プロローグ
プロローグ
俺にとってその力はとても自然なことで当たり前のことだったから、それが超能力だと気づかず「ぼくもふしぎな力が使えたらいいのになぁ」などと幼少期の頃は無邪気に願っていた。だがある時、誰かが俺に教えてくれた。「あだち君のそれ、ちょーのうりょくってやつだよ。だってわたしには見えないもん」、と。
俺は、『人が誰かを愛する時に生じる感情の発露』を視ることができる。
『愛の波動』と名付けたそれは、人の体を包む桃色のオーラとして俺の目に映った。漫画やアニメなどで恋をした少女の周りにふわっと浮かび上がるもやもやしたアレ、と言えば、人によっては理解しやすいのではないだろうか。
「よぉし、せっかくふしぎな力があるんだから、人のためにやくだてよう。アニメやマンガのヒーローみたいにぼくもなるんだ!」
そう決意した小学三年生の俺は、想いを打ち明けられず苦しんでいる人たちの相談に乗るようになった。つまり、恋愛相談である。
経験を重ね、知識が増すと、俺のアドバイスや手助けが恋の成就に繋がっていった。活動はどんどん精力的なものになり、中学を卒業する頃には『縁結びの神様』と呼ばれるようになっていた。噂を聞きつけた外資系金融会社の社員から有名タレント、はたまた大物女優まで俺のところへと集まって来るほどの人気っぷりである。
当然、芸能人の謝礼は破格で、とある大物女優に至っては郊外にある別荘の一つを譲渡してくれた。俺は弱冠十六歳・高校二年生にして豪邸を手に入れ、広々とした一階を利用して『愛の伝道師 DE☆N☆MA 恋愛相談所』を開くに至ったのだ。
いかがだろうか。順風満帆な人生と思うだろう? 自分の能力を生かして人を幸せにし、感謝され、お金も手に入る。マイホーム兼事務所も持っており、はっきり言って同年代の誰よりも豊かな人生を送っていると思う。
「軌道に乗ったら都心へ進出だ。その後、世界に飛び出して俺の名を轟かせてやろう。そして確固たる地位を得たあかつきには愛しの彼女に会いに行き、告白して、素敵な恋愛を経て妻に迎え入れ……フハハハハ! 最高な人生だ!」
などと万能感に酔いしれていた俺は、陽当たりの良い応接室の窓際で毎日のようにふんぞり返っていた。コーヒーが注がれたカップを片手に空を見上げて高らかに笑うのは、それはもう清々しいのである。
……しかし、どうやら躓きや不幸のない人生は許されないらしい。
四月も半分過ぎた頃、神様は春風の代わりにそいつを俺のもとへ寄越してきた。
「あ、あのあのっ!! あなたがどんな恋でも成就させる恋愛の神様ですか!?」
例えるならキャンプファイヤー、または引火した化学工場、それかスーパーサ〇ヤ人。
大抵の場合、『愛の波動』は優しく体を包み込むように立ち昇るものなのである。そのはずだが、頬を上気させ涙を浮かべる目の前のツインテールの少女は、天井を突き破らんばかりの巨大な波動を体から迸らせていた。
俺はあまりの激しい波動に圧倒され、呆然としてしまった。
そんなことなどお構いなしにツインテールの少女は駆け寄って来ると、
「お願いしますっ!! どうか私の恋のお手伝いをしてくださいっ!!」
思い切りよく、そして無遠慮に俺の両手を包み込むようにして持ち上げた。
「なっ、馬鹿お前!? いきなり触れるんじゃ――」
ここでもう一つ、俺の力について説明しよう。
俺の力は『愛の波動』を視るだけではなく、その波動に触れて『実体化』させることもできるのだ。
好きな人を思い浮かべた時、無意識にジタバタしたり、もんどりをうったりする経験はないだろうか? そう、愛はエネルギーを生み出すのである。
俺はこの時、油断していたために力のスイッチを切るのが間に合わず、彼女の体から轟々と噴き出す『愛の波動』に能力を伝播させてしまった。愛というエネルギーを実体化させてしまったのである。
では、どうなるかというと――
俺の豪邸は、跡形もなく爆散した。




