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冒険者編⑰

渓谷の底。


切り立った岩壁に挟まれたその場所は、昼間だというのに薄暗かった。


上を見上げれば、空は細い帯のようにしか見えない。

風が吹き抜けるたびに、岩壁の間で低く唸るような音が響く。

その奥に――


旧神殿はあった。

半ば崩れ落ち、蔦に覆われている。

だが、石造りの柱やアーチの形から、かつての威厳が感じ取れた。

アルマが立ち止まる。

大剣を肩に担ぎながら、じっと神殿を見上げた

「……雰囲気あるな…」


冗談半分の声だったが、どこか緊張が混じっている。

ノエルが小さく肩をすくめる

「魔力はわからないけど……」


周囲を見回す

「嫌な予感はする」


レオナが頷いた

「近づいて見ましょう」


三人は慎重に歩み寄る。

地面は割れた石畳。

ところどころ草が生えている。

見張りはいない、罠の気配もない。


静かすぎるほど静かだった。

入口に到着する。


レオナがしゃがみ込んだ。

指で床の紋様をなぞる

「……」


しばらく観察し言った

「これも古いものの上から新しい術式が上書きされています」


アルマが眉をひそめる

「なんだってんだ…」


ノエルも首をかしげた

「最近作られたってこと?」


レオナは小さく首を振る

「正確には……」


「古いものを利用して、別の目的に作り替えた、という感じですね」


三人は顔を見合わせ、そして神殿の中へ入った。


---


内部に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

ひんやりと冷たい。


長い年月を経た石の匂い。


広い。


とても広い。


そこは大聖堂だった。


天井は崩れている部分もあるが、それでも高い。

柱は太く、何本も並んでいる。

かつて祈りが捧げられていた場所。


今はただ、静寂だけが残っていた。

ノエルが小声で言う

「……すごいね」


アルマも思わず見上げる

「でけぇ…」


レオナが急に足を止めた

「待ってください」


声がわずかに強い

「あれを…」


祭壇の奥を指さす。


そこに二体の女神像が立っていた。

しかしその像には――


びっしりと術式が彫り込まれていた。


赤い光がまるで血管のように紋様の中を魔力が流れている。


ゆっくりと、脈動するように。

ノエルが息を呑む

「……なにこれ?」


レオナが観察する。

目を細める

「おそらく……」


「廃修道院の水晶玉の代わりに、女神像を使用している」


ノエルが目を丸くする

「なるほど」


「確かに私でもわかるくらいの魔力の揺らぎだね」


アルマが女神像を見る。

そして大剣の柄を握る

「で、どうする?」


少し顎をしゃくる

「壊す?」


レオナはすぐ答えなかった。

術式を見つめる。

慎重に、そして言う

「……壊すと何が起きるかわかりません」


「ここは戻って――」


その瞬間だった。


ドクン。


低い音。


まるで巨大な心臓の鼓動。

三人が同時に女神像を見る。


ドクン。


ドクン。


赤い光が強くなる。

アルマが舌打ちする

「ちっ!」


「お約束だな!」


ノエルとレオナもすぐ臨戦態勢に入る。


ドクン。


ドクンドクン。


鼓動が速くなり女神像の表面に――


ヒビが入る。


ミシッ


石が裂ける音ともにそこから溢れ出す。


‘‘どす黒い魔力‘‘が濁った霧のように流れ出す。


レオナの顔色が変わった

「強い!」


「撤退を――」


その瞬間、女神像の後ろの空間が


ぐしゃっ


と音を立てて歪んだ。

まるで紙を握り潰したように、空間そのものがひしゃげる。


そしてぽっかりと‘‘穴が空いた‘‘

その穴の向こうは――


暗闇。


ただの闇ではない。


底のないような、見ているだけで吸い込まれそうになる闇だった。

神殿の空気が一瞬で変わる。


冷たく重い。


そしてその穴の奥から――


‘‘何かが動いた‘‘

神殿の空気が凍りついた。

ぐしゃりと歪んだ空間の穴。


その奥から、低く、重い音が響く。


**ごん**


石の床が震える。


**ごん**


柱の埃がぱらぱらと落ちる。

アルマの背筋に、あの感覚が走った。

忘れるはずがない。


忘れようとしても、身体が覚えている

「……出やがったな……!」


声は低く、歯を食いしばっていた。

レオナが叫ぶ

「アルマ!」


アルマはすぐ答える

「わかってる!」


逃げる。

それが最善。


三人は同時に後ろへ動こうとした。

その瞬間


**バキン!!**


女神像が砕けた。

石の破片が四方に飛び散る。

中から――


【異形】


人の形をしているようで、していない。

黒く濁った魔力で出来た肉体。

歪んだ腕、裂けた口。

それは咆哮を上げながら飛び出した

「っ!」


ノエルが反応する前に。

異形の腕が伸びる。

**掴まれた**


「ノエル!」


アルマが即座に踏み込み大剣を振り抜く。


**ギィン!!**


鈍い音を発しながら異形の腕を斬り裂き、ノエルが落ちる。


レオナがすぐ引き寄せる。

アルマが怒鳴る

「くそ!!邪魔すんな!!」


だが――

その背後で


**ごん**


**ごん**


足音が近づいていた。

神殿の奥の歪んだ空間の穴から。


それが現れる。


【蹄】

石の床に叩きつけられるたび、神殿が揺れる。


【丸太のように太い腕】

筋肉は鎧のように隆起している。


人間とは比べ物にならない質量。

そして頭。


【ヤギの頭蓋】


【歪んだ角】

空洞の眼窩から――


**赤い光**


それは静かに歩いてくる。

その存在だけで空気が重くなる。


圧。


圧倒的な圧。


生物としての格。


アルマの背筋を冷たい汗が流れる

(やばい)


(やっぱりこいつだ)


(巨躯)


異形はそれに気づいた。

狙いを変える。


目標は三人ではない。

**巨躯**


咆哮を上げ黒い魔力が膨れ上がる。

そして飛びかかる。


だが巨躯は動かない。


ただ、そこに立っている。


次の瞬間**ドォン!!**


爆発。

異形の腕が――


**砕けた**


接触する前、何かに触れた瞬間、腕が粉々に爆ぜる。

異形が悲鳴を上げる。


もう一体の女神像の表面にヒビが入る。

そこから――


【光】


純粋な光の魔力。

神聖な気配。

レオナが息を呑む

「……!」


だが巨躯は一瞥する。


そして無造作に女神像の前へ歩く。


拳を振り上げ殴りつけた


**ドゴン!!**


石が砕ける。


**ドゴン!!**


**ドゴン!!**


神聖な像は――

粉々になり石片が飛び散り、光の魔力は霧散する。

何の躊躇もない。

そして――


巨躯の腕が伸びる。


異形の首を――


**鷲掴み。**


異形が暴れ黒い魔力が膨れ上がるが


**ドォォン!!**


爆発。


巨躯の腕の中で異形の身体が弾ける。

だが巨躯の腕は――


傷一つない。


まるで小さな花火が弾けただけのようだった。

そして無造作に壁へ

**ドガァン!!**


異形を投げつける。


石壁が砕け異形の身体は崩れ、黒い霧となって消えた。

神殿に静寂が戻る。


ただ巨躯だけが立っている。

赤い眼窩がゆっくりと――


【トリニティを見た】

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