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仇討の島  作者: タヌキ
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禁断症状

 通信機器の用意や根回しはこちらでやるが、車と武器と助っ人は潮見派残党が自力で調達することで話が付いた。

 それらが双方共に用意出来次第、コザへ進撃する。

 その日が大きな山場になろうことは容易に想像が付く。


「気合、入れないとな」

「はい!」


 殆ど自分の力で説得を成し遂げたカズミは、意気揚々としている。成功体験を若いうちに積んでおくのはいいことだ。

 それがいつかの自分を救う。ジェイスはそう考えていた。

 パッケージから出した煙草を咥えながら、彼はこれからのことの予定を立てる。

 無線は憲兵隊の予備機を借りるとして、根回しは何処にすればいいのだろうか。

 憲兵隊の隊長と地元警察だけでいいだろうか。もっと上の方、仮にも統治者である陸軍司令にも話を通した方がいいのだろうか。

 だが、ここまで考えてジェイスは心の中で、それを否定する。煙草に火を点け、煙を吐きながら思考を深めていく。

 ジェイスは司令を、自身の事なかれ主義を自分の暴走への牽制にすり替えて忠告してくるような人物であったと思い出す。

 筋を通そうとして、かえって面倒なことになりかねない。

 黙っておこうとジェイスは心に決めた。

 ジープはさとうきび畑を抜け、市街地へと入っていく。

 のどかで静かだった浜辺の村とは打って変わって、慌ただしく騒がしい。

 車のクラクション。上空を飛ぶヘリコプターや戦闘機の爆音。飛び交う英語の罵声と怒声。

 そして、銃声。

 ライフル銃の連射音が轟いた瞬間、ジェイスとカズミは顔を見合わせた。

 見合わせてからコンマ一位秒後。

 カズミは音がした方へ向かうべくステアリングを回転させ、ジェイスは煙草を吐き捨て、無線機のスイッチを弄ってサイレンを鳴らす。

 どんな任務があろうと、すぐ近くで起ころうとしている凶行を逃すことはしない。

 二人の憲兵隊員としての矜持は、一致していた。


「ライフル……音が軽かった。M14じゃなくて、M16だな」

「抗争ですかね」

「残党がまだいたと?」

「無い話ではないでしょう」


 カズミの説を否定する材料は無いので、ジェイスは頷く。

 銃声がした方に近づいてくると、スナックの前へ乗り捨てられたジープが二人の目に留まる。


「あれ……」

「ああ……」


 野次馬らしき人だかりもあり、まず間違いないと思った矢先。人だかりが慌てて逃げ出した。

 何事かと見れば、スナックからM16A1突撃銃を持った兵士が飛び出してきた。

 兵士はサイレンを聞きつけたようで、すぐさまM16の銃口をジェイス達のジープへと向けてくる。

 カズミは咄嗟にハンドルを切り、ジェイスは彼女を庇って覆い被さる。

 高速で飛んでくる5.56ミリ弾が今しがたジェイスとカズミの頭部があったところを、通り過ぎていく。

 ジープが停まったのを見計らい、ジェイスはカズミを車外へ突き飛ばして射線の陰に入れた。

 自身はホルスターからGIコルトを抜き、牽制射撃を行いながら、運転席に移動して車外へ転がり出る。


「怪我、無いか」


 スライドオープンしたGIコルトから空になった弾倉を抜き、予備弾倉を叩き込みながらジェイスはカズミへ訊ねる。


「……はい。ジェイスさんは?」


 カズミも自分のホルスターからM10を抜いた。


「俺も大丈夫だ。運が良い」


 ジェイスはスライドストップを下ろし、弾倉の一番上にある弾を薬室へ送り込んだ。それから、M16男の方を窺う。

 男は様子を見ているようで、血走った目でジープを睨んでいる。口の端からは涎まで垂れ、肩で息をしている様はどう考えても、正気とは思えない。

 しかしながら、様子を見るだけの知性はあるので、錯乱している訳ではない。

 少なくとも今すぐに乱射しながら突っ込んでくる訳ではなさそうで、二人は一先ず安心する。


「……さて、これからどうするか」


 着た直後に群がっていた野次馬達は何処かに散り、道路を走っていた車も路肩や道の真ん中で無人になっている。市民の避難誘導もすぐにはしなくてよさそうだった。


「撃ち合うにも、拳銃じゃ分が悪いしな」


 男が持つM16に挿されている弾倉は二十連装。ジープへの銃撃を考えても、十数発は残っている。

 それが連射でばら撒かれるのだから、単射しか出来ない拳銃では勝ち目は薄い。

 ジープに積んだクレートの中には短機関銃や散弾銃があるが、それらを取るにも身を出さなければならないので、撃たれるリスクは高い。


「……素直に、応援呼ぶか」

「賛成です」


 無線機のマイクを取るべく、ジェイスがタイミングを見計らっていると男が叫んだ。


「クスリ……クスリを寄こせぇっ!」


 その声は如何にも苦し気で、聞いていて胸が痛くなるほどだ。


「……クスリって、麻薬ですかね」

「薬が欲しければ、薬局襲うだろうし……麻薬だろうな。ってこた、禁断症状でああなってんだな」


 麻薬の売人が、検挙を恐れて町から消えて今日で三日目。

 早い者は禁断症状が出始めてもおかしくはない。売人が何処かに行ったか分からない以上、普段から麻薬を手に入れるのに利用している店を訪ねるのはおかしな話ではない。

 だが、そこにも麻薬が無かった場合。我慢出来るならまだいいだろうが、我慢出来なかった場合……。

 ジェイスとカズミは、M16男の動機をそう考察した。

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