることであった。

 自分が引き付けているうちにカズミを逃がす。確実性には乏しいが、彼にはそれ以外に思いつかなかった。

 散弾銃に六発、GIコルトに七発。

 予備弾薬や装填済みの弾倉はあるものの、リロード出来るかはその時にならないと分からない。

 ある分の弾丸で何人を道連れに出来るか。

 襲撃されると決まった訳ではないのに、ジェイスはそんな物騒な事へ考えを巡らせていた。

 深刻な顔をする彼を前に、カズミもつられてどこからともなく湧いてきた不安感に胸を重くした。

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