陽光の魔女・新月の魔女
2日目はこのミストを試すために15層へ乗り込んでみた。
亡霊がフロアに4匹。ナイト2、ウォーリア1、アーチャー1…。
まず、ミストを展開するとフロアに霧が充満する。
暗闇、静寂、アシッドの3種付与だ。この付与する効果によって消費する魔力が変化するようだが、今の俺なら大した消費量ではない。
霧が充満するのを待ってから攻める。このミストの効果はあまりに耐性がある対象には効果がなかった。
例えば有紀、エミリーに試しに使用しても「ただの霧」だったし、そもそも霧の濃度は有紀たちに比べればずっと薄いので使いどころも難しい気がする。
ただ今回のゴースト達にはちゃんと効果があった。沈黙と静寂で俺は敵に気づかれることもなく接近し烈炎の剣を叩き込むと、酸の腐食と昨日より火力の上がったアーツで一発で倒すことに成功した。
「うは、これはすげえ…!」
ちょっと興奮しながら残りも倒す。
こういった待ち受けタイプのモンスターならこの作戦は非常に良いかもしれない。
「使い勝手良さそうだね、修司。」
「ああ、これは奇襲なら相当強いな。」
ただ、デメリットも存在する。効果がミストに付与されるということは「効果が現れるまで時間がかかる」とも言える。ブラインドは接近しつつ使用することで咄嗟の視野を奪い、生じた隙を突いて攻撃すると言うことが出来たわけだが、それが出来なくなったわけだ。
そのため、正面から挑まれるとミストが展開されて効果が現れるまでに魔術に対する抵抗を高められてしまうことがある。人間だって「何かある」という前提で動けば対処しやすいし、そんな感じだろう。
もっとも、正面から今まで通りの戦い方で良いわけだし、使い所は選ぶも使い勝手はやはり良いと思う。
2日目はそんな感じで試し狩りしながらドロップを拾って時間を潰した。
夜には大樹と新芽の魔女からも昨日のやりすぎを謝られたが、その後の話をすると非常に驚き興味を持ったようで、魔女達が俺の持つ体質(多分俺の世界の人間の能力だけど)について議論で盛り上がっていた。俺以外ね。
俺以外(大事なこと)が盛り上がるもんだから、有紀に一言断って自室へ戻る。
昨日は余裕なかったから隣に女が寝てても何とも思わなかったが今日は違う。いや、まあ既に同室で同じベッドで寝たことはあるんだけども…。
「なんか、前よりも抑えが効かないんだよな…。」
以前よりも「触れていたい」という気持ちが出てきてる気がする。エロい意味ではなく。
まあそれ自体は悪い話ではないんだろうけどね。有紀もそこまで嫌がるわけじゃないのは、前にうっかり頭撫でたときに分かってはいるんだけど。
それでもあれは「咄嗟の出来事」だったわけで、それが常態化したら有紀としては「流石にしつこくない?」ってなっちゃうよな。
そんなわけで俺が今大事なのは無闇に触れることを避けることだと思っている。引き金を引かないようにしないとね。
今日こそ俺はソファーで寝る。
ちなみに2日目にも魔女は増えてたけど割愛する。覚えきれなかったわけではない、決して。
3日目。
「おお、久しぶり。」
「お久しぶりです、龍眼の魔女。」
2人の魔女が有紀に挨拶すると、有紀はバツが悪そうな顔してる。
ああ、多分この2人が有紀に色々教えた先輩2人ね。
陽光の魔女。完全に小学生の外見だけど、感情が表に出てないからどんな感情なのか俺からは読めない。
「あら、陽光は貴女との再会に喜びを隠しきれてませんね。」
もう一人の魔女、この人は新月の魔女だ。
そして何と耳がモフモフだ!ネコミミだ!!夢に見たケモ耳だけど飛びつくわけには行かない。有紀にぶん殴られそうだ。いや、他人に飛びつく時点でダメなんだけども。
「お2人とも元気そうで…。」
「良かった。龍眼、貴女が礼節を持つようになって。」
「そうですね、前の魔女会でまさか大暴れするとは誰も…。」
「いや、ボクもあれは反省してます!」
顔真っ赤にして有紀は返事をする。
あれ?前は記憶なかったんじゃなかったっけ?だんだん戻ってきてるのかな、記憶。
そして俺も自己紹介に与る。
「ヴィルヘルムの人間は王都で大量に召喚されたみたいだね。歴史を紐解いてもこの規模は初めて。」
陽光の魔女は歴史書が好きらしくて過去の事例と今回の事例の差を説明する。
まず魔女の出現の周期が明らかに短い、というか乱れてる点も彼女にとっては興味深かったようだ。これも過去にそんな事例は存在していない。
「二つの『特殊な事例』を踏まえると…。」
「まあまあ、ここでその話は良いじゃないですか。ほら、次元の魔女に挨拶に行きましょう。」
話が長くなると判断した新月が陽光の背中を押して移動を促す。
「ではまたお会いしましょう。」
2人はこの場から離れていったが、俺は陽光の魔女はちゃんと尻尾がついてるのを確認し小さくガッツポーズをした。
これを求めてたんだよ、これを!
…有紀にめっちゃ軽蔑のまなざしを向けられた。
「キミは本当にこっそり見ることをしないね。」
「…ごめん。」
まあ有紀のエロいところはこっそり見るようにしてるからバレてませんがね!
有紀の記憶は徐々に回復してるらしい。
あの2人には魔女時代こってり絞られたから元々苦手意識持ってたようだけども。地形破壊の記憶も戻ってきている。魔女会でリベンジを挑み、環境破壊しまくった挙句負けたんだとか。
ついでにその後当時のブシ市の市長から説教もされてたり…。
うーん、相当じゃじゃ馬娘だったのでは?
「右手が疼くお年頃だったんだよ。」
まあ、中二病はね。仕方ないね、そういう時期はあるもんだ。
「でも環境破壊は良くなかったな。」
「うん、反省してます…。」