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ABCD殺人事件  作者: 真山砂糖
16/36

16 続聞き込み

ラボで聞き込みします。

「お邪魔しまーす」

 京子が扉を開けると、デービス教授が怒鳴り声を上げていた。ラボの中はピーンと緊張の糸が張り巡らされているような感じだった。しかし京子は空気を読まずにずんずんと部屋の中へ入っていった。デービス教授は私たちを見て、怒鳴るのをやめた。

「お話を聞かせてもらってもいいですかー」

 大竹ただお助手も院生の飯島ときこも、デービス教授の叱責に萎縮していたが、ただ一人、シャ准教授だけが怒りの眼差しでデービス教授を見ていた。

「アームストロングさんも、ベーベルさんもお亡くなりになって大変な中、すみません。ご協力をお願いします」

「あのー、ベーベルさんが自分の血で地面にBと書いた後、その続きに何かを書こうとしたかもしれないんですー。何を書こうとしてたのか、わかりませんかー」

「Beaと、書かれていたと推測できます。aの続きにまだ何かが書かれているように見えたのですが、にじんでいて判読が難しい状態でした。Beaという言葉に、何か心当たりはありませんか?」

「Bea? それは、英語にはない、ワードだ」

 デービス教授が答えた。冷蔵庫からタンブラーを出してアイスコーヒーをグラスに注ぎながら。

「千葉ラボのシュルツさんに聞くのが一番じゃないですか?」

 さっきまでの怒りの表情が消えたシャ准教授が、穏やかに言った。

「シュルツさんは、まだラボに来ていないんです」

「え? 増田くんと共同研究してて、今日は大事な実験があるとか聞いてたけど、まだ来てないんですか」

「はい、そうみたいです」

 シャ准教授は眉を狭めて驚いていた。

「飯島さーん、Beaって、何かわかりませんかー?」

「んー、いえ、私はドイツ語を知らないので、何とも言えません」

「そうですかー」

「僕もドイツ語は知らないので、それについては全くわかりません。すみません」

 大竹助手が申し訳無さそうに言った

「ベーベルさんと、千葉ラボの真中めぐみさんは、仲良かったんでしょうか?」

「私たちは、同じ研究科にいる院生同士、学会とかで頻繁に顔を合わせるので、仲が良いといえば、そうだと思います」

 飯島さんが言った。

「例えば、その二人が恋人同士だったとか……」

 私は語尾を濁して話した。

「ラボが別々だから、付き合ってたとしても、わかりにくいですよね」

 シャ准教授が言った。

「いや、真中さんは、ベーベルさんとは付き合ってなかったです」

 大竹助手はきっぱりと言った。

「でもー、学外で何をしているかなんて、なかなかわからないですよねー」

「そうでしょうけど、僕は、その二人は付き合ってなかったと思います」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

 私が言うとすぐに、飯島さんが席を立って嗚咽しながら小走りで部屋から出て行った。

「無理もないわねー、元彼が亡くなってすぐにー、そんな話を側でされたんじゃねー」

 京子は横目で私を見て言った。仕方がない面もあると思ったが、私は少し反省した。

「すでにご存知だと思いますが、アルファベット順で殺人事件が起きているということが、新聞やテレビで報道されています。そのことについて、どう思われますか?」

「考えすぎだ、な」

 デービス教授がグラスに口を近づけながら言った。

「まだ殺人だと決まってないんですよね。マスコミが視聴率稼ぎで言ってるだけじゃないですか?」

 大竹助手が言った。

「まるで小説ですね。子供の時に読んだきりであんまり覚えてないですけど、何でしたか、あの有名な小説。まあ、それはいいとして。ジャックは、派手な目立つ格好が好きでしたから、たまたまAとプリントされたジャケットを着ていただけですよ。ベーベルのことはわかりませんけどね」

 シャ准教授が言った。

 しばらく話し込んでから、私たちは千葉ラボへ行った。


「すみませーん。シュルツさん来てますかー」

 ラボの中を見渡しても、シュルツさんの姿は見えなかった。

「ああ、フラウ・シュルツはまだ来てないです」

 千葉教授が言った。増田助手は、切羽詰まった感じでとても話しかけられるような雰囲気ではなかった。真中さんは保管庫からトレーのようなものを出して、テーブルの上で小さなガラス瓶を分類する作業をしていた。

 時刻は6時を回っていた。私たちはシュルツさんに会うのをあきらめて、切り上げることにした。


コーヒー好きのアカハラ教授ですね。

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