11:魔術師フェリアンヌの受難
魔術師フェリアンヌ視点~
私はこの聖騎士軍に参加したことを後悔している・・・・
確かに聖騎士軍結成当初は、一部隊を任され、有頂天になっていた頃もあった。だがその実は盗賊と変わらない集団だったのだ。
私は若干10歳で魔術学園に首席入学を果たし、天才の名を欲しいままにしていた。ある時そんな私に、聖騎士軍の隊長職の話が持ち上がったのだ。オルブラント公爵家の三女である私は、若干義務的にその話に乗ることしかできなかった。だが勇者パーティーの一員になれるとあって、その時は舞い上がっていたのだ。あの時の私を殴りたい・・・・
あれから3ヶ月は経つが、いまだに聖騎士軍は魔族領にすらたどり着いていない。それどころか略奪まかいのことを繰り返し、物資の徴収を繰り返していると噂に聞いた。私の任された部隊で、そんな非道な真似はさせないが、他の部隊ではそうもいかない。
何度か大将であり勇者であるシュルケル王子にも、確認はしてみたが、馬鹿にされ笑い飛ばされるだけだった。さらにシュルケル王子は柄の悪い連中とつるみ、感じが悪いことこの上ない。
私はお父様の教えであり、公爵家の教えである、非道な行いをしてはならないという考えを、どうしても守りたかったのだ。
そんな中モンタルバン領に差し掛かった聖騎士軍は、拠点をシムザスの街に移し、さらなる物資の徴収を開始した。今回私が徴収を任された中に、ボーロ村という小さな村があった。そこは人口は50人に満たない小さな村だった。
「なに? この豊かな実りは・・・・」
私がボーロ村を見て発した一声がそれだった。
驚くべきことにボーロ村には、見たこともない野菜や、木の実が生い茂り、その実りが村全体を覆っていたのだ。この国の街や村は基本貧しく、これほどまでに実りが多いケースを目にしたことはない。極端に作り込まれたこの村の城門にも驚いたが、それ以上にその実りは、私の目を引いたのだ。
「この野菜や果樹はここの村人が?」
「ええ・・・まあ・・・・」
さっそく村の代表を呼びつけ話を伺う。男はおどおどした様子で、とても話になりそうにない。名をステットというが、どうやら話が苦手のようだ。こんなのでよく村の代表が、務まっていたものだ。
「村の代表は今は気分がすぐれません。私が代わりに聞きましょう・・・・」
そう言って現れたのは、体格の大きな背の高い男だ。その名をヴィルといった。見た瞬間に思ったが、この男こそ実質この村の内情を把握しているのだろう。
「我々は聖騎士軍です! すぐに広場に村人を集めなさい! 物資の徴収を行います!」
「恐れながら無体な真似は・・・・」
「安心なさい! 私がいる限り、村人には指一本触れさせないから!」
村人を集める理由は、隠れて厄介な真似をさせないためでもあるが、同時にガラの悪い兵士達から、村人を守るためでもある。この私がいるかぎり、誰一人として怪我なんかさせないから!
「これはまた緩い徴収ですなあ~・・・・」
「ブートビール!! なんであんたがここにいるのかしら!?」
「な~に・・・・。あっしはそこにいる男に用がありましてね?」
そう言うとブートビールは剣を抜き、ヴィルという男を指し示した。ブートビールは戦闘狂だ。強者と見れば誰彼構わす挑み、その命を狩ろうとするのだ。私の目の前でそんな真似は許さない!
「やってごらんなさいよ! その瞬間お前の背中に火を付けてやるわよ!」
「そいつぁあ物騒ですなあ・・・・。それじゃああっしは他に参るとしましょう・・・・」
そう言うとブートビールは、どこかへ去っていった。大方他の強者でも、すでに目星をつけているのだろう。そちらへ向かったに違いない。
「姫・・・・少しお話が・・・・」
「何かしら?」
すると兵士の1人が、私に何かを報告してきた。その兵士の話では、どうやら岩山の上の方に、何かいた気配がしたそうだ。
「ヴィル・・・・なにか心当たりはあるかしら?」
私はこの村に詳しいヴィルにも意見を求めた。
「もしかしたら魔物かもしれません・・・・。この村の外壁は脆弱ですから、魔物がよく入り込むんです。以前もビックボアが侵入して大騒ぎになりましたから・・・・」
そのヴィルの話を聞いた途端に、周囲の兵士達が明らかに動揺し始めた。そして早めにこの村を出ようと、進言までしてきた。
そういえばこの村は、極端に作り込まれたあの頑強そうな城門に比べ、周囲は木の塀だけという、脆い外壁しかついていない。不自然には思うが、危険な村なのには変わりがない。よくこれで今まで、この危険な森に囲まれながら、残ってこれたものだ。
兵士達の進言はその後も続き、鬱陶しくなった私は、早々にこの村から、聖騎士軍を引き上げさせることにした。
ただ私が感じたのは、精霊がざわつく気配だ。もしかしたらこの周囲に、魔力の高い魔物でも、生息しているのかもしれない。
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