第18話
全身に巻かれた包帯は、血が滲んでいる。イザークは目を閉じ、ベッドに横たわっていた。意識はいまだ、戻らない。
「どうして……どうして、こんなことに……」
ベッド脇に腰かけ、モニカは呟く。自分の声が少し震えていることに、彼女は気付かない。隣に座るソフィーも、イザークの痛ましい姿に目に涙を浮かべている。
イザークが、王都でも仕事をしているようなのは勘づいていた。だが彼がこちらに何も言わない理由もなんとなく――こちらに気を遣わせまいとしているのだと考えて、そっとしておくことにした。
イザークがこのような目に遭ったのは、その仕事が原因なのだろうか?
「亜人たちによる盗賊団の隠れ家で発見されました。おそらくやつらの仕業でしょう」
モニカを診療所へ連れてきた衛兵が答える。
「彼が? 盗賊に?」
にわかには信じがたい。イザークがただの盗賊に、ここまで深手を負わされるなど。きっと、何か卑怯な手を使われたに違いない。
「その盗賊団は……? 捕まったんですか?」
とたんに衛兵が言い淀むのを見て、
「まさか、逃げられて……?」
「……ちょっとこちらへ」
衛兵に促されるまま、ベッドから離れる。ベッドではソフィーがイザークの手を握っている。どうやら彼女に聞かせづらい内容のようだ。
「隠れ家には、盗賊たちの死体もありました。獣に襲われたような酷い有様で......ほぼ全滅でした」
「ほぼ?」
「竜人の盗賊が、気を失った状態で見つかりました。目が覚め次第、話を聞くつもりです。もう一人……獣人らしき者がいた形跡がありますが、行方は不明です」
いなくなった獣人が犯人とも考えられるが、断定はできないため、衛兵はそんな説明に留めた。
野生の獣が山小屋に侵入した際、仲間を見捨てて一人だけ逃げた可能性もある。
「そうですか......」
モニカは俯き、深く吸い込んだ息を吐き出した。怒りを堪えるためだ。
困難と分かってはいるが、消えた獣人も早く捕まってほしいのが本音である。イザークを暴行し、これからものうのうと過ごしていくと想像するだけで、腸が煮えくり返る。
――と、診療所の扉が勢いよく開けられた。焦った様子の衛兵が、まっすぐこちらへ歩いてくる。
「何だ? 静かにしろ、患者が寝てる」
モニカと話をしていた衛兵が注意すると、
「ああ、すまない。北西の、城壁沿いに空き家があるのは知ってるか? お年寄りが一人で住んでいたところだ」
「お婆さんだろ? 昨年亡くなったはずだが......それがどうした?」
「その空き家の前にある路地に、地下水路の上げ蓋があって......それが壊されていた」
「どういうことだ?」
「思うに壊したのは《疾風の爪》だろう。俺たちの目を盗んで、王都を出入りするために。上げ蓋の縁に擦れたような血の跡が残されていたんだが、見たところそう時間が経っていない」
そこまで聞いた衛兵の顔が、険しいものに変わる。
「姿をくらました盗賊が今、王都内にいるかも知れない......ということか」
血の跡は、山小屋で起きた惨劇の後に地下水路を利用したようにとれる。しかもその盗賊自身が犯人の恐れもある。衛兵はモニカに向き直ると、
「宿に戻りましょう。道中は私が護衛します」
「でも、イザークが......」
「診療所にも見張りをつけますので、ご安心を」
そして二人はソフィーを呼びにいき、診療所を後にする。
誰も口にはしなかったものの――この広く入り組んだ王都の中から、件の獣人を捜さなければならない。相応の時間と労力を要するだろうことは、想像に難くなかった。




