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ヴァイオレットの聖女

エリザベートはロリエッタが最初に浄化を行った古い小さな家屋の前にやって来た。 


聖女レティシアの封印が解けた彼女は、自分の力で瞬間移動も出来るようになっていた。


「こんなに黒くては中が見えないわね」


隣に現れたテネーブにそう言うと、エリザベートは片腕でゆっくりと円を描いた。


すると、一瞬にして黒い瘴気は菫色に変わり消えていった。


家屋の奥の部屋の地底に、『大きな綻び』があった。


「床の下にこんなに大きな穴があったのね。この綻びの向こう側は異世界なの?」


「そうだ」


「こちらに来ようとしている魔物は、まだいるのかしら?」


「いや、奴らなら、先ほど俺が蹴散らせておいた」


「ありがとう、テネーブ。助かるわ」


エリザベートは『綻び』の前で浄化の祈りを行った。すると、目の前にあった大きな黒い穴がゆっくりと塞がっていく。


その穴が完全に塞がったあと、壊れていた床は真新しくなり、家屋も昔の風貌を取り戻した。


先ほどの浄化の祈りで、国中の『綻び』を全て塞ぐ事ができたようだ。


「ここで瘴気の浄化も終わらせてしまうわ」


エリザベートの身体がヴァイオレットの光に包まれて、ゆっくりと上昇していく。


・・・・・


先ほどまで、エリザベートと闇の精霊テネーブを映し出していた空は、夜の暗さを取り戻し、一つ、また一つと、星が輝き始めていた。


けれど人々はその場を動かない。


闇の精霊テネーブは先ほど何と言っていた?


「魔物達は異世界に戻した」


そう言っていたのでは?

それを聞いた彼女は何と言っていた?


「次は私の出番ですわ」  


そう言ってすぐに姿を消したではないか。

彼女は何をしに行ったのだろう?


人々は騒つきながらも、空から目が離せないでいた。


暫くして、遠くの空に一筋のヴァイオレットの光が上がって行くのが見えた。


(あ!花火・・)


ロリエッタはそう思った。


その光は空高く舞い上がって弾けた。

遠くの空で弾けた光はすぐに人々を包み込んだ。


辺りはヴァイオレットの柔らかい光に包まれて、やがてその光は静かに消えていった。


・・・・・


人々がその驚きから抜けきらないうちに、再び空が明るくなり、先ほどの場所にエリザベートと闇の精霊テネーブが現れた。


「この国に発生していた瘴気の浄化と『綻び』の修復が終わりましたわ」


「全て終わったのか」


アフレイドが聞き返した。


「はい、全て終わりましたわ」


彼女達がこの場所を離れたのは、ほんの数分間だった。


聖女ロリエッタが浄化しきれず、「聖女は嫌だ」と泣き叫んでいたのは、つい先ほどの事だ。


瘴気の発生していた場所は少なくなかった。レティシア様にお願いして、数日にわけて行って頂こうと思っていたのだ。


それを、ほんの数分で、いとも簡単に浄化してしまったと言うのか?


何という魔力!これが封印されていたヴァイオレットの聖女の力か!


アフレイドは我が娘エリザベートをじっと見つめた。


「お父様、驚き過ぎですわ」


そう言って、少し恥ずかしそうなエリザベートに


『自慢の父親を驚かす事が出来て、良かったではないか。エリザ』


テネーブが念話で話しかける。


『ええ、テネーブ、貴方のおかげよ』


嬉しそうに返事をするエリザベートを、闇の精霊テネーブが静かに見ていた。


・・・・・


「あの光は聖女様の光だったのか!」


「ヴァイオレットの光だったわ」


「エリザベート様は聖女だったのね」


「それも、ヴァイオレットの聖女様よ」


「ドリミア王国の大聖女様、バンザイ!」


「これで俺たちも安心して暮らせるな」


「私の魔力も戻るかも知れないわ」


つい先程まで、エリザベートとテネーブを恐れて震えていた人々が、急に彼女を褒め称えはじめる。


そして、小さな別の声も聞こえはじめた。


「あの聖女様はどうなるのかしら?」


「我が国に聖女様は2人もいらないわ」


「瘴気も浄化出来なかったそうよ」


「もういらないんじゃないの?」


「あの聖女こそ、国外に追放だ!」


人々の声は残酷にも、城の庭に出ているロリエッタにも聞こえていた。


「私は主人公なのに・・私は聖女ロリエッタなのに・・こんなのおかしいわ!ゲームにこんなシーンはなかったのに・・もう嫌!誰か助けて・・」


夜空の下で1人震えているロリエッタに、話しかける者はいなかった。

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