18:旅の道中とマヤ
「えっと・・・・本当に彼女らはついてきてもよかったのですか?」
あれから一週間後ワタシは、ヴィルおじさんらボーロ村の村人に同行し、シムザスの街を目指していた。今回はボーロ村の徴税対象となる、領主の畑で育てた麦の運搬もあるので、ワタシの【黒渦】で収納して預かっている。その分馬車の荷台があいたので、ペトラちゃん初め、数人がその荷台に乗り込んでいる。カロンは現在白虎となり、周囲の警戒に余念がない。あの姿のカロンがいれば、魔物も警戒して、そう寄ってくることもないだろう。
そして今回の旅には、冒険者のダイソンさんとモニカさんを始め、フェリ姉ちゃん、ラルフさん、こちらの2人は馬に騎乗している。それから・・・・セリアちゃんとメルちゃんまでもが、ついてきていた。
勿論セリアちゃんとメルちゃんの、同行を許可したのは、彼女らの師匠であるラルフさんである。
「2人は魔法の他に身体強化も使えますから・・・・そこらの冒険者よりもずっと役に立つと思いますぞ?」
セリアちゃんは9歳、メルちゃんに至っては、まだ6歳になったばかりだ。そんな幼い2人が、一般冒険者以上の働きを見せるというのは驚きである。そのラルフさんの話が本当であれば、あの2人の将来は、末恐ろしく思えてくる。それもあの知恵の実の影響なのだろうか? だとしたら同じく知恵の実を食べたペトラちゃんも、将来そうなってしまうのだろうかと、ふと彼女の方に目を向ける。
彼女は現在、もじもじとしながら、フェリ姉ちゃんの方を見ている。フェリ姉ちゃんに何かを聞きたそうな様子だ。
そんな時、ふと彼女に相談されていた、あることを思い出した。
「フェリ姉ちゃん・・・・」
「な~にマヤ?」
「そう言えばペトラちゃんが、魔法について悩みがあるそうなんですけど・・・・」
先ほどからもじもじして、何かに聞きたそうにしているペトラちゃんに代わり、ワタシはフェリ姉ちゃんにそう尋ねた。
ペトラちゃんからは事前に相談があり、その質問は魔術師であるフェリ姉ちゃんにする方が、最適ではないかという話にはなっていたのだ。魔法の相談ならやはり、魔法の専門家である、魔術師に尋ねるのがいいからね。
ところがなかなか本人からは、切り出せなかったようだ。ペトラちゃんにはシャイなところがあり、特に初対面の人には、話しかけづらいところがあるらしい。
「ペトラといったかしら? 悩みというのはなに?」
「えっと・・・・その・・・・ペトラは水魔法が使えるんだけど・・・・その・・・威力が足りなくて・・・・」
ペトラちゃんの悩みは、彼女が使う水魔法が、畑の水やりや水球を飛ばすくらいで、攻撃面においては、全く役にたたないということだ。武力こそが最も求められるこの世界においては、やはり魔法の威力が重視されるのだ。
「ワタシとしては、水球を巨大にして投げるだけでも十分な戦力になると思うのですが・・・・」
水球を巨大化させれば、あのデスキャンサーの群だって、押し流すくらいの威力があるのだ。
「もしかして水球って貴女が聖騎士軍に使ったとかいうフルートヴェレのことかしら?」
フルートヴェレは津波を引き起こす魔法のようだ。ワタシのあの大きな水球をつくる水魔法は、周囲にはフルートヴェレと認識されているのだ。聖騎士軍とのあの一軒の話は、いつのまにやらフェリ姉ちゃんの耳にも、入っているようだ。大方カロン辺りにでも聞いたのだろう。
『あれはマヤぐらいにしかできない力技だよ・・・・。人族が1人でつくれる水球は、せいぜいペーダの実くらいの大きさなのさ』
ペーダの実と言えば、直径50センチメートルの大きさがある。大きさだけはあるが、当てたところで、精々相手がずぶ濡れになるくらいだ。相手の頭にかぶせて窒息を狙うなら、けっこう接近しないと無理だから、どのみち相手にも攻撃を許してしまうだろう。水球を出しながら、戦えれば話はまた変わるが、水球を浮遊させながら戦闘となると、ちょっと難しくなる。
「水魔法の上位互換に、氷魔法があるけど・・・・戦闘に使うならそれくらいかしら?」
確かに硬い氷なら、水を当てるよるは、攻撃力はありそうだ。
「氷魔法は・・・・ちょっと無理かも・・・・」
だが水魔法を覚えたてのペトラちゃんが、その上位互換である氷魔法を使うのは、確かに難しいかもしれない。
「カロンは確か氷魔法を使っていましたよね? 何かコツのようなものはあるんですか?」
とりあえず氷魔法に詳しそうな、カロンにそのコツを尋ねてみる。
『う~ん・・・・。ボクは魔法を使う時、詠唱していないように見えて、実は詠唱魔法を使っているんだよね。コツさえつかめば、無詠唱で詠唱魔法でも使えるんだけど、それを人が使うには、何年もの修行が必要かな? ペトラが使っているのは古代魔法のようだし、詠唱魔法を知らないペトラに教えるのは、ちょっと難しいかもね』
ペトラちゃんはワタシが水魔法を使うのを参考にして、魔法を使うようになった。森羅万象のスキルで覚えたワタシの魔法は、古代魔法に分類されるのだ。古代魔法はイメージと感覚だよりの魔法で、使うのに詠唱を必要としない。そんなペトラちゃんがいきなり詠唱魔法を、無詠唱で使うような、高等テクニックは使えないだろう。その前に詠唱魔法から学ぶ必要が出てくる。
ちなみに詠唱魔法は、感覚だよりの古代魔法よりは、確実性が高いと云われている。
それでは古代魔法で水魔法の上位互換である、氷魔法を使うというのはどういうことだろう?
感覚的なもので氷を出現させるなら、水を氷に変えた方が、やりやすそうだ。それでは水を氷に変えるための、理とはいったい、何だっただろうか?
確か前世で見たサイエンス的な動画によると、水に強い圧力をかければ、氷になるという。それを魔法で実践してみたらどうなるだろうか?
まずは指先に水蒸気を集めて水球をつくる。その水球の周囲から、圧力がかかるように、水球を操作していく。
カキ~ン!!
「あ・・・できた・・・」
すると水球は瞬く間に凍り付き、氷球となったのだ。周囲の皆はその氷を見て、唖然とした顔をしている。
「あんた・・・・さらっと上級魔法を再現してんじゃないわよ・・・・」
するとそれを見ていたフェリ姉ちゃんに、呆れられてしまった。
「すご~いマヤちゃん! それどうやったの?」
「指先に出した水球に、圧力をかけていくんですよ・・・」
ワタシは水球に圧力をかけて、氷球をつくるやりかたを、ペトラちゃんに出来るだけ詳しく説明した。
カチカチ・・・・
「本当だ! ちょっとだけ表面が凍り付いたよ!」
そして度重なる挑戦の末、ペトラちゃんはなんとか水球の表面を、凍らせることが出来たのだ。全体が氷にならない理由は、イメージの問題だと思うのだが、その感じであれば、さらに練習を重ねれば、ペトラちゃんも氷魔法を、使えるようになるだろう。
そしてワタシの習得魔法に、【操氷】が加わった。
習得魔法一覧
火魔法 【発火】
水魔法 【操水】【操氷】
風魔法 【操風】【空中移動】
土魔法 【操土】【操鉄】【結晶抽出】
生命魔法 【身体強化】【治療】
光魔法 【浄化】
闇魔法 【黒渦】
精神魔法 【思考加速】
植物魔法 【植物改良】
合成魔法 【魔石操作】【突きの達人】
この【操氷】については、森羅万象のスキルを使い、覚えたわけではないので、その詳細はまだわからない。少しづつ研鑽を積みながら、その効果を確かめていくしかないだろう。
「そうやってマヤは、周囲の人間も規格外に変えていくのね?」
そしてフェリ姉ちゃんに、さらに呆れられてしまった。
そんなたわいのない雑談をし、たまにおやつを口にしながら、ワタシ達の旅は続いていった。
シムザスの街にたどり着くまでには、2つの野営地を経由し、さらに2つの村を通ることになる。その全てに街道が通っているのは嬉しいが、片道徒歩5日と、けっこうな距離がある。これは東京から歩いて、静岡市辺りまで行ける距離ではないだろうか? ボーロ村はモンタルバン領でも末端の、辺境伯領との境目に位置する村だ。モンタルバン領の中心であり、領都であるシムザスの街までは、最も遠い村の1つと云われている。
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