↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

父のかみよ

その翌日。2人は海がよく見えるテラスに立っていた。

辺りに人影はない。ひゅうひゅうと風が鳴るばかりで、いつもは遠くエメラルド色に輝く海も灰色に唸っている。

「ハロルド、ハロルド、出ておいでーー!」

アーリアが海に向かって、手をバチバチ鳴らした。

池の鯉を呼ぶんじゃないんだから、とイワンは内心思ったが、あえて口に出さず成り行きを見守る。

と、海面がぽこりと浮いて、仏頂面した男が顔を出した。

「ハロルド、パパに伝えて。アーリアは帰りません、ずっとここにいますって」

テラスの手すりから身を乗り出すアーリアに、ハロルドと呼ばれた男は盛大にため息をついてみせる。そしてキッとイワンを睨んだ。

「あなた、覚悟はできているんでしょうね。神の娘に手を出した覚悟は」

「できている。例えどんな目に合おうとも、気持ちは揺るがない」

「ふん。その決意の固さを拝見させていただきましょうか」

嘲るように言うと、アーリアに向かってホイとなにかを投げてよこした。

手のひらサイズの巻き貝だった。

「これは?」

「何かありましたら、それでお伝えします。しばしお待ちを」

そのままトプンと姿を消し、後は風が叫ぶばかり。

「大丈夫だ」

巻き貝を両手に握りしめ、硬直しているように身をすくめているアーリアを励ますように、イワンはその肩を抱いた。

「王には全てを話して理解してもらっているし、城の者たちも町の者たちも万一に備えて避難している。だから心配するな」

「イワンは怖くないの?」

「怖いさ」

肩をすくめてイワンは笑う。

「だけど、ケジメはつけないといけないだろう。どちらの方向に転がろうと」

「うん……」

やっぱりこの人を好きになってよかった、と泣きそうになった時である。

「姫様逃げて、超逃げて!!!」

ドォオオオオン!!

巻き貝からハロルドの声が聞こえたと同時に、大地を揺るがす轟音がして彼方に巨大な水柱が立った。

「パパ……!!」

ドォオオオオン、ドォオオオオン、ドォオオオオン、と水柱は怒りを爆発させるように海面を突き上げ、まっすぐこちらに向かってくる。あまりの迫力にイワンは硬直し、しかしアーリアを守るようにしっかりと抱きかかえた。

2人の体が水飛沫でずぶぬれになる距離までくると、初めて海王ポセイドンは姿を現せた。

その姿は海の王に相応しく巨大で、片手にトライデントの槍を掲げ、ギラギラと燃えるような眼光でこちらを睨みつけている。

「……あたしが言うわ」

イワンの制止を振り切り、己の父に対峙したアーリアはゆっくり進み出るとおもむろに片手を上げた。

「宣誓!! わたしたちふたりはー、ここに変わらぬ愛を貫くことを誓いまーす!!」

途端に神、咆哮。海は荒れ狂い雷の乱舞。

「きゃー! パパ、パパ、落ち着いて!」

「ほらみろ、やっぱり無理だったじゃないか!」

慌ててアーリアをかばったイワンは、大暴れする巨大岩(に見える)に喉も裂けよとばかりに叫んだ。

「お義父(とう)さん! お嬢さんをおれに下さいッ!!」

「まあ、イワン……!」

思わず頬を染めたアーリアだが、神の怒りはさらにヒートアップ。地響きと共に波が2人を襲い、そのまま海に流された。

「ぎゃーーーーーー!!!」

巻き込まれる渦の中、抗うイワンにアーリアが必死に手をのばす。だがもう少しの所で届かず、距離は縮まらない。

「ふぁいっとぉおおおおーーーー!!!」

渾身の力を込めて、手をさらにのばすとイワンも応えた。

「いっぱぁあああーーーつ!!」

手と手ががっしりと繋がれた瞬間、再び波の打撃を受けて海中深くに叩きつけられた。

堪らず海水を飲み遠ざかる意識の中で、キラキラとしたものが見える。暗い海底でも美しく光り輝いている。

始めて見た、アーリアの鱗だった。イワンを守ろうと死に物狂いで海面に上昇しようとしている。

こんな所で気を失っている場合じゃない!

力を込めて水を蹴り、なんとか浜辺に辿り着いた頃には、2人とも肩で息をしていた。

「アーリア、その足は……」

「えへへ」

力なくアーリアは笑う。ドレスの裾からはエメラルド色の鱗に包まれた尾が覗いていた。

「これが本当のあたし。……嫌いになった?」

「バカか、お前は。そんな訳ないだろ、とっても、その……きれいだ」

「うわぁああああん!!」

突然抱きつかれて、イワンは浜辺にひっくり返った。

「すご嬉しい! すごく嬉しい!」

「重い! そして痛い! ちょ、尾っぽびったんびったんさせるな! ものすごくいた……」

アーリアの肩越しに見える光景に、イワンは息をのんだ。

遠くからポセイドンが目を光らせたままこちらに焦点を絞り、トライデントをゆっくりと構え始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。