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17:訪ねて来たヴィルおじさんとマヤ

「お久ぶりですヴィルおじさん!」


 あれからさらに月日は経過し、猫砦に客が来たという報告を受けた。ワタシが城壁に上がり見下ろすと、なんと城門の前にヴィルおじさんがいた。ヴィルおじさんは冒険者の、ダイソンさんとモニカさんを連れ立って、この砦までやってきたのだ。


『何か覚えがある気配だと思ったら君たちか・・・』


 いつの間にか子猫になったカロンも、そんな彼らの様子を、ワタシの足元から覗き込んでいる。


「おうマヤか! また随分と大きな砦を建てたな! 聖獣カロンもお元気そうでなによりです!」


『元気もなにも病気なんてしないよボク達聖獣は・・・・』


「ダイソンさんとモニカさんもお元気なようでなによりです!」


「おう! お前も相変わらず元気だな!」「少しはふっくらとしたようじゃないかい!」


 そんな彼らと挨拶を交わすと、さっそく城門をゴゴゴと開けて、猫砦の中に案内した。


「あら? 貴方は確かボーロ村にいた・・・?」


「その赤髪はあの時の・・・聖騎士軍の部隊長の?」


 すると顔を合わせたヴィルおじさんと、フェリ姉ちゃんがなにやら顔見知りのようで、立ち止まって会話を始めた。


「あの時は迷惑をかけたわね! 色々あって今はここの世話になっているのよ。貴方・・・今日はここへ何の用かしら?」


「マヤの奴に少し用事がありまして・・・・」


 さすがのヴィルおじさんも、貴族オーラを放出している、フェリ姉ちゃんには敬語になってしまうようだ。しかしワタシに用事とは、いったいなんだろうか?


「それにしてもこの獣人達はいったいどうしたんだ?」


 ヴィルおじさんはその猫砦の中で働く、獣人達を見て、ワタシにそう尋ねて来る。その獣人達とはもちろん、あのラザ村から避難してきた獣人達だ。

 ちなみに今彼らが熱心に育てているのはさつまいもだ。最近森でとれた野生の芋をもとに、さつまいもの創造に成功したのだ。そのさつまいもの味に感銘を受けた彼らが、さつまいもの栽培を始めたというわけだ。


 現在彼らには、猫砦のほぼ全ての畑を任せているので、ワタシが畑に手を出すことは、あまりなくなっている。そのためワタシは、日々重機と化し、猫砦の拡張工事に、勤しんでいるというわけだ。


「その話も含めて・・・あの小屋で話しましょう・・・・」


「ほう? あれがお前が言っていた例の家だな?」


 こうしてワタシは、ヴィルおじさん達を連れ立って、もろもろの話をするために、小屋の中に入って行ったのだ。





「それで話というのは何でしょう?」


 全員が席に着くと、ワタシはまずヴィルおじさんの要件から尋ねた。

 この小屋に客間なんてないので、当然そこはいつも皆が集まる、台所にあるテーブルだ。

 この場にカロンがいるのは良いとして、なぜかフェリ姉ちゃんも席についているが、基本フェリ姉ちゃんは世話焼きな性格なので、気にせず話を進める。当然その後ろには、執事のラルフさんが控えている。


「お前もうじき6歳になるよな?」


「ああ・・・そういえばあと7日もすれば6歳ですね・・・・」


 一年とは早いもので、ワタシはもうじき6歳となる。ちなみにワタシは拾われ子のために、正確な誕生日がわからず、拾われたその日が誕生日となっている。

 誕生会でも開いてくれるのかと少し期待もしたが、この国に誕生日などという常識は存在しないのだ。そこは諦める他ない。


「冒険者登録のことは忘れていないよな?」


「ああ! そうでした!」


 ワタシはあの欲深なボーロ村の村長に、利用されないために、6歳になったと同時に冒険者となり、冒険者ギルドの庇護下に入る予定なのだ。まあ今まで忙しすぎて、忘れていたがね・・・・


「あんた冒険者になるの!? てっきりここの統治者にでもなるつもりだと思っていたわ!」


 フェリ姉ちゃんがそう思うのも無理はない。この猫砦には現在、ラザ村からの避難民を、20人も受け入れているのだ。そして皆ワタシをマヤ様とよび、慕ってもいる。まあまだわずか5歳のワタシが、統治者になるというのも、おかしな話だと思うが・・・・この猫砦を造ったのはワタシだし、それも仕方のない話なのかもしれない。


「ああ・・・あの獣人達はそういうわけだったのか・・・・」


 その話からヴィルおじさんは、大体の事情を察したようだ。


『で? マヤを冒険者にしたいヴィルの要件はいったい何なんだい?』


「言い方に何か含みがありますね・・・・聖獣カロン・・・・。俺はマヤが幸せになれば、それでいいと思っているのですがね・・・・」


 カロンのその含みのある物言いに、不機嫌そうにヴィルおじさんがそう返した。

 カロンのその言い方から、ヴィルおじさんにも何か意図があることが窺える。いったいヴィルおじさんが、ワタシを冒険者にしたい理由とはなんなのだろうか?


『でももうマヤが冒険者になる必要は、ないかもしれないよ?』


 ワタシが冒険者になる必要はない? カロンはいったい何を言っているのだろうか?


「それはいったいどういうことですか?」


 ヴィルおじさんも困惑したように、カロンに聞き返す。


『その理由を聞くなら、そこにいるフェリアンヌに聞いた方がいいかもしれないね?』


 カロンがそう言うと、そこにいる全員の目が一斉に、フェリ姉ちゃんにくぎ付けとなった。


「聖獣カロン・・・・突然話をふるなんて、マナー違反じゃないですこと?」


 そう言ってカロンを一睨みすると、フェリ姉ちゃんは一息つくために、目の前のお茶に口を付けた。そして口を開いた。


「私の名はフェリアンヌ・オルブラント・・・・。近々父にマヤをお目通りさせる予定よ・・・・」


「オルブラント・・・・まさか貴女はオルブラント公爵家の方ですか!?」


「そうよ・・・・。私も貴方と考えていることは同じ・・・・どのみち貴方も冒険者上がりのバルタザール卿からマヤにつながりをもたせるつもりだったんでしょ?」


「なるほど・・・・。それではマヤが冒険者になる意味はもうありませんな・・・・」


 はあ!? この人たちは何を話し合っているのだろうか? ワタシが冒険者になる必要はない? まったく話が見えてこないのだが・・・・


「あの・・・・ワタシが冒険者にならなくていいとはどういうことでしょうか?」


 ワタシはその真意について、2人に尋ねてみた。


「察しが悪いわねマヤ! いい・・・!? 今から言うことは忘れなさい! バルタザール卿は私の父の傘下の者よ!」


 バルタザール卿がオルブラント公爵の傘下の者? それがいったなんだと言うのだろうか? 

 話を忘れろということは、この話は表に出してはならない話だということだ。つまりバルタザール卿は・・・・オルブラント公爵のスパイであるということだろうか?

 ならこのモンタルバン領を納める領主は、オルブラント公爵とは違う派閥なのだろうか?


「モンタルバン領の領主、コスビッチ・モンタルバンは王政派であり創世新教の信者でもあるわ。それに対してうちの父は民主派であり、裏では旧神教の信者でもあるの。その意味が貴女にもわかるかしら?」


 宗教の違い、政治的考えの違い・・・そこから導き出されるのは・・・・オルブラント公爵は、隙あらば国王になり替わろうと、画策しているということか?


 つまりオルブラント公爵は、国王と対立しているという構図が見えてくる。


 そして今の話を察するに、バルタザール卿は冒険者の組織に、大きなつながりがあるのだろう。ヴィルおじさんはワタシを冒険者にすることで、そのバルタザール卿とのつながりをつくろうとしてくれた。ゆくゆくはバルタザール卿とのつながりのある、オルブラント公爵の庇護下に入るということではないだろうか?

 つまりヴィルおじさんの言う通り冒険者になっても、フェリ姉ちゃんからオルブラント公爵とのつながりをつくってもらっても、結果は同じであったということだ。

 まあワタシ的には黒目黒髪を忌み嫌い、人族至上主義の創世新教を推す国王よりも、旧神教を信仰するオルブラント公爵に付いた方が、安泰なのはわかる。


「それでは俺達は無駄足だったようですね・・・・。マヤはすでに公爵家の助力を得る機会を得ていた・・・・」


 ヴィルおじさんは、何か諦めたような表情でそう口にした。


「まあそれでもワタシは冒険者にはなりますけどね?」


「「はあ!?」」


 そのワタシの言葉に、一同が唖然とする。

 ワタシが冒険者になるのは、ある意味憧れからだ。世界を旅してクエストを受けて、知見を広めていく・・・それほど有意義なことが他にあるだろうか? まあ一生危険な冒険者をやっていくのにも限界はあるし、そのうち安全な働き口を、探す必要はあるだろうが・・・・

 出来るだけ冒険者をして、この世界を見て回りたいのは、正直な気持ちだ。


「貴女・・・・冒険者がどんな仕事かわかっている? 冒険者は危険な魔物を狩ったり、ダンジョンや未開の地の探索を生業とする職業よ? とても危険な職業で、それ以外やることのない人が、最終的に就く職業なのよ?」


「それでもワタシは、冒険者に憧れていますから!」


 ワタシがそう言うと、一同は渋い顔でワタシを見つめた。


「はあ・・・・。それならそうでこちらも話を進めやすいのだがな・・・・」


 そしてヴィルおじさんが、わざわざこの猫砦にやってきた、理由の説明が始まった。

 なんでも年に一度納税の折にペトラちゃんを、バルタザール家へ顔見せに向かわせないといけないらしい。そんな中丁度6歳となったワタシが、冒険者ギルドへ登録へ行くとこになる。すると行き先が同じになるために、ついでにワタシを旅に同行させようと考えたようだ。ワタシには物資を収納できる【黒渦】の魔法もあるし、戦闘においても大人に引けをとらない。その辺りも当てにしているのだろう。


「でもこの辺りには最近聖騎士軍もいるんですよね? 鉢合わせになりませんか?」


 あのならず者の寄せ集めのような、聖騎士軍の連中には、出来たら鉢合あせになりたくはない。それに聖騎士軍に向けて、巨大な水球を落とした際に、顔を見られているし、鉢合わせになれば争いになる未来しか見えない。


「聖騎士軍なら1ヶ月くらい前に、ボーロ村から南にある街道を通って、辺境伯領の方へ進軍するのを見かけたぞ? おそらくはもうこのモンタルバン領にはいないだろう」


 確かに聖騎士軍の目的は魔族領のようだし、いつまでもこの辺りにはいないか・・・・

 しかしボーロ村の南にあるあの街道が、辺境伯領につながっていたのは初耳だ。すると魔族領というのは、意外にボーロ村から近いのかもしれない。

 だがまあ・・・・当分はこの領地で、聖騎士軍と鉢合わせする心配はないようだ。魔族の存在は少し心配だが・・・・

 

「そういうことなら同行させていただきます!」


 ワタシはそのヴィルおじさんからの誘いを、二つ返事で引き受けた。


「それじゃあ私もその時はマヤについていくわ」


「え? なんでフェリ姉ちゃんまで?」


「当然バルタザール卿に、貴女のことについて釘を刺すつもりだからよ? それに貴女が変なことをしないか、見張るためでもあるわね」


 バルタザール卿に釘を刺す? もしかしてワタシがすでに公爵家の庇護下に入る予定であることを、主張するためだろうか? まあ貴族間のトラブルを、未然に防ぐためなのだろう。


 それはそうとワタシが変なこと? ・・・・しているな・・・・色々と・・・・

 マヨネーズの件やらゼリーの件やら、それに獣人姉妹の魔法の件・・・・後隠していることに知恵の実の件もある。色々考えると頭が痛くなるね。


「マヤ様がいくなら私もいく!」「メルもマヤちゃんについていくよ!」


 するとフェリ姉ちゃんが、ワタシの旅について来ると、口にしたことを皮切りに、どこで聞きつけたか、セリアちゃんとメルちゃんまでもが、ついて来ると言い出した。

 セリアちゃんとメルちゃんは、最近狩りでも活躍し、強くなっているとは耳にしている。だが幼い2人を旅に同行させるのは、正直気が引けるのも確かだ。


「わかりました・・・・それではセリアちゃんとメルちゃんは・・・・ラルフさんから合格を貰えれば、同行してもいいことにします・・・・」


「「わかった!!」」


 ラルフさんならきっと、適切な判断を下してくれることだろう。なんせラルフさんは、2人の剣の師匠でもあることだし・・・・

 お読みくださりありがとうございます!!


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 冒険が好きな方★

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