vs『腐朽の妖樹』2
20分が経過した。
「ハア…ハア…」
流石に息が切れてきた。魔力的にはまだマジックポーションがあるし、なんとかなる。
ただ、何箇所か切りつけ、フレイムをぶつけているのに倒れる気がしない。
そりゃそうだ、直径3メートルぐらいありそうなのに、2センチ程度の傷じゃ炎も中心までいけないよな。
また根が俺の体をグルっと巻こうとしてくるのでフレイムで牽制する。
大した成果が出ていない俺の攻撃でも妖樹は俺を敵と認定しているのか、先ほどから根が3本になっている。
一本フレイムで牽制し、そのまま幹を狙いに駆け出すと、今度は左右から鞭のように根が襲いかかる。
だが速さは大ウサギで目が追いつくようになっているし、鞭のような動きにしてもウルフのほうがより流動的な動きだったので曲線の動きも対応可能だ。
右から来る根はしゃがんで避け、左からの根はアヴォイドを用いて前進する形で回避する。
これで攻撃チャンス!
狙いは今も煙を上げている…俺が先ほど切った場所だ。
炭化している場を狙えば!とパワースラッシュと叩き込むと予想通りの結果だった。
「よし、さっきよりも切れた!」
先ほどは2センチぐらいで止まった刃だが、焼かれて脆くなった部分ならガッツリ切れる。
今度は10センチまで刃がめり込む。そして勿論…
(フレイム!)
より深い位置からの炎は妖樹にとってたまらなかったのだろう。
「オオォォォォォ!」と叫び声らしきものをあげながらまた葉を落としてくるが、その数が今までよりも増えている。
先ほどからの繰り返しなのでこうなったら後方に逃げるしかない。
バックラーだけだとガードしきれないのでアヴォイドを用いて射程外まで逃げる。
これなら被弾なしで逃げられる。
後方に下がった瞬間、左から根が飛んできてた。
魔法のアヴォイドは効果時間は永続で効果中は魔力消費する。ところが、発動したら再度魔法を使用しないといけない。
要するに今俺はアヴォイドが使用できないわけだ。この左からの根は自力対処しなきゃいけないということになるが、姿勢も良くない。まだ、空中だからね。
「リリース、ウォール!」
ウォールを出してやり過ごそうと…だが、ダメだった。
バキンという見えない壁を破壊するも、根は更に進んでくるので俺はバックラーで受ける。
勿論逸らせるような質量じゃないので俺のほうが吹き飛ばされ、転がるハメになる。
ただそれだけなのに左腕が痺れ、持ち上がらなくなる。
ウォールは無効化させる魔術だけど高威力のものは1枚でガードしきれないと有紀に言われたことがある。
「そういう時は何重にも障壁を発生させる。勿論一枚でも威力を減らすぐらいは出来るけどね。」
そうか、こういうケースの話だったのか。
俺は慌ててポーションとマジックポーションを飲む。
幸い妖樹に仕掛けたフレイムは先ほどよりも激しく煙を出しているので内部ではまだ焼けているんだろう。
ポーションは失った体力を回復してくれるが、俺の痺れた左腕は回復してくれない。
次直撃食らうとマジでやばいわけだ。
俺は別の作戦を考えた。
とりあえず厄介な根をどうにか牽制したい。
「切って燃やすか…。」
次に来た根の攻撃をかわし、直後にパワースラッシュで切りつけフレイムをぶつける。
幹があれだけ燃えたんだしいけるだろう!という予想は正解し、幹よりは細い根(それでも40センチぐらいあるんだけど)は激しい煙をあげて、根は地面に潜っていく。
「よし!」
根を牽制するって意味ではこれは正解だな。本体へのダメージは期待できないけど、俺が根にも注意払う必要がなくなるし、アリだな!
腕の痺れがある分、根を封じておきたいし、咄嗟に考えた作戦だけど功をなして良かった。
俺の立つ位置からだと襲ってくる根は3本なので同じように残り2本を攻撃すれば、根からの攻撃は止まる。
あくまで一時的に、だと思うが…。
ポーションは体力の回復を行うと同時に、体へ酸素を行き渡らせる効果でもあるのか、息切れも回復するので、腕の痺れ以外は仕切りなおしの状態だ。
「いくぞ!」
誰かに言うわけではないけど、俺はそう叫ぶ。気合入れるために。
ダッシュするとやはり根2本が邪魔をしてくるが、攻略はさっきと同じだ。
右の根を避ける。そして左からの根をアヴォイドで回避する。
ただ今度は回避方向は右の根のほうだ。振り終わらせた根に張り付き、切って燃やす。
妖樹は根を震わせて地面に潜るが煙は消えてない。土の中だけどちゃんと燃えてるようだ。
残りの根は1本、更に幹に近づくと今度は左からの根は大きく上から振り下ろす形で攻撃してくる。
これは避けるのは容易い。ただ土埃が厄介なんだけどね。
ズン!と言う衝撃と共に埃が発生するのを、俺はブラストを用いて埃を払う。
ここまで来て視野に影響あるのはよろしくない。
根は大きく振り下ろした後に即時攻撃は出来ないし、枝のほうも葉を舞わすことは出来てもこれは反撃でしか使用してこないようだ。
既に目の前に幹があっても向こうからは何のアクションもない。
先ほどの攻撃場所と同じところを切りつけると、3分1ぐらいまでは傷を負わすことに成功した。
(ここに更にフレイム!)
木の中で炎を出されて妖樹はまた大きく悲鳴を上げる。
葉が舞うはずなので回避する…ところで俺の予想外の事が起きた。ダンっと地面を踏んで飛んだはずが、飛べずにその場にこける。
「は?」
俺の右足を見ると、小さな根が掴んでいたのだ。
「まじか!」
フレイムで燃やし、立ち上がる。その時には先ほどよりも更に多い数の葉が襲い掛かってきていた。
アヴォイドは1回だけ後方に大きく動き、避ける。
本来ならこれで射程外にいけるんだけど今回は違った。
更に舞った葉はぐるぐると一箇所に集まり…
ドシュっと一気に俺に飛んでくる。
「なんだって!?」
自分の予想していた射程以上に葉の塊が飛んできたのでまともに直撃する。
バックラーで咄嗟にガードできたけど、運がよかった。が、衝撃で左腕に激痛が走る。
ああ…この痛みは小さい頃高台から飛び降りて骨折したときの痛みだわ。
ポーションは当然こういう怪我の回復も早めるけど骨折を瞬時に直すなんていうのはない。いや最上級のものならあるらしいけど、少なくとも俺には持ってない。
「ぐああああ…!」
吹き飛んで落ちた先、上手く着地は出来たが今度は土の中で無事に炎を消した根が復活しており、俺を横薙ぎに攻撃してくる。
(リリース、ウォール、ウォール!)
キープでストックしておいたウォール3つのうち、既に1つ使用済みだ。残りのウォール2枚を展開し、更に俺自身のハードスキンを全身意識して効果100%の状態にしておく。
バキバキと、2枚の障壁が破られる音がする…そして、根が俺にヒットする…。
ゴン!という音を自分の耳に捉えながら俺は吹き飛び、壁にぶつかる。
「げふ、っはあ!はあ!」
葉の塊が腕に当たってから今まで息するのを忘れていたのか呼吸が激しくなる。
吹き飛んだ先でもだえてる暇もない。こらえながらポーションを飲み干す。