月の女神
ジェスたちが宇宙港で火星の工作員とみられる人たちと戦っていた同時刻・・・。
月の衛星軌道上で鋭い形状をした白銀の戦艦が漂っていた。
月面方面防衛艦隊、連合国家宇宙軍第二艦隊旗艦機動戦艦スクイード船橋で立体表示された広域探索映像を一人の男が眺めていた。
「火星の艦隊はその数五万・・・それに対し第二艦隊は二万五千か・・・」
キャプテンズ・シートの浮遊座席に腰かけて足を組みながらデビッドは独り言ちた。
「しかし、わざわざ相対超光速度航法で月衛星軌道まで奇襲をかけてきたのに攻撃を仕掛けてこないのはどういうことだ・・・?」
火星の艦隊はわざわざ五万もの軍勢を連合国家のお膝元である月まで送り込んできたのだ。
それに戦力的にも倍である。わざわざ様子見のようなことをしている理由がデビッドには解らなかった。
相手が突如月に物質化してきたにも関わらず何も行動を起こさない今、撃退のチャンスはあるはずだがこちらの砲撃許可も下りない状態である。
目の前の敵がいるにも関わらず手出しができない状態はデビッドにとってじれったい状況であった。
一体連合宇宙局は何を考えているのか・・・こちらからそれは解りえないことである。
しかしながら、連合宇宙局からの連絡ではジェスが指揮する新設艦隊がこちらへ援護の為に向かっているらしい。
ひとまずはそれを待ちつつも、デビッドは久々に親友と同じ戦場で戦うことに不安もありながら期待を隠せなかった。
そんなことを思っていたところに戦況が動き始めた。
「艦長!敵艦隊が動き出しました!まもなくこちらの射程に入ります!」
敵艦隊の詳細がない以上、相手の有効射程が分からないが艦隊を進めるということは本格的に戦いが始まるということだ。
「艦隊通信を開け!戦いが始まるぞ!全艦前進原速!」
「連合宇宙局より砲撃許可が降りました!」
「やっとか! よし! 射程に入り次第砲撃を開始する!」
第二艦隊の主構成艦である量産型汎用巡洋艦シリウスⅢは近代艦隊戦に特化した新世代の巡洋艦であり、搭載している荷電粒子砲の有効射程は長い。
上手くいけば先制攻撃により有利な戦況へ持っていけるはずである。
「機動戦艦スクイード、EBシールド前方集中展開! 機関三十、前進原速! 主砲用意!」
デビッドはそれぞれ機関士と砲撃手に命令する。
「機動戦艦スクイード、前進原速!」
「エネルギーライン、主砲メインコンデンサに接続! 主砲結晶体レーザー展開開始!」
「収束器展開開始! 結晶体レンズ焦点調整! ラジエーターユニット始動、砲身冷却開始!」
ヴヴヴヴヴヴヴヴ!
「コンデンサ蓄電三十パーセント!」
主砲への電力供給が始まり、高出力レーザーを照射するためにコンデンサに蓄電を開始する。
すさまじい電力を蓄電するコンデンサからの音が船橋まで響き渡る。
「艦長、敵艦からの砲撃兆候を確認!来ます!」
ビシュゥゥゥゥ!
直後膨大な数の光条が襲ってくる。
敵の数はおよそ五万。その艦隊から砲撃される数はすさまじいものである。
「全艦引き続きEBシールド前方集中展開! 砲撃に備えよ! 本艦は主砲第一射砲撃後に機動兵器を展開する」
デビッドが大きく手を振り伸ばしながら命令する。
「了解!SA全機雷装にて発艦準備!」
「艦長、敵艦隊シリウスⅢの有効射程に入りました」
「全艦に通達、主砲による砲撃を開始せよ。各艦機動兵器を展開せよ!」
直後、自軍からも光条が伸びる。
しかし、両軍とも正対している為EBシールドと重力式跳弾装甲に護られて有効打とはならない。
「艦長、結晶体レーザーコンデンサ蓄電完了しました!」
「よし、主砲結晶体レーザー撃てー!」
「ライフリングユニット展開、結晶体レーザー照射!」
砲撃手が座席の銃型操作桿の引き金を引くと主砲が発射される。
それは見た目こそ荷電粒子砲ほど太い光条ではないが、光速で敵艦隊へと向かう。
結晶体レーザーの照射温度はすさまじく、軍用艦のEBシールドも重力式跳弾装甲もお構いなしに貫通する。
そのままデビッドは船体を回頭させることにより結晶体レーザーを横薙ぎに照射する。
ズドドドドドドドド!
レーザーが横薙ぎに照射されるとそれに合わせて次々と敵艦が爆散していく。
ズドドドドドドドド!
扇形に広がっていく光条が過ぎ去るごとに爆発の連なりが続いていく。
「結晶体レーザー砲身温度上昇! 照射限界まであと五秒!」
機動戦艦スクイードの結晶体レーザーはあまりにも高い照射温度により砲身が赤くなっていく。
砲身自体が溶けることがなく、次射に耐えうる状態に留まる照射限界まで数秒。
その間に大量の太陽系統一帝国艦船を爆散・蒸発させていく。
「限界到達! 照射停止! 冷却継続! 次射可能温度まで冷却完了するまでおよそ四千秒です」
十数秒の結晶体レーザー照射により千隻以上の火星側艦船を撃沈したことになる。
結晶体レーザーは現代において人類最強の兵器であるが、あまりにも高温なレーザーを照射する為冷却しながら砲撃しても砲身そのものが温度上昇に耐えられない。
消費電力も高く、一発撃つごとのサイクルタイムが非常に長く連射ができないのが欠点である。
砲身ユニットも大型で連射ができない為、別に副砲を搭載しないといけない上、グラビディウム結晶体レンズを含めた設備コストも高い為に連合国家側の旗艦をメインに運用されている兵器である。
機動戦艦スクイードは砲撃を副砲の荷電粒子砲に切り替えて砲撃を再開した。
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機動戦艦シルフィードの船橋では月衛星軌道上で会戦が始まった知らせを聞いて慌ただしい空気が流れていた。
「セレナ、艦隊の集結はどうなっている」
「はい、先刻シルバーフォースの集結が完了しました。いつでも行けます」
「わかった。本艦隊が敵艦隊に近づくまでどのくらいかかる」
「艦隊の最大戦速で地球の公転軌道から月の裏側を経由する航路を取ります。 地球と月の重力カタパルトを使えば射程到達まで15時間です」
「ち、それでも15時間が・・・。 旗艦スクイードに繋いでくれ!」
「了解しました」
すぐさまセレナが通信回線を開くと、画面の向こうにデビッドが現れた。
「こちら第二艦隊司令官デビッドだ・・・久しぶりだな、ジェス」
「ああ、久しぶりだな。 できればこんな戦時でなければよかったが・・・そちらはどうだ」
「・・・正直厳しいところだ。 やはり倍の相手に苦戦している。 こちらに地の利があるから何とか持ち堪えている状況だ」
「シルバーフォースは急ぎそちらに援護へ向かう。 いま弾き出した艦隊航路によれば十五時間はかかるが、うまくいけば月の裏を迂回して相手の背後を取れるだろう」
「たしかに十五時間は持ち堪えるには厳しいが・・それでもその時間でこれるのは流石だな」
「すべてを機動戦艦で構成した艦隊だから速力はあるからな」
「デビッド、必ず援護に向かう。戦勝祝いに高価なワインも買ったからな・・必ず持ち堪えてくれ」
「・・大丈夫だジェス。おれは・・・月の女神に愛されているからな」
そう言いながらデビッドは不敵な笑みを浮かべた。
「昔みたいに協力して、必ず勝利しよう。そして、セレナと三人で月と地球を眺めながら呑み交わそう」
ジェスとデビッドは士官学校時代のシミュレーターや実地訓練、そして軍の演習や実戦でも二人で協力しながら勝ち続けてきた。
そんな二人の間には揺るぎない絶対的な信頼があった。
今までと同じ。協力して敵を討つ。
圧倒的な不利であるがお互いの信頼があるからこそ、二人の脳裏には勝利の未来しか映っていなかった。
「ああ、楽しみだ。月の女神の加護があるように祈るよ」
「こちらこそ、デビッド・・・御武運を」
「ああ、ありがとう」
その台詞を最後に通信は閉じられた。
「・・・これよりシルバーフォースは第二艦隊が交戦中の宙尉域に合流する。全艦最大戦速!」
そして、シルバーフォースは月へ向かって動き出した・・・。
〜設定資料〜
第二艦隊旗艦 機動戦艦スクイード
連合国家宇宙軍月面方面防衛艦隊である第二艦隊の旗艦。高性能軍用艦船のほとんどをK.Cインダストリーが建造している中、本艦は軍需産業シェア二番目である篠崎重工が手掛けている。
篠崎重工の粋を集めた高次元の性能と汎用性を持ち、機動戦艦スクイードと共通設計の姉妹艦があと二隻存在し、スクイードは一番艦にあたる。
特に機動戦艦の中では小型でありながら高出力の機関を持ち、速力は高い。
スペック
連合国家宇宙軍 第二艦隊旗艦スクイード級機動戦艦『スクイード』
型式SN-SCMB01 スクイードシリーズ一番艦
全長2920m
全高610m
全幅730m
満載排水量 7,480Mt
乗員 370名
初期起動機関 単発式対消滅機関
巡航機関 双発式グラビディウム機関
跳躍航法機関 アンチクァンタム亜空間機関
巡航機関定格出力 1,900,000Gw
電源 イ型液化グラビディウム電池2基
装甲 ハイチタニウム跳弾装甲+EBバリアシールド
兵装
主砲 レグテックス光学機器製対艦結晶体レーザー
副砲 篠崎重工製荷電粒子砲2門
対機動兵器用短距離迎撃レーザー70門




