08:ラルフの剣術とマヤ
多くの果樹が生い茂るその先では、日がサンサンと照り付ける中、城門の広場の前で、ラルフさんとワタシは、お互いに木剣を向け合い対峙していた。
それはワタシが、避難民の護衛に相応しいかどうかの、確認のための模擬戦であった。
お互いの武器は木剣。ワタシはその木剣を正眼に構え、ラルフさんは木剣を右手に持ち、左手は後ろに回している。その佇まいからは、何か余裕のようなものを感じられる。
すでに模擬戦開始の合図は告げられ、ワタシはどうラルフさんを攻めるか考えていた。
「来ないのでですかマヤさん?」
そんな中ラルフさんが、ワタシの行動を促すために、かまをかけて来る。ラルフさんはワタシが2度目に遭遇する、歴戦の剣士の気配を漂わせた人物だ。ちなみに一度目に遭遇したのはマクベーンだ。あのマクベーンも只ならぬ気配を放っていたものだ。その緊張のためか、ワタシの額からは、一滴の汗が流れ落ちて来る。
攻めるとしたら、まだラルフさんが、ワタシをなめているうちがいいだろう。だとしたらそれは丁度今だ。ラルフさんが片手に持った木剣から、違和感のようなものを感じる。あの構えは本来、両手で剣を持ち、戦うための構えではないだろうか?
おそらくラルフさんは、ハンデのために、あのような構えをしているのであろう。
ワタシは身体強化を、さらに一段階強める。
上昇した腕力で強引に、片手に持つ木剣を、叩き伏せれば、あるいは落としてくれるのではないだろうか?
フェンシングとの他流試合で、よく使った手が、この武器を叩き伏せる手段だ。片手に持ったレイピアは、竹刀で力いっぱい叩かれると、持っているのが困難になる。
「ほう・・・?」
するとラルフさんは、ワタシのその作戦を察したのか、木剣を両手に持ち直した。
「えっと・・・わかっちゃいました?」
「その気配を察すれば当然わかりますよ・・・・」
剣の模擬戦においては、相手の思考を読み、その作戦を察するのは当然の技術だろう。歴戦の剣士であるラルフさんが、たった数年剣を握っただけのワタシの思考を、読めない道理もないのだ。
「ラルフ・・・・マヤはそれほどなの?」
「ええ・・・・。膂力だけ見れば・・・・」
だがラルフさんの目は、さらにこちらのステータスを正確に覗き見ているようで、とても落ち着かない。
ただいつまでもじっとしていてもらちが明かない・・・・
「えいやああああ!!」
「ふっ!?」
ワタシが気合とともに、突撃を仕掛けると、ラルフさんの気配が一瞬で豹変する。その一瞬でワタシの実力を上方修正し、警戒レベルを引き上げたようだ。
ワタシは突撃途中で、バスケのロールスピンのように回転して動き、ラルフさんのサイドに回り込む。
バスケのロールスピンは本来こんな技ではないが、身体強化で超人なみに上昇した、ワタシの脚力でなら、大きく回り、剣の間合いから逃げつつ、瞬時に相手のサイドにまわることが可能なのだ。まあセリアちゃんとメルちゃんとの、遊びの中で身に着けた、ちょっとした目くらましテクだ。
そのままワタシはラルフさんの胴に向けて、水平斬りを繰り出す。
カツ~ン!!
だが小手先の技術が通用するほど、ラルフさんは甘くは無いようだ。木剣をサイドに翻し、ワタシの水平斬りを見事防いで見せた。そのままワタシの木剣に、自らの木剣をスライドさせ、手元に向けてプレッシャーをかけようとしてくる。だがそれは以前見た!
「とう!!」
「な!?」
だがワタシはそこで止まらず、そのままの勢いを生かして、ラルフさんにショルダータックルを見舞った。
体重差からして、ワタシの方が跳ね飛ばされそうではあるが、現在のワタシの脚力から生み出されるそのタックルは、常人のものではない。
「ぐあっ!!」
ワタシのタックルを受けたラルフさんは、そのまま地を転がっていく。
「どおおりゃああ!!」
そのまま止めと言わんばかりに、上段に振りかぶり、兜割を狙う。
「甘い!」
だが瞬時に立ち上がったラルフさんは、ワタシに向けて突きを繰り出してきた。
思考加速によりその突きの初動が、かろうじて見えたワタシは、上空へとダイブし、その突きを躱す。そのまま華麗に側方宙返りで、ラルフさんの頭上から1撃を繰り出す。
ところがラルフさんは右に上体を反らし、かろうじてその一撃を躱した。
「「「おおおおお!!」」」
その動きに感銘を受けたのか、皆が歓声を上げた。まあカロンだけは足で耳をかいているがね。まあカロンからしてみれば、側転宙返りなど、大した動きでもないのだろう。猫だし・・・・
だがこれで戦況は、振り出しに戻った。ワタシは攻め手を変えるために、今度は構えを八相に切り替えた。
「ここまでにしましょう・・・・」
「はい?」
するとラルフさんは、ここで模擬戦の終了を告げた。
「少しかすめてしまいました・・・・わたくしの負けでございます・・・・」
見るとラルフさんの頬は、線を描くように赤くなっていた。どうやらワタシの宙返りでの1撃が、頬をかすめていたようだ。
これが実戦であれば、そのまま戦いは続いただろうが、これはワタシが護衛に相応しいかどうかを、見るための模擬戦である。それで十分であると、ラルフさんは判断したのだろう。
「あのラルフに1撃入れるなんて! あんた大したものね!」
パシ!
「あつ!」
その状況に呆気にとられていると、フェリ姉ちゃんに背中を叩かれ、我に返った。
「わああああ! 凄いよマヤちゃん!」
メルちゃんがそんなワタシの周囲をはしゃぎまわる。
『まあ及第点ってとこでしょ? それでマヤは護衛には相応しいかな?』
今まで黙していたカロンが、ラルフさんにそう尋ねる。
辛辣だなカロンは・・・・まあ問題はワタシが、護衛に相応しいかどうかなのは確かだ。
「ええ・・・・剣の方にはまだ粗さがありますが、彼女にはそれを補って余りある身体強化があります。例え達人であっても、その動きについていけるかどうか・・・・さすが聖獣カロンの認めた御仁であります」
『つまり合格ということだね?』
「ええ。それは勿論でございます。マヤさんは将来かなりの達人となられることでしょう・・・・」
「「わああああ!」」
そのラルフさんの言葉に、獣人姉妹がまるで自分事のように、歓喜の声を上げた。
こうしてワタシは、避難民の護衛の1人に、加わることになったのだ。
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