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転生人形クロエ  作者: 黒砂糖
第二章
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最終話 クロエ・シャーウッド

 頭が痛い。息が苦しい。吐き気がする。


 いつの間にかベッドに横たわっている。いつからこうしているのだろう。

 最後の記憶では、確か――体調を崩した母のため、汗を拭おうと手拭いと盥を運ぶところだったはずだ。それがなぜか、今は自分が寝込んでいる。


 (お母さん、は......大丈夫、かな? まだ苦しい思い、してないかな? 具合......良くなった、かな......?)

 

 心配で堪らない。だが体は鉛のように重く、動けない。

 早く体を治して、母の顔を見たかった。だがそんな彼女の願いに反し、快復の兆しがまるで見られない――どころか、体調は悪化の一途を辿っていた。

 酷い寒気と、意識の混濁。ぎりぎり命を保っている状態。

 そんな状態がいつまでも続くはずもなく――やがて、終わりのときが訪れる。


 霞みがかった視界に、今にも泣き出しそうなほど歪んだ父の顔が映る。それがあまりに辛そうで、悲しそうで――自分が父にそんな顔をさせているのだと、そう思うと彼女もまた、辛く、悲しい気持ちになった。

 父にそんな顔をしてほしくなかった。そんな顔をさせたくなかった。

 父が仕事をしているのが好きだった。真剣に目の前のことに取り組む姿が好きだった。父の手によって、人形が完成していくのを見るのが好きだった。

 

 (ああ、そうだ......)


 伝えたいことが一つ、あった。どうしても、伝えたいことが。


 (私、も......後を継ぎたいって......お父、さん......みたいに、なりたいって......)


 そう言ったら、父は喜んでくれるだろうか? 悲しい顔をさせずに済むだろうか?


 懸命に、口を開こうとする。だが、肝心の声が出なかった。どれだけ頑張っても、想いが言葉になることはなかった。

 悔しくて悔しくて――涙が目尻から零れる。


 (ごめ、んなさい......お父、さ......ごめんな、さ......)


 気持ちを伝えることも叶わないまま――無情にも、彼女の意識は闇の底へと落ちていった。







 (..................ん)


 意識が浮かび上がる。視界が戻ってくる。


 (..................?)


 何が起きたのか。自分はどうなったのか。頭が上手く働かない。目覚めたばかりのせいもあるかも知れない。


 (あ、れ......? 苦しくない......?)


 体を苛んでいたはずの病魔が、すっかり消え去っている。


 (生きてるの? 私?)


 それともここが、いわゆる『あの世』という場所なのだろうか?

 ただ自分が今、椅子か何かに座っている――それだけは分かる。

 ぼやけていた周囲の様子がはっきりしてくると、


 (あ、ここ......お父さんの、仕事場?)


 父の工房らしいと判明し、『あの世』の線はなくなる。

 ベッドにいたはずの自分が、なぜ工房にいるのかは分からないが――。


 (......? 誰か、いる?)


 そこでようやく、自分以外の存在に気付いた。ちょうど向かい合う位置に、腰かけている。


 (お父さん......?)


 そこにいたのは、父だった。だが様子が普通ではない。全身は脱力し、肌は血の気を失い、こちらを向く瞳は虚ろだ。


 彼女の父は、事切れていた。


 (え......? お父さん? 何で?)


 理解できない。頭が真っ白になる。


 (何で? 何でお父さんが? え? 嘘だよね?)


 声が出せない。体も動かせない。

 夢だ。夢に違いない。これが現実なわけがない。


 (嘘だよ、こんな......! 違うよっ......! 違うっ!)

 

 父が死んでいるなど、信じたくはなかった。

 だがどれだけ否定しても、父の亡骸は変わらず目の前にある。逃れることはできなかった。


 (嫌だっ......!! 嫌だよぉっ.....!! お父さん......!! お父さんっ!!)


 感情のまま泣き叫ぶことも叶わない。

 心がいくら血を流そうと、一滴の涙すら流せない。


 何も見たくない。ここにいたくない。


 そしてそれは、望み通りになった。

 これで第二章完結(全五章予定)です。


 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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