第29話 異変2
俺は不自然にソワソワしながら、駅の入り口に突っ立っていた。
駅を利用する人々が、落ち着きのない俺を無遠慮に見つめる。
昨夜、自分の姿が異世界での仮の姿であるはずのジャック・サイコ・ドラクルと同じものになっている事に気付いて、インターネットを使い色々と調べたので一睡も出来なかった。
アナザーワールドオンラインのホームページを見て、改めて異世界の情報を探ったが、青薔薇の盾のクランメンバーから教わった以上の情報は得られなかった。
現実世界での姿も変わるという表記も特に確認出来なかったが…。
もしプレイヤー達の現実世界での姿が変わってしまっていた場合。エルフや獣人等の亜人種でキャラクタークリエイトを行った者や、自称天使のアダム等は特に、人に見られると、とんでも無い事になりそうだが…。
掲示板等で俺と同じような状況の人々がいないかについても探し回ったが、そのような話を見つける事も出来なかった。そればかりか、有名なSNSでもアナザーワールドオンラインの話題は上がっておらず、掲示板も立ってはいなかった。新たに掲示板を立てようと試したが、それも叶わなかった。
全然関係のないゲームの掲示板に書き込みをしてみても、何故かアナザーワールドオンラインに関する内容に関しては全て弾かれた。
普通この様な大型ゲームでは攻略サイト等も立ちそうな物だが、ホームページ以外にはアナザーワールドオンラインの痕跡を見つける事は出来なかったのだ。
これが情報統制というやつか? 神々が用意したゲームというのならば、それくらいはありそうだ。
ホテルをチェックアウトする際、チェックインの時と姿が変わっている事で何か言われるかと思ったのだが、特にお咎めは無かった。
それどころか、フロント係の人に呼ばれた名前に違和感を感じていた。
「青原ジャック様。ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
勿論俺はそんな名前ではない。
初めはフロント係の人の間違いだと思い、誰だよそれ。と聞き流していたが、最初から最後までその名を呼ばれた事で異変に気付いた。
親から預かっていた保険証を確認すると、そこにも青原ジャックと記載されている。
え? 俺ってこんなハーフみたいな名前じゃなかったよね? 苗字も違っていると思うんだけど、何故か元々の名前が思い出せない。
約束の時間があったので取り敢えず駅に来てみたが、やっぱり納得がいかない。
母さんが待ち合わせの相手に俺の写真を渡してあると言っていたが、姿も変わってしまっているし、このままでは相手の方に出会えない可能性が高い。
俺は焦って母さんに電話をかける事にした。
「もしもし?」
1コールと待たずに母さんの声が聞こえ、俺は慌てて言葉を返す。
「も、もしもし?俺だよ俺。俺だけど。」
「……オレオレ詐欺?」
母さんの言葉に、俺は答えを返す事が出来ない。何故なら自分の名前を忘れてしまっているのだ。
これは違うと断定出来るし、違和感しかない名前を名乗る事も出来ない。
名乗った所で、いや…誰だよ。となりかねない。
俺が返答に困っていると、電話の向こうで母さんが噴き出した。
「馬鹿ね。冗談よ。画面に名前も表示されているし、まだそんなのに引っかかる年齢じゃないわ。どうしたの?」
おお!着信画面には俺の名前が出るのだったな!良かった!
「一応確認なんだけど、俺の名前何て登録してあるか教えてくれない?」
恐る恐る俺が尋ねると、母さんは暫く無言になってしまう。
あ…。これじゃあ丸っきりオレオレ詐欺の手口じゃないか。焦って凡ミスをしてしまった。
「ちょっと待って…。やっぱり登録されている番号だよね? 一体何? なんのイタズラ? 貴方が名乗りなさい」
母さんは困惑した様子であったが、最後には俺を問い詰めるような質問を返す。
つ…詰んだ?
青原ジャックと名乗って良いのか?
全く聞き覚えのないハーフ芸人みたいな名前を聞いて、それを冗談だと取ってくれるのか?それとも電話を切られる?
どうしよう…どうするべきか…。
迷った末、沈黙に耐えられなくなった俺は声を出す。
「ジャック…青原ジャックです…。なんちゃって」
何がなんちゃってなのか、電話の向こうにいる母さんに伝わる訳もないのに、俺はベロを出しておどけてみる。
「なによ。やっぱりジャックじゃない。意味の解らないイタズラなんかしないでよ」
「ふぇ?」
母さんの予想外の答えに、俺は素っ頓狂な声を出す。
「大丈夫? 頭でも打ったの?」
俺は一度スマホから耳を離して、相手が誰なのかを確認する。
番号は間違えていない。スマホが壊れた時の為に暗記している母さんの番号と全く同じだ。
うん。相手は母さん。これは間違いない。俺が相手を間違えている可能性も頭をよぎったが、声からして母さん以外の何者でもない。
「おーい。もしもーし。」
スマホから漏れる母さんの声に気付き、俺は慌てて電話に戻る。
「いや…大丈夫だよ?」
大丈夫じゃないけど、それ以外に言葉は出ない。
「本当に大丈夫なの? それより…貴方から電話が来る少し前に桜ちゃんから電話があったわよ。もうすぐ待ち合わせの駅に着くんだって。貴方遅刻なんかしていないでしょうね?」
「いや…駅前にいるよ。桜って言うんだ。相手の人って女の人だったんだね」
混乱したままであるが、俺は調子を合わせて話を続ける。
「あ、楽しみ奪っちゃってごめんね? 桜ちゃんにも口止めされていたんだけど…言っちゃった」
相手が母さんの幼馴染である事は聞いていたが、あまり多くを教えてくれなかったのは、相手に口止めされていた為だったのか。
「あ、一つ確認しておきたいんだけど…俺ちょっと何か知らないんだけど髪の毛が染まっちゃっててさ。先に送ってある写真を元にすると俺を特定出来ない可能性が出てきたんだけど。桜さんって人の番号とか教えてくれない?」
本当は髪の色だけじゃなくて瞳の色から顔の形から身長から、何もかも違って丸っきり別人なんだけどな。そんな事母さんに言えるわけがない。
「貴方髪染めたの? それ校則違反じゃないの? 都会に出るからって背伸びしちゃって…元に戻しなさいよ? あとそれに、それぐらいで気付かない訳ないじゃない」
「いや、そうなんだけど…。一応念の為っていうか」
「あ、ごめん。お父さんから着信入った。それじゃあ後でまた電話するから。桜ちゃんによろしくね」
「ちょちょちょちょっと待って!」
俺の静止を待たず、母さんは電話を切ってしまう。
どうしよう?
色々と意味がわからないんだけど、俺の名前は青原ジャック。これは確定?
なんで現実世界での名前も変わっているの? よく考えたら青原って、まんま青薔薇じゃん。ジャック・ブルーローズじゃん。なんて安易な…。
相手は神様だもんな。姿を変えられるくらいだから、戸籍や名前を変えるのなんてお茶の子さいさいってか?
俺が一人で考えを巡らせていると、不意に俺の目の前に人影が現れたのに気が付いた。
腰まで届く長い黒髪。大きなサングラスをかけているが物凄い美人のお姉さんだとわかる。
スラっとした体形はモデルの様で、高いヒールを履いているが、それを抜きにしても足が長く身長も高いという事がわかる。
その美人のお姉さんに見とれていると、お姉さんは俺の顔と手にした写真とを見比べて笑顔で頷いた。
「うん。貴方がジャック君ね。流石みすず姉ちゃんの息子! カッコいいじゃない」
美人のお姉さんの言葉に固まってしまう。みすずは俺の母さんの名前だ。じゃあこの人が母さんの幼馴染の桜さん? 母さんにこんな美人の知り合いがいたの? っていうか年離れすぎじゃない? この人どう見ても成人したてくらいでしょ?
っていうか、え? ちょっと待って。
「貴女が母さんの幼馴染の桜さんですか? その写真で良く俺がわかりましたね?」
恐る恐る尋ねると、お姉さんは少し首をかしげて、サングラスを外した。
うわっ!サングラスを外すと更に美人!
魅力的な笑顔に充てられて立ち眩みを覚える。
「あ、ごめんなさい。私は長谷川桜。みすず姉ちゃんの幼馴染で今年20歳の大学生よ。控え目そうなのに実は自分に自信あり? 確かに写真よりもハンサムね」
桜さんがウインクをしながら目の前に突き出した写真を見る。それは俺が上京する前に撮った家族写真だった。
「ふぁっ!?」
その写真を見てまた驚愕する。家族写真を撮る時に俺が立っていた場所。その場所で家族に囲まれて笑顔を浮かべる俺のその姿は、ジャック・サイコ・ドラクルと全く同じ姿であった。
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