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転生人形クロエ  作者: 黒砂糖
第三章
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第18話

 全身に巻かれた包帯は、血が滲んでいる。イザークは目を閉じ、ベッドに横たわっていた。意識はいまだ、戻らない。


 「どうして……どうして、こんなことに……」


 ベッド脇に腰かけ、モニカは呟く。自分の声が少し震えていることに、彼女は気付かない。隣に座るソフィーも、イザークの痛ましい姿に目に涙を浮かべている。


 イザークが、王都(ここ)でも仕事をしているようなのは勘づいていた。だが彼がこちらに何も言わない理由もなんとなく――こちらに気を遣わせまいとしているのだと考えて、そっとしておくことにした。

 イザークがこのような目に遭ったのは、その仕事が原因なのだろうか?


 「亜人たちによる盗賊団の隠れ家で発見されました。おそらくやつらの仕業でしょう」


 モニカを診療所へ連れてきた衛兵が答える。


 「彼が? 盗賊に?」


 にわかには信じがたい。イザークがただの盗賊に、ここまで深手を負わされるなど。きっと、何か卑怯な手を使われたに違いない。


 「その盗賊団は……? 捕まったんですか?」


 とたんに衛兵が言い淀むのを見て、


 「まさか、逃げられて……?」


 「……ちょっとこちらへ」


 衛兵に促されるまま、ベッドから離れる。ベッドではソフィーがイザークの手を握っている。どうやら彼女に聞かせづらい内容のようだ。


 「隠れ家には、盗賊たちの死体もありました。獣に襲われたような酷い有様で......ほぼ全滅でした」


 「ほぼ?」


 「竜人の盗賊が、気を失った状態で見つかりました。目が覚め次第、話を聞くつもりです。もう一人……獣人らしき者がいた形跡がありますが、行方は不明です」


 いなくなった獣人が犯人とも考えられるが、断定はできないため、衛兵はそんな説明に留めた。

 野生の獣が山小屋に侵入した際、仲間を見捨てて一人だけ逃げた可能性もある。

 

 「そうですか......」


 モニカは俯き、深く吸い込んだ息を吐き出した。怒りを堪えるためだ。

 困難と分かってはいるが、消えた獣人も早く捕まってほしいのが本音である。イザークを暴行し、これからものうのうと過ごしていくと想像するだけで、腸が煮えくり返る。


 ――と、診療所の扉が勢いよく開けられた。焦った様子の衛兵が、まっすぐこちらへ歩いてくる。


 「何だ? 静かにしろ、患者が寝てる」


 モニカと話をしていた衛兵が注意すると、


 「ああ、すまない。北西の、城壁沿いに空き家があるのは知ってるか? お年寄りが一人で住んでいたところだ」


 「お婆さんだろ? 昨年亡くなったはずだが......それがどうした?」


 「その空き家の前にある路地に、地下水路の上げ蓋があって......それが壊されていた」


 「どういうことだ?」


 「思うに壊したのは《疾風の爪》だろう。俺たちの目を盗んで、王都を出入りするために。上げ蓋の縁に擦れたような血の跡が残されていたんだが、見たところそう時間が経っていない」


 そこまで聞いた衛兵の顔が、険しいものに変わる。


 「姿をくらました盗賊が今、王都内にいるかも知れない......ということか」


 血の跡は、山小屋で起きた惨劇の後に地下水路を利用したようにとれる。しかもその盗賊自身が犯人の恐れもある。衛兵はモニカに向き直ると、


 「宿に戻りましょう。道中は私が護衛します」


 「でも、イザークが......」


 「診療所にも見張りをつけますので、ご安心を」


 そして二人はソフィーを呼びにいき、診療所を後にする。


 誰も口にはしなかったものの――この広く入り組んだ王都の中から、件の獣人を捜さなければならない。相応の時間と労力を要するだろうことは、想像に難くなかった。

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